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2014年米国スポーツ界のトレンド予測

昨年に続き、今年も独断と偏見に基づいて米国スポーツビジネス界のトレンドを予測します。これは、昨年一年間で僕が肌で感じた動向を踏まえ、今年大きな流れになりそうなものを整理してみたもので、極めて感覚的なものです。正確な調査や数値に基づくものではない点はどうかお含み置き下さい。

■試合観戦のテレビ視聴との差別化

米国スポーツビジネスにとって最大の脅威とは?」でも書きましたが、目下球団経営者が一番気にしている課題の1つが、スポーツ観戦をテレビ視聴といかに差別化するかという点です。従来まで、テレビ視聴は試合を生で観戦する臨場感(迫力やスピード感、歓声)にはかなわないという根拠のない前提が置かれていたのですが、どうもこの前提が怪しくなってきています。

今年は、アリーナやスタジアムでの「顧客体験」をテレビ視聴と差別化するための取り組みが一層進むことになるでしょう。

具体的には、「観戦」以外の付加価値を創出するために、パーティー席やエンタメエリアの設置など「ハード」の面と、プロモーションや映像コンテンツの充実化など「ソフト」の面の双方から実現されていくことになるでしょう。

■チケット販売市場の統合(スポーツ組織の巻き返し)

ここ数年、スポーツ組織は再販業者との間で熾烈なチケット販売における顧客争奪戦を行っていました。「再販サイトは悪か?」でも書きましたが、元々はPrimary Market(一次市場)で硬直的な価格構造しか提供されていなかったスポーツ組織側から、顧客がSecondary Market(再販市場)に逃げ、これに危機感を抱いたスポーツ組織側が価格変動制を取り入れるなどの巻き返しを図ってきたという流れになっています。

スポーツ組織の立場からすれば、自由市場の原理で価格を決める再販業者は、自分達の価格政策を破壊する「悪者」に見えるわけです。ただ、ここに来て、再販業者の中にも別の流れが生まれていきています。

完全自由市場の原理で価格を決める企業だけでなく、ある程度スポーツ組織側の事情を斟酌した再販システムを提供する業者が登場し出したのです。前者は、再販価格は売り手と買い手が自由に決め、業者はそれに関与しませんが、後者は例えばPrice Floor(販売価格の下限)を入れるなど、一定の規制を入れることでスポーツ組織の利害を守ってくれます。

前者の代表的な業者はStubHub、後者はTicketmasterやFlash Seatsなどでしょう。

で、昨年12月に大きな動きがありました。TicketmasterがNFL、NBA,NHLと組んでPrimaryとSecondary両市場を統合したチケット販売システムを提供することに合意したのです。4大スポーツではMLBは再販市場でStunHubと組んでいますが(一昨年、契約を延長)、それ以外のリーグはMLBとは別の方向に進んでいくようで、この流れが大きくなって行きそうです。

■薬物への対応強化

ヤンキースのAロッドの薬物違反に対して、苦情調停の裁定が来週あたりに出そうですが、恐らく(出場停止期間の若干の短縮はあるかもしれませんが)MLB側の主張が認められる結果になると思います(この件はYahoo!ニュースのコラムで書いていますので、経緯などを詳しく知りたい方はこちらをご覧ください)。

WADA Codeに比べれば、米国4大スポーツの薬物規定は緩く、例えばMLBの薬物規定だと1回目の違反で50試合、2回目で100試合、3回目で永久追放ですが、WADAなら1回目で4年間の出場停止(今年から4年になりました。昨年までは2年)、2回目で永久追放です。

NFLでも、ヒト成長ホルモン(HGH)の検査導入で労使が合意しているものの、その手順を巡り意見がまとまらず、正式な実施には至っていません。

米国において選手の薬物使用は「公然の秘密」であり、ファンも別に選手が薬物を使っていても驚きませんが、そうはいってもここまで大物の薬物違反が続くと「もういいかげんにしろ」という気持ちになっていると思います。昨年はランス・アームストロングのドーピング告白などもありましたし。

