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ネットは深夜番組じゃなくなった。アングラでもなくなった。

 ここ最近、なんとなくネット炎上の質感が変わったような気がしていてモヤモヤしていた。けれども、今日の昼間、twitterでやりとりしているうちに、やっとモヤモヤ(の一部)を言語化できたような気がしたので、書いておく。

昔のネットは深夜番組、今のネットはゴールデンタイム

 昔のインターネットは、いわば深夜番組だった。

 観る人が限られ、視聴者の総人口は大きくない。オタクとギークと研究者、ごく一部の好事家がインターネットの主要メンバーだった。広大といえば広大な、狭小なといえば狭小な世界では、現在同様、善い出来事も悪い出来事もあったし、誹謗中傷や“荒し”もあった。2ちゃんねるでは“祭り”が繰り広げられていて、ギコ猫やモナーが祭りだワショーイと集まっていた。オンラインの揉め事がオフ会に持ち越されてトラブルになる、という話も耳にしていたから、当時のインターネットが安全だった、とは言い難い。

 それでもインターネットは深夜番組だったから、ウェブサイトにきわどい文章をアップロードしようが、ネットウォッチ板で専用スレがつくられようが、社会生活に致命傷を負わせるような性質ではなかった。一発アウトな書き込みといえば、殺害予告や犯罪予告のたぐいぐらいだっただろうか。企業にしても、例えば2ちゃんねるで“祭り”が盛り上がったところで所詮はアングラ世界での出来事で、企業が恥をかいた事実がテレビや新聞の世界まで届くことは少なかった。どれだけ大規模な祭りでも、それはネットフリークにとっての大事件であって、例えば、当時i-modeに忙しかった人達や、テレビしか観ていなかった人達には知るよしもなかった。

 そういう状況だったから、個人の実名や職歴がネットに晒されても、即座に致命傷になってしまうことは(無いわけではないとしても)それほどでもなかった、と記憶している。今にして思えば、それはネットがアングラだったから、深夜番組だったから、致命傷にならなかったのだろう。実名がわかっていて、今だったら瞬間炎上しそうな情報がネットウォッチ板に延々と書き込まれている人物でも、案外呑気にウェブサイトを更新している……という風景を案外みかけたものだ*1。そしてウェブサイトを畳んでしまえば騒動は終わりだった。ウェブサイトを畳んだ後もインターネットが追い縋って来るような危険は、まだそれほどでもなかったと思う。

 技術面でも、当時のインターネットはアングラ的というか、安っぽいマニア雑誌のようだった。まず、文字の割合が大きく、画像が少ない。あったとしても粗い画像で、ジオタグなんて貼って無かった。2000年代前半はまだ「公開された画像から住居を割り出す」ノウハウが普及しておらず、ネットウォッチ趣味の人間も絶対数が少なく、2ちゃんねる用語でいう「スネーク」も使い始めの段階だった。「マンションの窓から見える写真だけで本人特定」も今ほど簡単ではなかった。

 だから、インターネットでどれほど揉めようが、どれほど祭られようが、それは深夜番組で起こった揉め事であり、祭りであり、放送事故だった。社会の側も、企業の側も、インターネットを真面目に観なくて構わなかった。インターネットに真実があったとしても、所詮それはアングラだったのである。そしてネットユーザー自身も、いつでもネットから降りることが出来た。

 ところが、『電車男』あたりから風向きが変わった。

 『電車男』は、これまでアングラとみなされていたもの、ネアカ/ネクラ分類で言えばネクラに相当していたものに、突然メディアの光を当てた。2ちゃんねる。インターネット。オフ会。オタク。こうしたものがゴールデンタイムに放送され、視聴率を稼いだ。稼いでしまった。

 テレビタレント達が「実は僕はオタクで……」「萌え~」と言い始めたからといって、すぐに事態が変わったわけじゃない。けれども、2000年代の後半~2010年代前半にかけて、インターネットは着実に変わっていった。オタクもだ。それらは深夜番組の装いを日々失い、ゴールデンタイム的な明るさを帯びていった。

 その功罪については、ここでは於いておく。それよりネット炎上の話だ。深夜番組で放送禁止用語を喋るのと、ゴールデンタイムで放送禁止用語を喋るのでは(文脈上)深刻さが全く異なるように、インターネットが変わっていったことによって、炎上を巡る文脈も大きく変化した。

 ネット炎上は「所詮アングラ」ではなくなった。ネットの反響次第では、企業がすぐさま謝ったり、アカウントを閉鎖したり、訴訟を起こしたりするようになった。2000年代前半に比べると、明らかに企業はネットの文言を真面目に受け取り、きちんとした対処するようになっている。

