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日本と中国は衝突する宿命にある 〜だってお隣さんだもの〜

書店に並ぶ雑誌や書籍を見ると、最近は中国脅威論にまつわるものが多いですね。個人的にも、中国海軍の情報をチェックしていると、本当に凄まじい“台頭”だと感じますし、隣国の国民として脅威を感じるのは当然だと思っています。と同時に、関心のある情報を集めていると、どうしても俯瞰的視点をなくしがちですし、自分で自分の危機感を過剰に煽ってしまっていることがあります。

国際政治学者の高坂正堯は次のようなことを指摘しています。
われわれはまず、われわれの直面している状況が、これまでに例のないものであることを強調しすぎないようにする必要があるかもしれない。これまで人びとは、困難な状況に直面したときにはほとんどいつも、それがこれまでに例のないものであると主張してきた。そしてそれはほとんどの場合、みずからをなぐさめる言葉に過ぎなかったのである(強調筆者)。
高坂正堯、『国際政治―恐怖と希望画像を見る』、52-53ページ。

この言葉は核兵器の出現と大衆社会の到来に関するものですが、中国の台頭に関しても言い換えられます。地域大国からの脅威という観点でみれば、日本にとっては19世紀末以降の帝政ロシアと冷戦期の旧ソ連があり、あの頃の方が今の何倍も絶望的雰囲気を味わえたはずです。

そもそも、大陸中国に大国が現れるのは歴史上初めてではありません。清帝国までの歴代王朝は地域大国として君臨しており、日本にとっても学ぶべき先進性を備えた文明でした。清帝国崩壊後からおよそ100年のあいだ、日本人が接してきた中国は弱く、分裂し、混乱していたので、私たちはこの期間の印象とその延長線上の想像で中国をみてしまいがちな気がします。例えば、近年の中国の成長は、“台頭”という言葉で表現されることが多いですよね。確かに共産党による中華人民共和国にとっては“台頭”ですが、大陸中国に起こった文明としてみれば、それは“復権”なのかもしれません。

中国は“復権”するにあたって、どうして日本や米国と衝突してしまうのでしょうか? こんな見方もあるよ、というおはなしです。

本能はランドパワーで理性がシーパワー

中国大陸は、かつて南宋という海洋国家を生み出しました。沿岸防衛を担当する沿岸制置使司が置かれ、所属官兵は約1万、船舶は数千を超える規模でした。さらに、ヨーロッパの大航海時代に先んじて明朝に鄭和(1371-1434)が現れ、全長120mを超える巨艦で60隻以上の船団を率いてケニアにまで達しました。

しかし、それ以外の歴代王朝は海軍(水軍)の規模こそ大きいものの、沿岸防備を主眼にしたまま、役割を近海や外洋へ向けることはありませんでした。ヨーロッパの海軍が海上通商保護に重点を置いていたのとは対称的です。これは、歴代中国が19世紀まで東アジアにおいて強大な国家であり、脅威が北方に限定されていたことが理由として挙げられます。さらに、歴代中国の交易は冊封体制を基本としていたために、海上交通は周辺地域から中国大陸へ向かう一方通行でした。自国商船の外海での保護を検討する必要がなく、国内の流通は黄河や長江といった大河川に依存していたことから、海軍(水軍)による海上交通の保護という概念が今世紀に入るまで希薄なままだったのです。

周知のとおり、現在の中国は過去に中国大陸に出現したどの王朝よりも海洋指向国家です。ただし、本来の姿がシーパワーでないことは、その海洋戦略から垣間見えます。ランドパワーの特徴である領土的野心がことあるごとに見え隠れしてますからね。本能はランドパワーで理性がシーパワーなのだと思います。

現在の中国がこうした両生類的性格をもつにいたった理由は、現実的な問題、すなわちエネルギー問題が動機となっています。改革開放以来、年平均9%を超える経済成長を続けてきた結果、中国はいまや米国に次いで世界第2のエネルギー消費国になりました。原油需要量もまた世界第2位で、石油純輸入国となっています。今後もエネルギーの安定供給は、中国の存続にとって死活的な問題であり続けるでしょう。中共中国がシーパワー的理性を備えるにいたったのは、このエネルギー問題に対処するための合理的判断を迫られたからなのです。

生存圏の拡大 → 衝突

ドイツの地理学者ラッツェルは、弱肉強食・適者生存の社会ダーウィニズムで地政学を論じ、「国家は生きている有機的組織体」であるとしました。そのうえで、「生き物である国家はその成長のために次々と領土を必要とする」のが当然であるという“ 生存圏(レーベンスラウム)”を提唱します。その後、スウェーデンのチェレンが、「国家は自給自足するために資源を支配しなければならない」という“ 経済自足論(アウタルキー)”を説きます。ラッツェルとチェレンの理論を取り入れたのが、駐日武官の経歴を持つハウスホーファーです。ハウスホーファーは、「国家間の生存競争は地球上の生活空間(=生存圏)を求める競争であり、国家が発展生存を維持するためにはエネルギーが必要である(=経済自足論)」としました。大東亜共栄圏構想はこのハウスホーファーの流れを汲むものです。

生存圏が拡大すると、いずれは他国の生存圏とぶつかります。帝国主義時代の列強同士の衝突や日米貿易摩擦も生存圏の衝突です。現在の中国も成長に伴ってエネルギーを中東やアフリカにまで求めるようになり、生存圏が拡大し続けています。拡大した中国の生存圏は、すでに日本や周辺国、そして米国の生存圏とぶつかり始めています。

