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「死の泰麺鉄道」戦争の真実と和解(1)

日本でも今年4月に上映される英・豪合作映画『The Railway Man(邦題:レイルウェイ 運命の旅路)』が10日にロンドンで公開された。

先の大戦で旧日本軍の拷問を受けた英国人元戦争捕虜(POW)と憲兵隊の通訳として関わった日本人の再会と和解をテーマにした作品だ。

『英国王のスピーチ』でアカデミー主演男優賞のコリン・ファース、『めぐりあう時間たち』でアカデミー主演女優賞のニコール・キッドマン、『戦火の馬』の新星ジェレミー・アーヴァインが共演している。

元捕虜エリック・ロマックスさん(2012年10月に死去)の自伝に基づき取材を重ねて制作されただけに、旧日本軍憲兵隊による拷問シーンは直視できないほど残酷だった。

しかし、生きて帰った後も家族にも沈黙を続け、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と復讐心に苛まれる元捕虜が苦悩するシーンは想像を絶するほど痛々しかった。

舞台は、旧日本軍が1942~43年に連合軍の戦争捕虜、東南アジアの労務者に建設させた泰麺(たいめん)鉄道。タイからビルマ戦線に物資を輸送する補給ルートだった。

マラリア、赤痢、熱帯潰瘍、コレラが発生する高温多湿の密林地帯で強行された突貫工事は白人捕虜だけで約1万2400人の死者を出した。

捕虜を強制労働させるのはジュネーブ条約(捕虜待遇条約)に違反している。捕虜には日常的に暴力が加えられ、満足な食事も建設道具も与えられなかった。

死者が駆り出された捕虜の5人に1人にのぼり、旧日本軍の残虐行為の1つとして記憶される。

「死の鉄道」とも呼ばれる泰麺鉄道は、デビッド・リーン監督の映画『戦場にかける橋』(1957年公開)のモデルになり、作品賞など7部門でアカデミー賞を受賞している。

英国ではビルマで戦った部隊は、フランスのノルマンディー海岸に反攻上陸した勇ましいノルマンディー上陸作戦と違ってほとんど脚光が当たらず、「忘れられた部隊」といわれてきた。

さらに、最後まで戦わずに降伏し、大量の捕虜を出してしまった1942年のシンガポール陥落は「英国史上、最悪の失敗で最大の降伏だ」(当時のチャーチル英首相)と英国内では批判の目が向けられてきた。

元捕虜が口を閉ざしたのは、そうした背景以上に、仮に自分たちが戦争中に体験した出来事を話したとしても誰も理解できないと思っていたからだ。

仕事があるうちはまだ気を紛らせることができたが、退職して自由な時間が増えると、元捕虜たちの悪夢は激しさを増していく。トラウマに苛まれ、旧日本軍への復讐心を抑えきれなくなるのだ。

日本が高度経済成長を遂げ、1980年代、当時のサッチャー首相の政策で日本企業が英国にも進出。元捕虜は約40年ぶりに「日本」と再会し、軍服ではなくスーツに身を包んだ日本人ビシネスマンの姿に凍りついてしまう。

「俺たちは今もこんなに苦しんでいるのに、どうして日本人は何もなかったような顔をしていられるのか」

毎年11月11日(第一次大戦の休戦記念日)に一番近い日曜日に開かれるリメンバランス・デー(追憶の日)の行事に、高級百貨店ハロッズの買い物袋を両手に抱えた日本人観光客が物見遊山に出かけ、顔をしかめられたのもこの頃だ。

映画『The Railway Man(邦題:レイルウェイ 運命の旅路)』もまさに1980年代から始まる。過酷な戦争体験を心の中に閉じ込めた元捕虜ロマックスさんは鉄道オタク。列車で移動中、現在のパティ夫人と出会う。

しばらくして2人は結婚したが、物静かなロマックスさんは寝ている間、狂ったようにうなされ続け、昼間、突然、ナイフを振りかざすこともあった。パティ夫人は夫の心を少しずつ解きほぐしていく。

通信兵だったロマックスさんはシンガポール陥落で捕虜になり、泰緬鉄道の建設に駆り出される。日本軍に隠れて手作りのラジオで戦況を聞き、泰緬鉄道の地図を描いていたことが見つかり、憲兵分隊の拷問を受ける。

ロマックスさんに日本語はわからない。頭の中にこだまするのは通訳の声だけだった。木刀で殴られ、両腕を砕かれる。骨折した両腕に縄をかけられ引きずり回され、自白するまで水攻めの拷問が続けられる。

心が壊れそうになったとき、その日本人通訳が耳元で「しっかりするんだ」とつぶやいた。

ロマックスさんはパティ夫人の支えを受け、PTSDの治療に取り組んでいた。1989年8月15日、日本の終戦記念日に英字紙ジャパン・タイムズにタイのカンチャナブリ捕虜収容所で働いていたという日本人通訳の話が掲載された。

その通訳はロマックスさんの拷問に立ち会った日本人に違いなかった。永瀬隆さん。当時、71歳になっていた。(つづく)

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