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アナクロ英語教育論〜英語は中学3年レベルまでやれば十分、ただし(2)

前回は、小学校への英語教育導入が、わが国における英語教育の根本的な間違いを象徴するものであり、こういった発想を末端とする誤った英語教育の根源が「詰め込み教育」にあることを指摘しておいた。また、その反動として現れた「ゆとり教育」においても、結果として科目数を増やすことで詰め込み教育が継続されていたこと、つまり、ゆとり教育が詰め込み教育の代替として科目数を増加させた分、今度はそれぞれの学習項目が希薄になり、学習項目の血肉化が難しくなり、その結果としてますます教育がスカスカになっていったことを、あわせて説明した。だから「本当の意味でのゆとり教育」、つまり「量より質を重視する教育を」やらなければならない。じゃあ、それを英語でやるためにはどうするべきか。今回(コンセプト)と次回(方法論)でその処方箋の一つを提案してみたい。結論を一言で言えば「中三レベルの英語までしかやらない」というもの。ただし、現在、中三までにやられているものとはやり方を異にするものだが。

英語教育の常識を否定する 先ずはじめに、よく英語教育で議論になっている次の二分法的な考え方をやめる。一つは「会話か、それとも文法か」、もう一つは「実用のための英語か、それとも教養のための英語か」だ。これこそ科目数の細分化、学習項目の細分化、つまり教科書が三年間で十数冊になるようなバカげた教育を施すことになった元凶な考え方だと僕は確信している。

そうではない。むしろ、これらは全部一緒にやるのが正しいのだ。もちろん、しばしばほったらかしにされる発音なんかも同時にやる(学生たちの発音、メチャクチャです)。だいたい、よくよく考えてみれば「英語」ですよ。文法、リーダー、英作文、書き換え問題、熟語、単語……こんなのは英語ではなく、その「パーツ」に過ぎない。バラバラにやると、合理的に学べるように見えて、実はまったく反対。むしろ、全体像が見えなくなってわけがわからなくなり、いたずらに情報量が多くなって、やっているほうがウンザリし、その結果、英語嫌い、英語コンプレックス持ちを大量生産しているわけで。英語は英語、一つだけで十分なのだ。

理屈と感覚による血肉化 ただし、学習に別の二分法、より正確に表現すれば二側面を用意する。「理屈」と「感覚」だ。これは細分化ではなく、英語を総合的に学ぶための車輪の両軸と考えていただきたい。

「理屈」とは、これまで学校英語が取り組んできた文法的な側面を重視した学習方法。だが、こればっかりやるとどうなるかと言えば、六年間(大学を含めれば十年間)学んでも、まったく英語が話せない人間が誕生する。

一方「感覚」とは、文法はともかくフレーズとかを丸暗記して、何となく会話ができるようにするという学習方法(小学校英語が取り入れようとしているもの)だ。テレビのCMなんかで宣伝している「聞き流すだけ」みたいな、CDでフレーズをひたすら覚え込むなんてのが典型。まあ、これだと簡単な挨拶や旅の英会話みたいなものはできるようになるけれど、その実、話すようになることは不可能だ。議論みたいなツッコンだコミュニケーションは絶対不可能。感覚だけでそこまで到達するためには、それこそ現地で最低一年間以上、ネイティブ相手に徹底的に英会話に取り組まなければならない。

僕がインドでヒーロー?になった話(笑) この二つの側面が片方だけだとなぜダメなのかを別の例で説明しよう。それはなんとテレビゲームに関する僕の経験だ。時は約30年以上前の82年に遡る。ところはインド・ニューデリー。バックパッカーとしてこの地に着いた僕。新市街地中心のコンノートプレイスをブラブラしていると、そこに一軒、ゲームセンターがあった。中に入ってみると、置かれていたのはスペースインベーダー。日本では70年代末に大ブレークしたゲームだ(ということは、この時点で、日本ではとっくにブームは去っていた)。これにインド人たちが興じていたのだけれど、とにかくヘタだった。身体全体を動かしながら、必死にレバーを操作している。膝は上がるわ、肩は大きく揺れるわで、ちょっと横で見ていると滑稽でオモシロイのだが、誰もがそんな感じでやっているのだ。もちろん得点は稼げない。

そこで、ここぞとばかりに、僕はしたり顔でマシンの一台にコインを挿入し、やりはじめた。もちろん僕の身体全体が動くなんてことはない、指だけがサクサクと動き、しっかり高得点のUFOを打ち落とし、「名古屋打ち」もキメて得点を稼いでいく。そうこうするうちに、周囲が僕に気づき、知らないあいだに僕のマシンの周りはインド人でいっぱいになっていた。いや、ちょっとしたヒーロー気分に浸れたわけなのだけれど。でも、これはなんのことはない。インベーダーがそれ以前に日本で大流行して、僕もその一人としてやり始めたときに、すでに点の取り方を熟知している人間からやり方を聞いたり、攻略法を綴った雑誌などを読んでいたりしたので、攻め方がわかっていた。だからできただけのこと(言い換えれば、当時インベーダーに親しんだ日本人だったら、ここに来れば、だれでもヒーローになれた)。つまり、僕はインベーダーの攻略法を理屈で覚えていた。ただし、それですぐできるわけではない。当然、その理屈を頭に入れながらもインベーダーに何千円もコインを投入して、その理屈を身体化していったという経験があったのだ。僕が高得点を稼げたのは、ゲームをやり始めた頃、先ず「理屈」を学び、その理屈に「感覚」=身体を重ねていったからに他ならない。一方、インド人たちはもっぱら「感覚」=身体だけでやっていた。だからダメだったのだ(それにしては「やり方全然知らないのに、よくここまでやれるなぁ」というレベルのお客もいて、脱帽したのだけれど(笑))。

身体化=理屈から感覚へ で、英語の学習も、実はこれとまったく同じ手順を踏むべきなのだ(これ、別のゲームで説明すれば、たとえばドラクエのダンジョンを上がっていくのにどれだけたくさんのモンスターを殺さなければならないのかということを考えればよくわかる。レベルを上げるためには同じことを何度も繰り返し、RPGの文法を体得していくプロセスを経なければならないのだ。たとえば、自分より先のレベルまで進んだ他人のゲームを引き継いでも、絶対に上には行けない。ゲームを譲り受けた相手の感覚がこちら側で血肉化していないのだから、これはあたりまえだ)。つまり、基本的な単語の運指を理屈で覚え、これを身体化=感覚化していく作業を繰り返していくわけだ。日本に住む僕らは、前述したように感覚だけで英語を学べるような「英語のシャワー」的な環境にはいない。だったらやるべきことは、まず理屈から入り、これを身体に刻印する、つまり英語を理屈→感覚の順で血肉化していく作業が必要なのだ。要するに前回、説明しておいた「基礎をしっかり固めて、少しずつ新しい学習項目を加えていく」というミニマリズム的なやり方。 ちなみに、これは国語の学習も実は兼ねている。つまり英語読解=日本語読解、英作文=作文というふうに考えるのだ。これも英語―日本語という二分法ではなく「言語」というレベルで同じものとして扱うわけなのだけれど(これについては次回詳述する)。(続く)

※二回で終えるつもりが、長くなってしまい、申し訳ありません。関心のある方はもう一回お付き合いをお願いします。次回が具体的な方法論の提示になります。

【関連記事】
アナクロ英語教育論〜英語は中学3年レベルまでやれば十分、ただし(1)
アナクロ英語教育論〜英語は中学3年レベルまでやれば十分、ただし(3)

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