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機動戦闘車は「戦車」である

 次期防衛大綱では戦車の定数が300輌に減らされています。これを非常に評価する人たちがいます。ですがそれはまんまと陸幕の術中にハマっているのではないでしょうか。

 確かに戦車は大綱終了時までに300輌に減らされることになっています。が約250輌の調達が予定されている機動戦闘車を加えれば、戦車の定数は550輌です。定数400輌の現大綱よりも多くなります。
 
 無論機動戦闘車は戦車ではない、という主張があるでしょう。防衛省もそのように説明しています。
 ですが、それを鵜呑みにするのはどうでしょうか。

 105ミリ砲を搭載した8輪装甲車の嚆矢であるセンタウロは、戦車駆逐車といえば聞こえがいいのですがカネのないイタリアが苦肉の策で生み出した「プアマンズ・タンク」でした。ソ連が南下してくるであろう北部に戦車は配備し、南部は装輪の戦車駆逐車でというわけです。単価は安いし、高速で戦略移動できるので調達数も少なく抑えられる。

 金があればイタリアはセンタウロなんぞ開発しなかったでしょう。あれは作ってみたら、緊急展開部隊やPKOなどで便利だったというわけです。
 
 そもそもが機動戦闘車は機甲科の失業対策として計画されました。はじめに機甲科の声量減退を防ぐことが目的であり、軍事的な必要性はありませんでした。
 
 既に何度も書いていますが、機動戦闘車はゲリラ・コマンドウ対処、また島嶼防衛などで、普通科(歩兵)の火力支援、軽戦車などに対する対処を想定しているとされています。が、後付の理屈です。
 
 であれば、105ミリ砲を搭載した「装輪戦車」は必要ないでしょう。主砲はせいぜい76~90ミリ砲で十分です。

  防衛省が国産装備を開発するときに大好きな言い訳、「我が国固有の環境」に適した装備をもとめるのであれば、人口の7割が都市部に集中し、人口が密集している「我が国固有の環境」において、105ミリ砲は副次被害を多くもたらします。

 ゲリコマ対処に戦車砲が必要だというのであれば、74式を近代化してトレーラーで運べば十分です。ゲリコマ相手に250輌も「装輪戦車」は必要ありません。あるいは10式でもいいでしょう。

 防衛省、陸幕は軽量な10式もゲリコマ対処に有用だと防衛省は主張しています。ならば何故屋上屋を重ねる機動戦闘車が必要なのでしょうか。

 逆に機動戦闘車を開発するのであれば中途半端に軽量な10式は必要ありませんでした。

 しかも島嶼防衛に有用といいつつ、機動戦闘車はC-130などでの輸送は不可能であり、島嶼に輸送するならばC-2などの大型輸送機で沖縄あたりに運び、そこからフネを使う必要があります。

 ならば74式か10式を事前に沖縄に配備しておけばいいでしょう。

 ゲリコマ、島嶼防衛に105ミリ砲をもった装甲車輌がひつようならば74式の近代化でいいわけです。夜間戦闘能力やらネットワーク化を付加しても1億円もかからないでしょう。
 
 105ミリ砲を搭載するために機動戦闘車の全幅は約3メートルになっています。果たしてこれで普通科に随伴できるのでしょうか。確かに現在の96式など横幅が2.5メートル以下に抑えるようにしたというのは、現実を見ていないでしょう。これはぼくも批判してきました。

 96式は事実上路上でしか運用できないほど機動力が低い。事実上治安維持用の装甲車みたいなものです。これは設計関係者が明確に認めています。あと10センチ横幅あれば、全く性能が異なったといっています。
 
 ですが、機動戦闘車が普通科に随伴する車輌であるならば横幅は2・6~2.7メートル程度に抑えるべきです。昨今の装甲車はタンデム弾頭やIEDなどに対処するために装甲が分厚くなっていますが、それらは増加装甲として戦時に装着すれば宜しい。

 ですが、機動戦闘車の装甲は正面以外は12.7ミリ弾に耐えられる程度でしょう。これに諸外国の装甲車のようにタンデム弾頭対処用の装甲を付加すれば横幅は3.5メートル近くになるでしょう。

76ミリ砲あたりであれば、横幅2.6~2.7メートルクラスの車体でも搭載が可能だったでしょう。普通科の火力支援であればその方が合理的です。

 そもそも105ミリ砲以外の選択を考えていませんでした。それ以下になると「戦車」じゃなくなると考えていたのでしょう。「戦車」として運用を考えているのならば、横幅が3メートルでも何ら問題ないでしょう。
  
 実際戦車は北海道と九州に集約され、本州その他は機動戦闘車が配備されることになる予定です。これも陸幕が機動戦闘車を戦車と位置づけている証左でしょう。

 何しろ陸幕は74式を旧式化するに任せてきました。とても現代の機甲戦に使える代物ではありません。また随伴する歩兵戦闘車も、十分な防御力をもったAPCも存在しません。実質的に74式は歩兵直協の火力支援車輌と認識されていたのでしょう。

 仮に機動戦闘車の横幅になんの問題ないのであれば、何故これまで装輪装甲車の全幅を2.5メートル以下に抑えてきたのでしょうか。
 
 不思議なのはこれまで我が国独自の環境では全幅を2.5メートルに抑えないといけないと、だから96式は正しいのだ、それ以上の幅だと運用上不都合がある、だから外国製の装甲車は日本の実情に合っていないと主張していた「国産尊王攘夷派」の人たちは、機動戦闘車の横幅の大きさを問題にしません。

 不思議なことです。

 実は陸幕は2横幅.5メートル以下にこだわり、3メートルを主張する三菱重工側と激論の末に、3メートル案を呑みました。であれば主砲を再考すればいいのに、それが出来ない「オトナの理由」があったわけです。

 これらの点からみても陸自が機動戦闘車を「装輪戦車」と認識していると思っていいでしょう。

 このため10式に加えて機動戦闘車という「戦車」が毎年調達されることになります。その数は機動戦闘車は「戦車」ではありませんから、減らされるのはまだ十分に使用できる90式です。本来90式と74式の近代化で現在の戦車定数の400輌は極めて安価に賄えました。

 しかもすべての戦車を近代化、ネットワーク化するにしても必要な予算の規模からみて5年程度で済んだでしょう。

 ところが10式と機動戦闘車の調達が戦車の近代化を圧迫します。

 これにより陸自の戦車の近代化は大幅に遅れます。しかも機動戦闘車はネットワーク機能を付加するか否か、未だに決定されておりません。

 しかも毎年10式と機動戦闘車の調達予算が300億円程度はかかるでしょう。

 機動戦闘車は極めて特殊な車体です。今後開発されるであろう8輪装甲車は全く別物になるでしょう。

 このような冗漫な装備計画はいたずらに開発費や維持運用費を増やし、本来投資すべき予算を喰っています。

 機動戦闘車を開発・装備するカネと暇があれば、今頃とっくに96式に代わる装甲車ファミリーを開発・配備できたはずです。

 仮に火力支援用の装甲車が必要だったとしても新型8輪装甲車のファミリーとして開発すれば開発費も運用コストも格段に低減できたはずです。

 彼らは「戦車」という名は捨てても、機動戦闘車を含めた定数を400輌から550輌に増やすという「実」を取りました。陸自の脳内では機動戦闘車は「戦車」ということです。

 それは見事に成功ましたが、これにより陸自の近代化は大きく遅れ、戦闘力は大幅にダウンすることになります。

 陸自は組織防衛をしたのでしょうが、それは国防を弱体化させ、人民解放軍を利することになります。戦争する気がない組織というのは気楽なものです。

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