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弁護士の不祥事 事後救済の依頼は弁護士へ?

 少々、話は古くなりますが、2013年12月10日付産経新聞で、「兵庫の弁護士が預かり金横領 顧客の苦情13件、計数千万円か」という記事が掲載されました。
(コメント蘭に寄せて頂いたので、改めて取り上げたいと思います。)

 この事件で誰もが驚いたのが35歳という若い弁護士で、被害額が数千万円にもなる可能性があるということです。

 これまでの横領事件といえば、どちらかといえば年輩の弁護士層が多かったといえます。

 この世代であれば本来、横領に手を染めるということが理解し難いくらい弁護士資格の恩恵を受けてきた世代のはずです。経営に行き詰ったというよりは、投資の失敗など他の分野で失敗して転落していく場合がほとんどのようです。

 中には、弁護士業務に向かないんじゃないかなというご年配の弁護士が時代の流れの中で取り残されたというような場合も見受けられます。時代の流れは急です。パソコンが使える・使えないということも大きな差になって表れます。弁護士業務においても生産性は確実に上がっているので、その水準についていけなければ取り残されることになります。

 以上のような場合ではなく、35歳という新人に当たる弁護士の横領行為は、年輩世代の弁護士による横領行為とは全く次元が異なります。

 横領行為までに至るというのは属人的なものの要素が強くありますが、しかし、現実にはなかなか個人の資質だけを問題にすべきではありません。
弁護士の不祥事 横領事件の「多発」をどのように見るか

 これについて法曹倫理の問題だとする見解は明らかに誤りです。

 上記記事の中で兵庫県弁護士会のコメントは、「人から預かったものを取っていけないのは考えなくてもわかる。今後、会員の倫理意識向上に努めたい」というものですが、倫理意識という精神論を論じてみても意味がありません。

 別の産経新聞の記事(この事件報道の前になります。)「増える弁護士への苦情や懲戒請求 光市事件が突出」(2013年12月7日)では、
国際法曹倫理学会理事で名古屋大法科大学院の森際(もりぎわ)康友教授(法哲学)は「依頼人の権利意識が高まっているのでは」と分析する一方、「弁護士の増加に伴う競争激化で、一部の弁護士が生活に困り、倫理を問われるような行動を取ることがある」と指摘する。

 法曹倫理の教育は、16年に始まった法科大学院制度で必修科目となったが、旧司法試験時代の合格者には5年ごとに短期研修が行われる程度だという。森際教授は「弁護士に使命の自覚を求める本格的な倫理研修が必要だ」と訴えている。
だそうですが、「倫理研修」でどうにかなるものなのかが問われているのです。

 もともと法科大学院で行われている法曹倫理科目というのは弁護士業務として、これは利益相反として禁じられたものなのかどうかなど、技術的なものです。

 精神論を座学でやってみても意味がないのです。

 司法制度改革審議会意見書(2013年6月)では、「かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る。」(63ページ)という空言が述べられていましたが、このようなことを法科大学院教育でできるはずもないのです。

 法科大学院制度の制度設計の段階ですが、司法試験科目で「倫理」を入れるかどうかについて、法曹養成検討会(第3回、2002年2月5日)でのやり取りは滑稽です。
(法務省) (略)すぐれて実務との関連で法曹が身につけるべきハートであるとか、技術については、相当程度、最終の司法研修所における教育にゆだねるべきものではないかと我々としては考えまして、実務と架橋する理論教育が行われる法科大学院の履修効果を判定する試験としては、こうあるべきではないかという考え方で、今日御説明させていただいたところでございます。

○ その場合に、司法制度改革審議会の意見書から言っても、これからはむしろ法曹にとって豊かな人間性を持っているということが重要なんだという前提があるわけですから、最低限、そういった意味での規範である法曹倫理について、きちんと理解していることというのはミニマムではないかと思いますが、ここでは科目としてなじまないということで採用しないとされていますけれども、点数を付けるということになると、確かにいろいろ問題があるかもしれませんが、倫理的に問題が起こる状況、利益相反行為になるかならないか、あるいは守秘義務、弁護人が被告人からこういうことを打ち明けられたけれども、どうしたらいいかという状況を与えて、それについてのその人の解答を書かせて、それが論理的に整合していて、説得力があると、おおまかな弁護士倫理に反していないという範囲であればみんな合格、そうじゃない、何言っているんだから訳がわからない、いっぱい書いてあるけれども訳がわからないという答案は不合格。あるいは、全く弁護士倫理というものを理解していない答案は不合格という非常におおまかな採点をするということにすれば、現在においても、これは科目として採用できないということにはならないのではないかという気がするんですけれども、その点はどうでしょう。

(法務省) (略)まだ学問的に普遍的な理解が得られているのか、教える方々、あるいは採点する方々の主観的立場、考え方によって、採点の客観性、公平性が保てないんではなかろうか、法科大学院においても、すべての法科大学院で同様のカリキュラム、同様の水準の教育がなされるかどうか、現時点では確認できないと思いますので、ややなじまないと考えておるんです。

 司法試験科目に「倫理」を入れよという委員の発言なのですが、上記発言に見られるように、最初は、「豊かな人間性」という設定だったのが、その後、何故か「利益相反」のような技術的な話にすり替わってしまっています。

 すべてを精神論で片付けようというのは、主には法科大学院関係者、弁護士人口激増を推進してきた日弁連の執行部派なのですが、精神的な倫理教育で横領行為の防止にはなり得ないのは自明です。

 規制緩和がもたらした弁護士激増。

 弁護士の激増によって競争が生まれ、そして料金が下がっていく…

 むしろ事後規制をいうのであれば、被害が発生したら弁護士に依頼をして被害回復…、これがあるべき自己責任社会ということになります。

 しかし、国民は、本当にそのような弁護士を求めているのでしょうか。

 そのようなことをすれば弁護士制度そのものが崩壊してしまうのです。

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