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中国が空母を欲しがる4つの理由

中国が大連で2隻目の空母を建造中であることが報じられました。現在訓練中の「遼寧」は旧ソ連のアドミラル・クズネツォフ級空母を改修したものですが、2隻目は中国初の国産空母となります。王ミン・遼寧省共産党委員会書記が明らかにしました。
中国初の国産空母、6年かけ建造 4隻体制を計画(2014/1/18 日本経済新聞)
2020年までに4隻体制になる見込みです。ただし、この報道の元記事である『大公網』ならびにそれを引用した他の中国紙の電子記事は、現在ほとんど削除されてしまっています。軍事的な機微である内容であったためかもしれませんが、理由は不明です。

それはさておき、中国が3~4隻の空母を保有するという観測は以前からありました。「遼寧」の運用レベルは想定されていたよりも習熟度が早いようですし、2015年と見られていたJ-15艦載機の大量生産時期も前倒しされています。カタパルトの技術もすでに入手済みだとの情報もありますね。固定翼AWACSや空中給油機の問題にも取り組み始めていますから、劉華清提督以来の中国空母打撃群の夢は、現実に形を成しつつあります。

一方で、国産原子力空母はまだ少し先のようです。いずれは建造するでしょうが、無理はしないんですね。中国の海軍増強は、この堅実に進めるところが一番の脅威です。

さて、どうして中国は空母を欲しがるのか、そして空母艦隊にどのような役割が与えられようとしているのか?という点をもう一度取り上げておきたいと思います。過去記事からのまとめで恐縮ですが。

大国のプライド

中国は地域大国であることを自負し始め、政府や軍の高官が公に空母保有の正当性を主張するようになりました。もはや「韜光養晦(能力を隠して控え目に 振る舞う)」ではなく、積極的に「有所作為(なすべきことをなす)」姿勢へと転換したのです。中国では、「陸軍はほぼすべての国が持っているが、外洋艦隊を持つのは偉大な文明だけである」と言われるとおり、大国・中国にとって、国力の象徴とされる空母は「保有するのが当然」なものなのでしょう。

軍事的実用性から見ると、空母は無理に持たなくてもよい兵器だと言えます。なにしろ、1隻でうろうろするものではなく必ず艦隊を組織するのですが、その艦隊を揃えるのも高いコストや技術、ノウハウが要求されます。艦載戦闘機、早期警戒機、哨戒ヘリ、さらには潜水艦や高い防空能力を持つ駆逐艦、掃海や輸送のためのヘリ/固定翼の艦上輸送機などなど、空母艦隊を1セット揃えるのも簡単ではありません。さらにこれを運用するためのシステムや他兵種との連携、人員の育成や訓練システムの作成、補給(ロジスティクス)体系の確立など、満足に活動させるだけでも大変な労力を要します。現在、「遼寧」が行っているのは、この段階ですね。こうしたハードルを認識していてもなお、大国として揃えておかなければならない威厳のひとつが、空母、という意味合いもあります。

商船保護とシーレーン防衛

大国のプライド、というものは腹の足しになるものではありません。中国が空母開発に積極的に乗り出したより実質的な背景に、中東から輸入されるエネルギー・ルートの安全確保の要求があります。中国の原油輸入依存度は2020年までには60%に達すると見られ、輸入原油全体の8割が通過するマラッカ海峡は、最重要チョーク・ポイントとなっています。中国のエネルギー安全保障にとって死活的なこの海峡のコントロールを米軍に握られているという現実が、北京政府にとっては不安であり不快なのです。それでなくともマラッカ海峡は海賊が頻発する海域ですから、中国が対応策を検討するのは当然です。この、マラッカ海峡において中国が抱える潜在的な脆弱性を、マラッカ・ジレンマと呼びます。中国政府もこの脆弱性を公式に認めており、対策としてエネルギー・ルートの多様化を図ることや、中東から中国に至るシーレーンにある拠点の整備に着手しています(「真珠の首飾り」戦略)。

このように、経済の発展を担う海運ルート及び商用船の安全確保のために外洋型海軍(ブルーウォーター・ネイビー)を建設することは、国家としては自然な成り行きです。
中国が今後も経済発展を維持しようとするなら(それは当然であろう)、有力な商船隊を保有し、中国と交易を行う国の商船の航行が妨げられない状況を造り出さねばならない。もし中国の沿岸が、外国によって容易に封鎖されるようであるなら、国際政治の変化で中国と交易する国が激減する可能性があるし、また封鎖されるなら、中国がいくら独自の大商船隊を保有していても意味がない。

