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【読書感想】学校では教えない「社会人のための現代史」


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池上彰教授の東工大講義 学校では教えない「社会人のための現代史」


Kindle版もあります。

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学校では教えない「社会人のための現代史」 池上彰教授の東工大講義

内容(「BOOK」データベースより)

世界で活躍するカギは、学校では教えない「冷戦」とその崩壊を知ることです。池上彰教授のわかりやすい現代史講義を実況中継!


1月6日の夜に『Qさま!!』の3時間スペシャルを観ていました。

この番組に、名だたる進学校のなかでも成績優秀で、東大進学確実なんだろうな……という生徒たちが出演していたのです。

彼らは、争って「Fine Play!」になるような、後半の難しい問題から解答していき、後半の解答者には、簡単な問題しか残りません。

こりゃすごいな……と、僕は観ながら、圧倒されるばかり。


ところが、そんな彼らが「世界の現代史」には、けっこう苦戦しているように見えたのです。

「フォークランド紛争で勝ったのは、イギリス or アルゼンチン?」(1982年)

「湾岸戦争に勝ったのは、イラク or 多国籍軍?」(1991年)


1970年代のはじめに生まれた僕にとっては、リアルタイムで経験してきて、記憶にも残っている出来事です。間違えるわけがない問題。

彼らがこの問題に苦戦したことに、僕はけっこう驚いてしまいました。

どうやら、1990年代後半に生まれた「超優秀な高校生たち」には、「自分が生まれる少し前の時代」というのは、ある種の「盲点」になっているようなのです。

受験にはほとんど出ないということもあり、世界史の授業は「現代史」にたどり着く前までにタイムリミットを迎えてしまうし、自分が直接経験したわけでもない。

彼らでさえそうなのですから、普通の高校生や社会人にとっては、なおさらのことでしょう。

そして、僕自身も、「自分が生まれるちょっと前の時代に起こったこと」って、実はよく知らないんですよね。

時代でいうと、太平洋戦争後から、1960年代くらいまで。

それを学ぶ機会というのも、あまり無かったし。


池上さんも、いまの大学生の「歴史の知識の盲点」を実感して、この講義をはじめたのではないか、と僕は思います。

ちょっと上の世代からみれば、直接自分が体験して知っている有名な事件や人物は「知っているのが当然」なのだけれども、だからこそ、それが下の世代にとっての「盲点」になっていることに、なかなか気付かないのだよなあ。

いまの時代の問題と繋がっているところも多い、「現代史」が、エアポケットになりがち、なんですよね。

そして、みんなそれぞれ、その「盲点の時代」がズレているので、上の世代からすると「なんでいまの若い連中は、あんな有名な事件を知らないんだ?」と感じてしまう。

「阪神淡路大震災」や「オウム真理教の一連の事件」も、若い世代にとっては「そういうことがあったのは知っているけれども、年表上の知識として以上の実感はない」し、それがある意味「当然」なのです。


池上さんは、いまの世界を形づくっている枠組みのひとつとして「冷戦時代」のことを詳しく解説しています。

僕が子どもだった、1970年代後半から、1980年代前半くらいまでは「ノストラダムスの大預言」なんて本が大ベストセラーになって、「1999年に、恐怖の大王(=核兵器)が大量にふりそそぎ、人類は滅亡するのではないか?」と、みんなでよく話していたものです。

30歳まで生きられないのだとしたら、学校で勉強するなんて、バカらしくない?って。

まあ、結局その預言は外れてくれたのですけどね(そもそも、あの預言そのものも、かなりいいかげんな解釈であったのは『と学会』その他が検証していた通りです)。


いま、僕がこうして利用している「インターネット」の技術のルーツについて、池上さんは、こう説明しています。

 実は、このインターネット技術、東西冷戦によって生まれたものです。アメリカとソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が厳しく対立していた東西冷戦時代、両国は核戦争を覚悟し、その一歩手前まで差しかかったことがあるほどです。アメリカ軍は、もしソ連からの核ミサイルによって、中央のコンピューターが破壊された場合、国内の軍の連絡網が壊滅してしまうことを恐れました。そこで、中央の大型コンピューターを経由することなく互いに連絡できるネットワークシステムの研究・開発を進めました。

 そしてソ連崩壊。軍事目的に必要性が薄れたと判断したアメリカ軍は、構築したコンピューターのネットワークシステムを一般に公開。これがインターネットの出発でした。いったん情報が公開されますと、世界中の技術者が、これを使った新システムの開発を始め、現在のようなネット社会が誕生しました。

 そのネットワークが、アメリカにとって極秘の情報収集を容易にしたのですから、皮肉なものです。それとも、アメリカ軍は、そこまで予想して技術情報を公開したのでしょうか。


 ソ連に対する軍事的な必要性から生まれた「インターネット」が、ウィキリークスやスノーデン事件によって、「アメリカの秘密」まで、世界にばらまいてしまっているのですから、皮肉なものです。

 

 この本を読んでいると、「なんとなく知っているつもりでいたけれど、実はよく知らなかった歴史的な事象」がたくさんあることを思い知らされます。

 たとえば、「ベルリンの壁」のこんな話。

 ベルリンの壁が、東西ドイツを分断するものだったと思っていた人は多いのではないかな? やっぱり多いね。でも、そうではありません、東ドイツの中にある西ベルリンの周りをぐるりと取り巻く壁だったのです。