ミッテェル・レポートがMLBビジネスに与える影響」などでも書きましたが、従来まで薬物違反が直接的にスポーツビジネスの収支には影響を与えませんでした。しかし、ファンの我慢もそろそろ限界に来ているように思います。こうした点を踏まえ、スポーツ組織側も重い腰を上げて薬物への対応強化を迫られる年になるのではないかと思います。

■データサービスの本格化

これは最近「米メジャースポーツのデータ革命はリーグ主導」で書きましたが、スタッツデータを活用したファンサービスが本格化していく流れが更に強まりそうです。

スタッツデータの取得には、従来のスカウティングのレベルにとどまらず、選手にRFIDを入れて位置情報を取得したり、運動量を換算してみたりと、様々なアプローチが生まれていますし、今後もより多様な切り口が開発されていくでしょう。

■ビデオ判定の一般化

今米国のスポーツで最もビデオ判定が進んでいる競技の1つはフットボールです。今では、微妙なプレーはほとんど全てのプレーがビデオ判定されるようになっており、概ねファンもこれを受け入れているように感じます。

僕もフットボールはよくテレビでみるのですが、個人的にも審判はかなりのトレーニングを積んでおり、「本当に細かいところまで良く見てるよな」と思うことが多いのですが、やはり人間の視覚の能力を超えた瞬間的なプレーというのは、ビデオ判定がフェアだし、これによって競技の性質が変わることも思ったほどない(要は慣れの問題)と感じます。

今年からは、従来まではホームランの判定に留めていたMLBも、ストライク判定以外の全てのプレーにビデオ判定を拡大します。米国のスポーツファンの間では、ビデオ判定が一般化する年になるのではないでしょうか。

■学生への報酬

例のオバンノン訴訟の公判が今年の6月から開始される予定です。Yahoo!コラム「NCAAを破産させうる訴訟に進展あり」などでも書いていますが、裁判所もNCAAが規約により学生への報酬の支払いを禁止している部分については、集団訴訟により争うことを認めています。

この判断が6月からの公判でなされることになりますが、「学生に報酬を支払うべきか」という古くて新しい議論が沸騰するのは必至です。今までは賛否が分かれる状況が長く続きましたが、司法審査により一定のラインが引かれることになります。

恐らく、和解にならなければ最高裁まで行くような性質の事案だと思いますが、司法判断の経緯・内容によっては、2014年が学生への報酬を解禁する元年になるかもしれません。

■脳震とう(安全性)への対応

これは昨年も書きました。最初はNFLのOB選手による訴訟が発端でしたが、これがNCAA、NHLにまで拡大しています。先月、MLBでも自殺した元選手の脳からCTE(慢性外傷性脳症)が見つかっており、MLBへも脳震盪訴訟が拡大する恐れがあります。NFLは約4500名の原告団と昨年和解しましたが、その和解金は8億ドルにも及びます。

スポーツリーグは、こうした金銭的な負担よりも、将来的に子供の競技人口が減り、長期的に人気が低迷することをなによりも恐れています。そのため、NFLなどは競技の性質そのものを変えてしまいかねないルール変更も厭わずに実施しています。こうした短期的には選手の安全性への配慮、長期的にはファン基盤の弱体化への対応が引き続きなされていくでしょう。

■LGBT

あと1か月でソチ五輪が開幕しますが、ロシアでは伝統的な価値観が根強く、同性愛を認めないとする意見が4分の3を占めるそうです。オリンピックに備え、同性愛者の活動を規制する法律をロシア政府が施行したのは記憶に新しいところですが、これが逆にスポーツとLGBTという視点にスポットライトを当ててしまったように思います。

スポーツとLGBT」でも書きましたが、昨年4大メジャースポーツで現役選手が初めて自身がゲイであることを告白しました。ソチ五輪への米国選手団の中にも、同性愛を公にしている選手が少なくとも3名います。

米国では同性婚容認の流れも強まってきていますし、オリンピックでの宣伝効果などもあり、米国スポーツ界がLGBTをより広く受け入れて行く年になっていくでしょう。

以上、勝手ながら2014年の米国スポーツビジネストレンド予測とさせて頂きます。

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