 個人のネット炎上も意味合いが変わった。今、ネットで炎上の仕方を間違えると、ちょっとした悪戯心がとんでもない社会的制裁になりかねない。深夜番組では許されることでも、ゴールデンタイムでは許されないのと同じで、非難の声が殺到するのである。そしてインターネットがアングラというよりもパブリックに――いや、“世間”と呼ぶべきか――なっていったことによって、炎上はアングラ世界の晒しではなく、文字どおり世間に晒される事態に発展した。

「ゴールデンタイムなのに、誰でもステージに上れてしまう」

 そして、インターネットの文脈が深夜番組からゴールデンタイムは、アングラから世間へ変化したにも関わらず、インターネットのお立ち台に上るためのハードルはちっとも高くならなかった。

 これがテレビ番組だったら、深夜番組に出るための敷居とゴールデンタイムに出演するための敷居が全然違うわけで、ゴールデンタイムには、それなり粒の揃った、テレビの論理にも合致した人物がセレクトされて出演するはずだ。ところがインターネットは逆だった。インターネットがゴールデンタイムになるにつれて、むしろ出演者がセレクトされなくなった。年端もいかない女子中学生も、思慮分別の足りない男子高校生も、みんなワールド・ワイド・ウェブに文章や画像を垂れ流すようになったのだ*2。そしてリツイートやソーシャルブックマークやまとめサイトを介して、いつでもどこでも人がワラワラ集まってくるようになった。

 ここでは技術的卓越が悪く働いている。スマホについたカメラを使って、高品質な画像を手軽に投稿できるようになった。その画像にくっついたジオタグとSNSの組み合わせは、無思慮なユーザーの個人情報を筒抜けにしてしまう。リアルタイムでモバイルなインターネットは、「文章や画像を推敲する」時間を短縮し、考えない人間はますます考えないようになった。今、ネットを無思慮に使うことはきわめて容易いが、熟慮しながら安全に使うことはとても難しい。

 その結果、どうなったか?

 無思慮が招いたネット炎上を、あっちこっちで見かけるようになった。だが、この炎上はかつてのアングラ世界の炎上とは違って限り無く“世間”に近い炎上だ。だからこそ、大学生のアルバイターがネット炎上すると、内定を取り消され、企業に訴えられるような事態が起こり得る。ウェブサイトを閉鎖しても、インターネットをやめても、炎上の災禍がオフラインに追いかけてくるようになった。

 一方、企業や有名人はというと、今でもネット炎上しないわけではないけれど、炎上をコントローラブルにするための対処法を身に付けつつある。彼らは商売屋だから、それは当然だし、必要なことでもある。だが、素人はこの限りではない。ネットの右も左も弁えないような新規参入者達――その少なからぬ割合は、未成年者や二十代前半の若者で占められている――は、何をすれば炎上するのか、炎上したらどうなるのかも分かっていないまま、ゴールデンタイムと化したインターネットのお立ち台によじ登る。そして“武勇伝”を語ってみたり、“下着姿”になってみたりする……。

 **まとめ

 以上をまとめると、「ネットの文脈がアングラなものから“世間”的なものに変わったのに、誰でもお立ち台に登れるようになってしまい、炎上の質感が変わってきた」となるか。

 インターネットは深夜番組的なものからゴールデンタイム的なものに変わりつつある。そうした変化のなかで、どのようなネットユーザーが生き残り、どのようなネットユーザーが炎に呑まれて消えていくのか?十年前のインターネットにも、現在のインターネットにも、コンフリクトは絶えないし、淘汰はつねに存在していた。けれどもインターネットがまだアングラだった当時と、インターネットが“世間”になりつつある現在では、そこに働く淘汰の圧力、淘汰の方程式は当然違っているはずで、そうした違いは、ネット炎上の質感の違いにも現れているのではないかと思う。

 飽きてきたのでこのへんで。

 [関連]:ネットの社会化、「死にたい」の社会化 - シロクマの屑籠

*1:その一因は、ネットウォッチ板の標語「ネット先 さわらず荒らさず まったりと が意外とルールとして利いていたんじゃないか、と思う。今日のような、「炎上対象を皆でリツイートし、シェアする」とは異なったリテラシーが存在していた。たとえネットウォッチ板が陰に陽にテキストサイト等に影響を与えるとしても、ネットウォッチ板の書き込みはネットウォッチ板の書き込み「でしかない」ものだった

*2:もちろん90年代~00年代前半も、誰でもインターネットには書き込めた。けれどもそのためには、ある程度までPCやhtmlが操れ、まだ社会のインフラとして認知されきっていないインターネットを始めるぐらいの動機が必要だった。

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