目指すは地域覇権

ところが、生存圏の拡大に欠かせない貿易やエネルギーの流通路である海の大部分は、米国によって管理されています。現行国際秩序の守護者は名実ともに米国で、中国にとってはここが辛いところ。
ある形式の管理に服することは、ある形式の軍備縮小に服するのと同じくらい自国の立場を弱めることになる。 
高坂前掲書、49ページ

ルールに従う立場ではなく、ルールを作る立場が強いのは言うまでもありません。中国が現行秩序の中で大国化しても、ルールの制定者に危険視されてルール変更されてしまえば、その立場は一瞬で危ういものとなります。かといって、大海軍を建設して世界の海を制覇するのは当分実現しそうにありません。全球的なパックス・アメリカーナによる価値の体系に挑戦しようという意図も能力も中国にはありません(一部のはねっかえりの意見はさておき)。事実、中国は中東などでは米国などと協同して海賊対処任務に従事し、米国秩序の下でシーレーン防衛にいそしんでいます。

目下のところ、中国が目指しているのはグランドライン制覇ではなく、地域覇権です。世界規模では米国秩序を認め、むしろ航行の自由などの恩恵を享受しようとする一方で、地域規模では独自のルールを主張し、中華秩序の樹立を進めようというものです。南シナ海などでは、中国の法執行機関や民兵が国際法を無視して幅を利かせているのは周知のとおり。他国にとって、海警局の振る舞いは海賊とまでは言いませんが、王下七武海のような印象さえあります。いずれにせよ、自国の繁栄と存続のために、中国はできることなら第二列島線まで自分たちの秩序を確立したいところでしょう。

国際政治において各国が自給自足を目標としたのも、けっして狭い見解からだけではない。それは国家の独立の維持にとって必要なのである。しかし、国家は自国の独立を願いはしても、他国の独立を真剣に考えはしない。
高坂前掲書、85ページ

生存圏拡大と経済自足の確立は、中国でなくとも必要なアプローチです。かの国にとっては、米国のように地域に同盟国を持たないことも生存圏の自足路線に拍車をかけているのでしょう。ビジョンとしてはある意味まっとうなのですが、やっかいなのは、それが我が国の国益を害することがある点です。

中国の成長に脅威を感じるのは自然

中国問題は数十年という巨視的な基準で見た場合、世界政治のなかの最も重要な問題となるであろうと考えられる。こう言うことは、中国が侵略的とか好戦的とかいうことと何の関係もない。中国がいかに平和的であっても、七億という巨大な力が存在し、それが力を着実に増大させて行くことは、国際政治に対して大きな問題を与えるものなのである。いかに正当で自然な増大であっても、ある国の力の増大はこれに対抗しようという他国の反応を呼び起こすであろう。そして、それが巧く調整されない場合には、国際関係が緊張することは避けられないのである(強調筆者)。
高坂正堯、『海洋国家日本の構想画像を見る』、126ページ
『国際政治』及び『海洋国家日本の構想』はいずれも60年代に発表されたものでありながら、いまなおその論旨に古臭さがありません。高坂の言うとおり、国のサイズが大きければ大きいほど、その国の成長が起こす波紋も大きくなるのは自然の摂理ですよね。そして、そうであるならば、中国が独自の秩序を構築しようとする地域に属している諸国は、おのずと難しい舵取りが要求されます。

例えば韓国はバンドワゴニング(追従政策)に近い態度を見せたりもしています。米国はと言うと、中国はアジアにおいては挑戦国であることに間違いないのですが、世界規模の問題では協力を模索するパートナーでもあります。地域レベルだと日米は同盟国として利害を共有することができるかもしれませんが、世界戦略となると相違があり、むしろ場合によっては米中協力にとって日本が障害となることもあるので油断がなりません。

日中は衝突する宿命?

中国はすでに大国です。馬鹿にしたり見下したりできていた時代は遠くになりにけり、です。経済成長は鈍化し、これまでのような急速な肥大化はないとしても、我が国独自で牽制したり直接的にバランシングしたりするにはすでにデカ過ぎます。私は勢力均衡論者なので、ひとつの解が勢力均衡だと考えています。中国自身も合従連衡の歴史を持つように、我々は合従政策を採用すべきだと思いますが、この辺はまた別の稿で。

中国の傲岸不遜な態度に対して感情的になって国交断絶を叫んでみたところで、我が国の外交にはマイナスでしかありません。中国が大国である限り、そして生存圏の自足を確立しようとする限り、国交を断絶しても状況は同じどころか、対話の機会を失えばむしろ脅威は増すだけです。日中衝突の根本的原因は生存圏の衝突です。靖国や歴史認識や尖閣諸島などではありません。憎しみ合っていなくても、どちらかが均衡がとれないほどに成長する際にはぶつかります。帝国主義時代の日本が中国とぶつかったときも、やはり原因は生存圏の衝突でした。隣り合うふたつの主権国家がそれぞれに生存圏をもつ事実は変えようがありませんから、衝突の原因は地理的条件からくる宿命的なものと言うことができるかもしれません。しかも、この地域で地域覇権国の資質を持つのは日本と中国だけですし(米露除く)。たまたま、前の時は日本が、今回は中国の生存圏が急速に拡大しただけの違いです。生存圏の衝突自体は異例なことではないのです。

幸い、今日の私たちは前例に学ぶことができます。「前回」に学び、致命的な衝突だけは回避しなければなりません。まして、今回は受け身ですしね。衝突する宿命を嘆いても仕方なく、衝突しやすい条件がそろっているという現状を受け入れ、衝突を緩和する環境を整え、衝突の兆しが現れるたびに対処療法を施す以外に手はないのではないでしょうか。

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