 ただし、西ドイツ側から鉄道と高速道路で入るルートは引き続き存在していました。東ドイツ国内では鉄道は停車することが許されず、高速道路も隔絶されていました。


 これ、僕も「ベルリンの壁」が、どんなつくりになっているのか?は知らなかったんですよね。

 漠然と「東西ドイツを仕切る巨大な万里の長城」みたいなイメージしか持っていなくて。

 僕の親世代、この「壁」がつくられた時代に物心ついていた人たちにとっては「常識」なのかもしれないけれども。

 この本には、「ベルリンの壁」の構造も図示されています。


 また、ニュースでよく聞く言葉についての「現実のイメージのギャップ」に関して、こんな話も出てきます。

 各地に「パレスチナ難民キャンプ」が作られましたが、難民生活が長引くにれ、テント生活の「キャンプ」は、恒久的な住居に変わっていきます。「難民キャンプ」という名の都市が生まれていくのです。

 これまで私はいくつもの難民キャンプを取材しましたが、いずれも立派な都市を形成しています。しかし、あくまで一時的な収容施設という建前がありますから、下水道などの整備は行われず、衛生状態は決してよくありません。

 難民であるために、その国で就職することはできず、閉ざされた空間で生活すす閉塞感に悩まされています。


 「キャンプ」という名前がついているので、みんながテント生活をしているようなイメージがあるのですが、それが長引くと「都市化」していくのです。

 とはいえ、インフラが不十分なところで、大勢の人が長年生活するというのは、かなり不自由で、疫病などの危険も高くなるのです。

 

 この本のいちばんの魅力は、世界の現代史を取材し続けてきた池上さんが、「現代人の目からの俯瞰」だけではなく、「当時の人たちの見かた」を、きちんといまの若者たちに紹介していることだと思うのです。

 ベトナム軍のカンボジア侵攻は、世界を驚かせました。

 ベトナム戦争やカンボジア内戦当時、ベトナム共産党とカンボジア共産党は、協力していたはずなのに、戦争になってしまったからです。

 当時、日本を含め世界の社会主義者たちは、「社会主義国同士は戦争しない」と信じていました。それが裏切られたのです。その後、中国がベトナムに侵攻し、さらに期待は裏切られるのですが。

 ベトナムによるカンボジア侵攻は、論議を巻き起こしました。ベトナム軍が侵攻しなければ、カンボジア国民の犠牲はさらに増え続けていたことでしょう。ベトナム軍が、これを阻止したことは明らかです。

 その一方で、カンボジアへの侵攻は、明らかに侵略行為です。

「他国の人々を救うため」と称して侵略することが認められるのか、という論議です。

 つまりは、「人道的介入は認められるのか」との問題になります。

 その後、東西冷戦が終わり、旧ユーゴスラビアが解体する中で始まった内戦では、ヨーロッパの北大西洋条約機構(NATO)軍が介入し、セルビアを攻撃しています。これも「人道的介入」として論議を呼びましたが、セルビアによって犠牲を出していたボスニア・ヘルツェゴビナの住民を助けたことは事実です。

 これにより、「ある国の中で反人道的行為が広範囲に行われている場合、国際社会は人道的介入が許される」という理論として結実します。

 こうした国際社会の難問を喚起することになったのは、カンボジアが端緒でした。


 ベトナム軍がカンボジアに侵攻したのは、1978年。

 当時のカンボジアでは、悪名高いポル・ポト政権下で、大虐殺が行われていました。

 ポル・ポトは、国内の不満をそらすために、反ベトナム感情を煽っていたのです。

(この本によると、フランスによる植民地時代に、フランス人がカンボジアの統治にベトナム人を利用していた、という背景もあったそうです)

 いまの時代を生きている僕からすると、ポル・ポト政権を打倒したこの侵攻は「多くの人々を救った」と思うのですが、他国への侵攻は侵攻、なんですよね。

 そして、どこからが「人道的介入」なのか?という線引きは、とても難しい。

 それにしても、当時の社会主義者たちは「社会主義国同士は戦争しない」と、本気で信じていたのか……

 「頭の中がお花畑なんじゃない?」と言いたくなるような話なのですが、それが固く信じられていた時代があったということは、知っておくべきだし、人間って、そういうものを案外信じてしまうものなのです。「その場」にいれば。

 それは現代人にとっても同じこと、なんですよね。

 35年後の日本人に「2014年の連中は、日米同盟が未来永劫続くと信じていたのか……なんてお花畑なヤツらだ……」と言われている可能性もあります。

 人って、同じようなことを繰り返す性質があって、だからこそ、歴史に学ぶところは大きいのです。

 まあ、「歴史に学び続けているはずなのに、その成果が反映されているのかは微妙……」というのが、人類の歴史ではあるのですけど。


 これを読んで、「そういえば、冷戦以降の現代史って、あんまりよく知らないなあ」と思った人は、ぜひ読んでみてください。

 「試験には出ない現代史」ではありますが、この本一冊読むのは、「有意義な寄り道」ですよ、きっと。

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