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現在のネットは「群集」を生成する装置になっている~コラムニスト・小田嶋隆氏インタビュー

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「私」が文章から溢れ出てしまっているのが、「ポエム」

―今回の著書のタイトルにも入っている「ポエム」の定義について改めて教えていただけますか。

小田嶋:本の中でも矛盾した定義が3つぐらい並んでいたりするんですが(笑)。散文であれ、記事であれ、広告のコピーであれ、ものを書く人間がそれを書いていながら、きちんとつくられていないもの、中途半端なものが、「ポエム」という形で着地するんじゃないかと。

最近流行りの「思い」という嫌な言葉がありますが、うまくいえなくて、“自分”が漏れ出してしまっているものが「ポエム」といえるでしょうね。特に書き手の「私の」とか「私が」などが文章からあふれ出してしまっているものは、おおむねポエムになってしまいがちです。

―ポエムの例として、サッカーの中田英寿選手が引退する際にブログに掲載した文章を挙げています。

小田嶋:文章というのは、誰に向けて書いているのかで変わります。手紙として、特定の誰かに向けて書いてある文章と、読者に向けて書いている文章と、日本語を読める全員に向けて書いてある文章があれば、それぞれ書き方は違うはずです。

中田選手の文章も、彼が自分の個人的ブログにただアップしただけのものであれば、まったく問題ない。でも、実はあれを発表する段階で事務所の人間が絡んでいて、ニュース番組で古館伊知郎が2回も読み上げた。こうした計算された独白としての運用のされ方が、非常に不愉快な「ポエム」だったと感じる要因になるんですよ。

よく文章を書くときに、「自己表現」という言葉が使われますよね。でも本来、文章は何かを伝えるために書くわけですよ。その結果として、文章の中に自分というものが現れるんです。対象について書いているのに、その書き方や切り取り方、表現の仕方にその人ならではの言葉の特徴や文体が現れていて、それが自己表現になる。

例えば、ピアノであれば同じ曲を弾いても、弾く人によってタッチが違う。弾き方の強さやテンポのとり方などに、それぞれの特徴が出ます。ピアニストは、ピアノを弾くことで音楽を表現しているわけで、自己表現をしているわけではない。音楽を伝えていても、弾いている人の個性が現れているから、結果的に自己表現になる。あの演奏は彼ならではだよねと。

でも、文章の場合は音楽と違って言葉があるので、「俺ってこうなんだよね」「俺の生き方ってさ」みたいな文章が、自己表現だと勘違いされがちなんですよ。そういうのは正に自分が主題の文章なわけです。これをやっちゃう人たちが凄く増えている感じがしていて、それにはネットの影響も非常に大きいと思います。

ブログは、そもそも日記だから構いません。ブログの中で、「○○食ってうまかった」「こないだから一日2時間しか寝てない」みたいなことを書くのは、まったく問題ないし、その到達範囲がお友だち、あるいはブログ読者に対してであればいい。でも、これが新聞みたいなメディアの社説とか、もう少し公に開かれたものの中で、「俺ってさ」みたいな話をされると「お前の話きいてないんだけどなぁ」という違和感があるんですよね。

―最近、「結いの党」という政党ができましたが、こういう党名も「ポエム的」だと論評されていましたね。

小田嶋:「結い」とか「みんな」という単語は大和言葉ですよね。漢語で作った「認識」とか「行動」といった言葉ではない。例えば、「心情」や「エモーション」などと言うと、元が漢字や英語なので、言葉のニュアンスが凝縮しているように感じます。一方、大和言葉というのはもう少し曖昧として、もやっとしたものになる。

古くからある言葉だから、それだけニュアンスが豊富なわけですが、意味が限定された、論文のような知的な文章に耐えうる言葉なのかというと違って、「こころ」という言葉を使った瞬間に、もう既にそれはポエムのにおいを発しているわけです。「思い」や「きずな」もそうですが、大和言葉で発せられる言葉というのは、それだけポエミーな、私的な言葉なんですよ。

「涙」や平仮名の「おんな」とか、演歌に出てくるような言葉です。J-POPでも、例えば「私の認識する~」なんていう歌詞はありえないわけですよ。「僕のマインドセッティングは~」みたいな歌はない。まぁ、まったくあり得ないことはないんでしょうが「俺の思いが~」の方がしっくりくる。こうしたポエムの言葉は、その領域で使われるのはいいですが、「みんな」とか「結い」みたいに政党名の中で使われると、ちょっと変なんですよ。

昔はお役人も硬い言葉を使っていましたが、最近は何かと「ふれあい広場」とか言いたがる。アナウンサーが使う言葉でも「○○に寄り添う政策」式の言い方をする。昭和の頃であれば、そういう言い方はしないで、「障害者のためになる」とか「児童福祉に寄与する」という言葉遣いをしたと思うのですが、それが「子どもたちに寄り添う」といった言い方になっている。そういう柔らかい言い方でやんわりと伝えていこう、というのをお役人にやられると猛烈に胡散臭く感じるんですよね。

―小田嶋さんがコラムニストとして文章を書くときに特に注意されてる点はありますか?