そのような状況にならないためには、有力な洋上航空戦力を伴う強大な海軍力を持たねばならない。どのくらい強力であればよいかといえば、中国の沿岸、領海の保安が確保され、かつ中国の商船が武力的脅迫を受けそうな不安定海域に、中国海軍力が常駐するか、迅速に駆けつけられる能力を持つことである。そのような不安定地域とは、ここしばらくの世界情勢から判断すれば、西太平洋からインド洋全域程度であろう

江畑謙介、『中国が空母をもつ日画像を見る』、1994年、97ページ
中国は米空母打撃群と制海権を争うつもりで空母を配備するのではありません。シーレーン防衛において、空母の持つ戦闘力とプレゼンスの効果を見込んでいるのです。

砲艦外交

ジュリアン・コーベットいわく、艦隊の第一の機能は「外交を支援したり、妨害したりすること」です。空母艦隊は、戦闘力とプレゼンス機能により強力な外交力を備えていますが、中国がその「外交力」を行使しようとしているのが、南シナ海です。海南島の戦略原潜基地に配備された潜水艦戦力と空母艦隊によって、南シナ海を「聖域化」しようとしているのです。

現時点での中国空母の戦力では、東シナ海で日本の海上自衛隊や米海軍を相手にするには荷が重く、台湾海峡ではただの大きな的になってしまいます。将来的に複数艦隊が揃い、補給能力などが一定程度まで充実すれば、インド洋でインドを牽制することも可能でしょうが、それはまだ少し先のことになるでしょう。

こうした点からも、「遼寧」や初期の中国空母艦隊の主戦場は、あくまでも南シナ海です。東南アジア諸国は潜水艦を増強するなどしてその海防力を高める努力をしていますが、中国の1個空母艦隊で十分恫喝することができます。また、長距離防空能力を持つ052C型・052D型駆逐艦を中核に、限定的な空母艦隊を構成する程度のエリア防空艦であればすでに中国は保有しており、これに福池級補給艦が随伴し、J-15が艦載されれば、東南アジア諸国にとってそのプレゼンスは大変な脅威となります。中国は南沙(スプラトリー)諸島における問題をあくまでも二国間で交渉していこうという方針ですので、空母艦隊のもたらす影響力を巧みに活用することは間違いありません。

また、パキスタンやスーダンのように、中国にとって重要な国家への寄港は、その国への支持表明になり、ひいてはその地域における中国の立場を確固たるものにします。さらに、インドや米国へも中国空母が訪問するようになれば、目に見える形の軍事交流として象徴化されるでしょうね。

非伝統的安全保障活動

中国は、2009年に海軍の戦略概念を「近海防御」から「遠洋防御」へ転換しました。事実、アデン湾への海賊対処任務やリビアでの自国民救出任務といった「遠洋」での活動に従事している経緯を見ても、地域紛争における戦闘任務だけでなく、非伝統的安全保障任務のプラットフォームとして空母の戦力投射能力が注目されているのは当然です。

ここで言う非伝統的安全保障任務とは、海上における対テロ活動、大量破壊兵器の海上輸送阻止、海上における平和維持活動、人道支援/災害救助(HA/DR)活動、非戦闘退避任務(NEO)などであり、空母の持つ戦力投射能力、運用の柔軟性が最大限に生かされるものばかりです。もちろん、海軍はこれらを主要任務と捉えているわけではありませんが、非伝統的安全保障活動は人民解放軍にとって、「中国脅威論」を煽ることなくオペレーションを実施する良い機会でもあることから、近年では他国との共同演習にも積極的に取り組んでいます。

ただし、アデン湾やそれ以遠への空母投入を考慮するのであれば、福池級補給艦の増設が必須です。加えて、洋上補給能力の向上には補給を受ける艦艇の側でも装備の改善が求められ、これは今後中国海軍が外洋へ進出する上での課題となります。

◇ ◇ ◇

空母はシステムの塊といっても過言ではなく、ノウハウを積み重ねて練度を高めるには時間のかかる課題ばかりです。言うまでもなく巨額の財政負担を強いることになりますし、シンボルとしての存在ゆえに、戦時には大きな的として狙われてしまいます。

中国は、現時点では米国式の空母運用は考えておらず、むしろ英仏に近いモデルを想定しているとみられます。南シナ海では砲艦外交に用いるオプションも想定されていますが、第1列島線の外へ展開する際は、あくまでも非伝統的安全保障活動や平時のプレゼンス確保といった役割になるでしょう。

中国海軍の増強は日本にとっても大きな影響を与えますし、その一環としての空母も象徴的ではあるのですが、中国空母の一挙一動にヒステリックに反応したり、日本も空母を持つべきだ!との意見には賛同しかねます。我が国としては潜水艦戦力の充実や日米同盟を確固としたものにすべく外交努力を果たすことのほうが、よっぽど有効です。

それにしても、多大なリソースを割き、扱いの難儀な空母をわざわざ配備するのですから、大国であることも楽ではないですね。

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