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「少年H」

 ベストセラーになった妹尾河童さんの「少年H」の映画化。素晴らしい映画だった。

 面白い映画だった。戦争は、本当に本当に嫌だ。絶対に起こしてはならない」と、ひたすら思った。

 この映画は、少年H(はじめ君。母がセーターにHと刺しゅうしたので「H]と呼ばれている)の眼を通して戦争が描かれている。神戸に住む一家の物語。

 Hの父親、盛夫さん(水谷豊)は、紳士服の仕立屋さんで、居留地に住む外国人を相手に商売をしている。リベラルで優しい人。両親ともクリスチャンで教会に通う。お世話になった宣教師の女性が、アメリカに帰ってHに絵ハガキを送ってくれる。その絵ハガキをHが友人の一人に見せたら、そのことが広がって、「アメリカと内通しているのではないか」という疑いで盛夫さんは、警察に呼ばれ拷問を受ける。向かいのうどん屋のお兄ちゃんは、思想犯として捕まってしまう。そんな社会状況になっていく。

 Hは、中学校に入学するが、毎日軍事教練の日々。ついに、神戸が空襲にあう。すさまじい焼け野原。炭のように焼けてしまった人々の死体。一人、家族をさがして歩く盛夫さんの姿が、戦争とは何かを雄弁に語っている。

 私は、集団的自衛権の行使を認めようとする政治家たちに、この映画を見て欲しいと思った。そして、戦争を知っている人、知らない人、こどもたちに見て欲しいと思った。

 少年Hは、のびのびした家庭で育ったので、「なぜ?」「どうして?」「それはおかしい」と言える子だ。学校で、すぐそうして教官に生意気だと殴られたりする。生き生きのびのびした、イガクリ頭の少年の眼を通じて、戦争に突入する日常が描かれているので、新鮮な映画だ。

 ここでは、ジェンダーという視点から、父親像盛夫さんについて書きたい。

 盛夫さんは、様々な国の外国人と接しているので、開明的でリベラルな人である。私は戦前にこんなにソフトで優しいお父さんがいたのかと感動した。権威主義ではなく、上から目線ではなく、子どもの心にしっかり対等に向き合っている。威張らない父親像はいいな。

 盛夫さんは、自分の考えや信念を持っている。それは、妻の敏子さんもそうである。

 二人ともバリバリのクリスチャン。当時の風潮に大きな違和感を持っている家族である。そして、正直にきちんと子どもに伝えようとする。少年Hに、「日本はこれからどうなるのか?」と聞かれた父親はこう答える。「それは、お父ちゃんにもわからない」と。

 Hがアメリカからの絵ハガキを見せたのは級友一人だけ。Hも「スパイ」と呼ばれ、盛夫さんが拷問を受けるのは、その絵ハガキが原因だ。他愛もない絵ハガキでスパイ容疑がかかるのが、まさに戦争中の人権侵害だ。Hは、その友だちにちゃんと抗議しようとする。私ならぶん殴りたいくらいだ。しかし、盛夫さんはHに言う。「絵ハガキを見せたのは、自分の判断だろう」「いっちゃんも辛いのではないか」と。

 Hは、ふさぎ込んで自分を責めているいっちゃんと仲直りする。こんな事が言えるなんて、すごい。私は怒りや恨み爆発となるだろう。盛夫さんは、自ら消防隊に入り、クリスチャンとしてまわりから浮いている妻に「班長になったらいい」とアドバイスをする。自分たちの考えを守りながら、周囲と折り合いをつけ、まわりからあまり浮かないようにとも、心を砕く。マッチョな父親とは、全く違うやり方で、心を砕いて家族を守ろうとする。対等にきちんと話して、「こうしたらどうだろう」って。

 こんな父親、実は日本に不思議とたくさんいたのかもしれない。田辺聖子さんの父親も近いかも。しかし、戦前の小説や映画であまり見たことがないので、私は嬉しく見ていたのであった。時代は変わり、本当に小さな子どもとも対等に向き合えるステキな父親も増えているけれど、まだまだ少ないかも。

 これも家族を守ろうとする大人である。水谷豊さんがステキなのかもしれないが、伊藤蘭さんもおかあさん役でいい味を出している。かつてのアイドル、小泉今日子さん、薬師丸ひろ子さん、伊藤蘭さんもステキに年を重ねている。

 日本映画のなかで演じられた父親のなかで、庶民の盛夫さんは、本当にステキだ。

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