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宇宙空間における対応_新防衛計画大綱等 その3

新大綱等関連で記事として取り上げる程話題性のある話は、今回の場合陸自関係がほとんどです。
ですが、それでは飽きてしまいますので、今回はちょっと毛色の違った話を書きたいと思います。

新大綱等で、サイバー戦とならんで、今後重視すべき機能・能力として、宇宙空間における対応が取り上げられています。

大綱
様々なセンサーを有する各種の人工衛星を活用した情報収集能力や指揮統制・情報通信能力を強化するほか、宇宙状況監視の取組等を通じて衛星の抗たん性を高め、各種事態が発生した際にも継続的に能力を発揮できるよう、効果的かつ安定的な宇宙空間の利用を確保する。こうした取組に際しては、国内の関係機関や米国との有機的な連携を図る。
中期防にも記述がありますが、ほとんど似たような内容なので省略します。

情報収集や衛星通信の活用は、今更言うまでもなく、現代戦では非常に重要です。

そこではなく、ここで注目なのは、”衛星の抗たん性を高める”としている点です。
もちろん、衛星に装甲を施すなどという話ではありません。

”宇宙状況監視の取組等を通じて”とあるように、アメリカと同じようなASAT(衛星攻撃兵器)対策を目指していると思われます。

具体的にどんなものかは、既に要求が上げられた26年度の概算要求に項目があります。
リンク先を見る

宇宙状況監視システムの導入可能性調査として1000万が要求され、衛星防護の在り方に関する調査研究にも2000万が要求されています。
また、人工衛星等に対する固定式警戒管制レーダー(FPS-5)の探知・追尾能力等の技術的な検証にも5000万が要求されています。

しかし、前者二つは、金と時間のムダではないかと思えます。
以前に、日本独自の早期警戒衛星取得の噂が出て、それを無用だと書いた構図と同じだからです。
参考過去記事:「日本独自の早期警戒衛星は不要だ!

宇宙状況監視システムを、日本独自に構築することは無理があります。
軍事的な危険性対策、つまり対ASATではなく、デブリ対策として構築するなら十分に可能です。

デブリ対策としては、日本でも2カ所の施設で観測を行い、デブリとの衝突対策に生かされています。
これは、恒常的な観測により、未発見のデブリを発見し、カタログに登録することで衝突対策に生かそうというものです。そのため、方法としても、視野角が数度しかない光学望遠鏡を用いています。

しかし、ASAT対策としては、これでは不十分です。そもそも、視野角が数度しかない観測手段では、ASATを捕捉する可能性自体が、それこそ万に一つです。
その点、FPS-5による監視は、十分に有用な可能性があります。

過去記事「誤報の原因と課題」に書きましたが、2009年の北朝鮮によるミサイル発射事案の際、防衛省が誤報を流した原因が、FPS-5が宇宙空間の飛翔体を発見してミサイル発射と誤認したことにありました。
前掲記事では、FPS-5の誤報を防ぐためにも、宇宙状況監視システムが必要だと書いたのですが、それだけFPS-5は宇宙状況監視システムのためのセンサーとして有用だということです。

それなら、FPS-5があるのだから、宇宙空間の飛翔体をカタログ化し、それと照合することでASATを発見する宇宙状況監視システムが作れると思うかもしれませんが、そうも行きません。

静止衛星は別として、日本の情報収集衛星等は、世界の上空を飛び回ってます。
中国が、日本の衛星をASATで攻撃する際も、日本の周辺で攻撃する必要性はないからです。
例えばモンゴルに近い甘粛省酒泉の酒泉衛星発射センターや四川省西昌の西昌衛星発射センターから西に向けてASATを発射したのなら、FPS-5でも捕捉できるはずはありません。

つまり、宇宙状況監視システムは、全地球的なセンサーを含めたネットワークがなければ、意味のあるものになりません。
当然、日本がシステムの恩恵に預かろうとするなら、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)にある宇宙監視ネットワークから情報を貰うしかないという事になります。

アメリカは同盟国とは言え、タダで情報をくれることなどありません。
しかし、日本が、FPS-5を使って、北朝鮮及び中国の東側から発射される飛翔体の監視情報を提供できるなら、十分にバーター取引可能な情報であるはずです。

こんな事は、自衛隊で宇宙関連もしくは弾道ミサイル防衛関連の業務に就いた人間なら、簡単に分かる話です。
しかし、内局やさらに上の政府関係者は、自衛官の話ぐらいでは納得しないのでしょう。
そのために、宇宙状況監視システムの導入可能性調査としてNORADへの出張・情報収集で1000万を使い、衛星防護の在り方に関する調査研究として、部外シンクタンクに2000万でレポートを書かせるという所ではないかと思います。
ムダも良いところです。

以前の早期警戒衛星の独自取得も、政治家がらみでした。
その後、話は出てきませんので、独自取得は無理があるとのことで説得できたようですが、今度は宇宙状況監視システムでも同じような構図が出来てしまっているのかもしれません。
企業の利権や、政治家との関係もあるのでしょう。

宇宙状況監視、及びそれによって、情報収集衛星の軌道変更を行い、攻撃を回避する衛星の抗たん化施策は必要です。
アメリカのシステムを利用及びそれに対する情報提供をするとなれば、集団的自衛権の問題も関係するでしょうが、やらなければならないことははっきりしています。
ムダな金を使うだけでなく、調査研究に1年もかける間に、さっさとアメリカとの協議を進めて、実際の抗たん化施策を講じるべきです。

【関連記事】
初めてまともに規定された戦略とドクトリン_新防衛計画大綱等 その1
画期的な戦車削減_新防衛計画大綱等 その2
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