小田嶋:私は以前、テクニカルライターと名乗っていましたが、これは当時の流行に乗っかっただけなので、長く使う肩書きじゃないと思っていました。

あるインタビューに応えた際に、「エッセイスト」と書かれたのですが、「エッセイスト」と言われると、嫌な気持ちがしたんです。その時に、「『エッセイスト』じゃなくて『コラムニスト』にしてください」といったのをきっかけに肩書きを聞かれると「コラムニスト」と答えるようになりました。

大まかに定義すると、コラムというのは対象寄りのものなんですよ。例えばコーヒーについて書きます、といった主題を与えられて書くのがコラムです。「コーヒーから見る世界の貿易」「コーヒーがつくる人間関係」みたいなものがコラム。一方、エッセイというと「コーヒーと私」みたいなものなんです。「私のコーヒー遍歴」とか「私の恋を彩ったコーヒーたち」みたいな「私」「私」な文章で、とにかく誰が書いたか、というのが非常に重要なのがエッセイです。

でも例えば、綺麗な女優さんが「京都に行きました」なんて書くと、それだけ絵になるような感じがする。「京都にいって嵯峨野の辺りを歩いてきたんですよ」なんていうのは「だから、何が言いたいんだよ」と言いたくなるようなくだらない文章だけど、紅葉の京都を綺麗な女優さんが歩いているという映像を喚起してくれただけで、ファンは嬉しい。これがエッセイですね。なんかすごくバカにしていますけど(笑)。

でも、「京都いったよ。嵯峨野が紅葉だったよ。きれいだったよ。じゃあね」というのでは、コラムになっていない。京都のこの30年の変化なり、京都で出される和菓子がいかに人をバカにしてるか、みたいな“何か”を書かなきゃいけない。そこがコラムとエッセイの最大の違いでしょう。

文章は牛が反すうするように“いじくりまわせ”

―最後に、今回の本は特にどんな方に読んでほしいですか?

小田嶋:連載されていた「新潮45」は比較的年配の方が呼んでいる雑誌なので、若い人に読んでほしいと思います。

若くて文章が上手な人たちを見ていると、もっとネタをいじくり回して欲しいと思うんですよ。「そのまますっと書くなよ」「もっとやれるのに」という気がするんです。パソコンで書いたものをすっと流していることの残念さを感じてしまう。

今は、すごく文章の量が増えています。作家人口が増えたという部分もあって、文章力の平均値のレベルは絶対に上がっていると思います。素人でそこそこ文章上手だよ、という人の数は20年前に比べれば、凄い勢いで増えているでしょう。20~30年前の若者というのは、そもそも文章を書く習慣がなかったので、話せばすごく面白い奴なのに、文書を書かせてみるとちゃんとした「てにをは」ができないっていう人間が山ほどいました。

でも、最近は基礎的な素養がある人がほとんどですし、頭の中にあることを順序だてて伝える文章力というか文法力は広く共有されている。ちょっとメール書いたり、Twitter使ったりといった短い文章でのコミュニケーションが発達したこととあいまって、かいつまんでものを言うことがみんな上手になったんですよ。一方で、その副作用みたいなものもあるわけです。

本職の文章家だけがやっていた、文章を最後の最後まで推敲して、時間かけてクオリティを高めるといった部分が減っているように思うんです。文章力も観察力もある人間は、一回書いたものを、もう一回牛が反芻するみたいにいじくりまわして欲しいと思います。ちょっといじりすぎて困ったな、というものができる場合も多いんですが、そこまでいじくり回す習慣が失われているのではないでしょうか。

私も手で書いていた時代は原稿を書き始めて最初の3年間ぐらいしかありませんが、手で書いている人たちは書いたものに赤を入れて、また書き直してというように、物理的に言葉をいじくり回すときの手間の掛け方が違うわけです。事実確認やウラ取りについても、ググッて見れば終わりで非常に助かっている部分もありますが、昔は調べ物するときに結構苦労したわけです。そういうことを調べる過程で何か別のネタを拾ってくるといったこともあったので、「くだらん手間をかけてくれ」というのはちょっと思いますね。

プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし):コラムニスト。1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在ではコラムニストとして活躍中。
Twitter:@tako_ashi







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