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「期待感」が失われつつある現実

 アメリカの法曹界でも話題となっているというアップルvsサムソンの米国特許争いにかかっている弁護士費用をめぐる現実が、「弁護士の数が増えても弁護士費用がやすくならないことの証拠になる」ということを、「アメリカ法曹事情」というブログが指摘しています。

 アップルはサムソンに対して、弁護士費用として、日本円にして16億円近い額の支払いを求めているが、費やした弁護士費用の一部に過ぎず、また、アップルは特許以外にも膨大な弁護士費用を費やしている。さらに、他のないプラクティス分野でも、弁護士費用は一向に下がらない。時給10万円以上の報酬を要求する弁護士に、何時間も働いてもらおうとする弁護士に何時間も働いてもらおうとする企業があるのだ、と。

 こういう下りをみれば、あくまで巨大企業の法務事情であり、冒頭にふられたような弁護士の数と費用の関係として、一般化できないと読まれてしまいそうです。確かに、日本の弁護士を使う大企業においても、実は費用の問題よりも、あくまで関心はより質の高い、企業ニーズにあった弁護士のサービス。だから、弁護士を選ぶ担当者としても、ここで下手により安いサービスを求めて、まかり間違って成果が不十分であるということが、個人の立場としてもリスキーである、と。つまり、有り体にいえば、「安い」ことを求めることが、あまり手柄にもならないという意識があるという話は聞きます。それはそれで、この分野において、低額化がテーマにならない、一事情のようにとれます。

 しかし、同ブログはそこにとどまらない、さらにアメリカの状況を形づくっている基本的な事情を説明しています。

  「費用が高くても有名で経験のある弁護士に依頼するのは、弁護士数が多いために、弁護士の能力の保証がなく、経験不足の弁護士が数多くいるため、有名で経験が豊富とされる一部の弁護士に事件が集中するからだと考える。一部の弁護士に依頼が集中することで、さらに経験豊富な弁護士の数が減るという悪循環を繰り返している」
  「アメリカでは弁護士の資格は持っているが、弁護士としての実務経験がないため弁護士としての業務を行っていない人が数多くいる。ロースクールを卒業してから弁護士業以外しか行ったことのない者は、大抵の場合、事実上弁護士として働くことができなくなる。ただ、日本と違って弁護士登録費用が安いので、そのまま弁護士として登録しているままになっている人も多い」
  「アメリカのロースクールはある意味、弁護士という資格を持っているが、弁護士としての実務はできない人を大量に生み出している制度なのである」:

 ここでいわれているとは、誰の目にみても、悪い意味で、日本の現状と、その先に見えているものにオ―バ―ラップします。能力が保証されていない弁護士の社会放出、修養過程を奪われ、経験が不足する弁護士の存在。弁護士依頼の集中と格差によって、逆に相対的に経験豊富な弁護士の数は減る。そして、ロースクールは結果として、弁護士実務ができない人を大量に輩出する機関と化していく。違いといえば、弁護士登録費用(会費)だけで、アメリカはそれでも「弁護士」だが、高くて敬遠される日本の弁護士会にあっては、そうはならず、社会に受け入れを求める枠組みも、いつのまにか「法曹有資格者」になっている。

 このブログ氏は、ブログ開設の目的として、アメリカを参考とした日本の司法改革の、山積する問題に対し、誤解されているアメリカの法曹事情を伝えることが解決の糸口になってほしいという「願い」を挙げ、「アメリカで起こっていることは近い将来日本で起こるかもしれないし、もう既に起こっているかもしれません」と結んでいます。

 この一年、司法改革と法曹界周辺を見てきて、最も感じたことを挙げるとすれば、いろいろ場面で、急速に「期待感」が失われている、ということです。「給費制」が廃止され、増員路線の象徴ともいえる「司法試験合格年3000人」の旗は降ろされても、多くの課題への対応を、さらに先送りした、法曹養成見直し論議。「3000人」が消えても、実質「合格2000人」で発生している現状の問題が解決するわけもないこともさることながら、法科大学院制度への固執、「改革」路線の根本に返った議論に進まない状況への諦め、徒労感のようなものが、今、弁護士界のなかに広がりつつあります。それは、「改革」論議そのものだけでなく、日弁連に対する失望にもつながり、会長選を前に、「誰がやっても状況は変わらない」という声が聞こえてきます(「日弁連会長選『熱』の行方」)。

 一方で、法曹界志望者は、この「改革」がもたらしたものに、とっくに失望し、この世界に対する敬遠傾向をはっきりと示し、法科大学院に期待できないからこそ、予備試験が注目されています。「プロセス」の価値が認められない状況が変わる道筋が、はっきりと見えているわけでもありません。それでも、予備試験冷遇への声でも明らかなように、法科大学院本道主義を維持しようとする側は、依然、志望者とう利用者の視点に立っているとは、とてもいえません。

 そして、大事なことは、弁護士や志望者の「失望」の話は、ともすれば、彼らの保身や個人の利害に基づくものに置き換えられますが、現実はそうではない。「改革」がもたらした弁護士の状況、質の保証なき弁護士放出も、競争状態も、決して国民に利が回って来る話とはいえません。そもそも国民が「期待」し、要請した「改革」ではなかったといえば、それまでですが、最大の問題は、「改革」を推進したい側がメリットばかりを強調し、現実をフェアに伝えていないことにあります。

 期待するような弁護士の低額化が起こらないことを含めて、前記ブログ氏が指摘したような、少しずつアメリカ化してきている法曹事情を多くの国民は、まだ十分に知りません。それでもたとえメリットを強調されても、伝えられる現状から、この先にこの社会のプラスにつながるという「期待感」を持っているのかは疑わしいといわざるを得ません。弁護士があふれる社会が、良心的な競争のもとに、良質化や低額化が進み、経済的弱者が利用しやすく、救済される環境が生まれ、拝金主義や市民を食いものにする弁護士はどんどん自然と消えていく――。そんな「期待感」を誰が持っているのでしょうか。

 この「期待感」失われつつある状況が、いまなぜ生まれ、維持されようとしているのか。そして、それが誰の、どういう「期待感」に基づくものなのか。そこを、まず、直視しなければならないように思います。

 今年も、「弁護士観察日記」をお読み頂きましてありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。
皆様、よいお年をお迎え下さい。

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