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消費税を考える ~問題は有識者と市民の情報格差にある~

政府は、来年4月からの消費税の引き上げ(5%→8%)を決定した。増税には、常に不満が付きまとうが、なぜ、消費税を引き上げなければならないのか、考えてみよう。まず、今年度の予算(総額92.6兆円)の内訳を眺めてみる。

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税収43兆円に対して、必要経費が実に70兆円もある(うち29兆円が社会保障費である。なお地方交付税等の16兆円を除けば、次に大きいのは文教費の5兆円、公共事業費の5兆円等であって、社会保障費が頭抜けて大きいことがよく分かる)。これは手取りが43万円しかない家計が、70万円を費消し続けている姿と変わりがなく、サステイナブルではあり得ないことは誰しも了解するだろう。

この差額は、私たちの子どもや孫から借金して埋め合わせているが、今年度新たに調達した金額は42.9兆円にも及ぶ。市民1人当たり34万円という巨額である。私たちの子どもや孫は、言うなれば今年、34万円と言う借金を新たに背負いこんだのだ(ちなみに、これまでの借金が758万円あるというのに)。財政学者ローレンス・コトリコフが「財政的児童虐待」と呼ぶ所以でもある。

このように、予算の数字をチラッと見るだけでも、(決してうれしいことではないが)税と社会保障の一体改革を行わなければ、この国がきちんとやっていけないことは明らかであろう。仮に増税が決定されたとしても、財布の紐を緩められるような状況ではないことを、私たちは肝に銘じるべきである。

しかし、本当の問題は、もっと根深いところにあると考える。予算92.6兆円の内、国債の利払費が22.2兆円と約4分の1を占めている。歴史的に見て稀にみる低金利にもかかわらず、である。このまま推移すれば、まして日銀の黒田総裁はインフレターゲットとして2%を掲げているのだから(当然金利も上昇しよう)、おそらく近い将来に国債費は予算の3分の1程度を占めるようになるだろう。

政治とは、税金の分配である。未来の税金の使途は、未来の有権者が決めるべきである。それなのに、私たちは、私たちの子どもや孫が分けるべき税金を3分の1も処分しようとしているのだ。

これは、民主主義の「正統性」の観点からすれば由々しき問題ではないか。増税に反対する人や先送りを主張する人は、この民主主義の正統性の問題をどう考えているのだろうか。私たちに、子どもや孫の税金を勝手に分ける権利がどのようにして授権されているのか、メディアには、この本質的な問題を、とことん追求してほしいと願わずにはいられない。

ところで、消費税増税が不人気なのは、市民の心の奥底のどこかに、消費税はひょっとしたら悪い税ではないかという誤った常識が刷り込まれていることも大きな要因だと考える。この場合、意識しているかどうかにかかわらず、良い税として脳裏に刷り込まれているのは、間違いなく所得税であろう。

そこで、この2税を比較してみると次のようになる。

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所得税は、税に関する2つの古典的な公平原則のうち、垂直的公平原則(能力に応じて負担)に適合した税制であり(その象徴が累進税率)、これまでわが国の税収の根幹を支えてきたが、2つの大きな欠点を有している。

その1つは、高齢化社会に上手く適応できないことである。所得税の納税者は、ほぼ勤労世代と考えられるので、サッカー社会から騎馬戦社会、肩車社会へと高齢化が進むにつれて、勤労世代の不満が高まることになる。

もう1つは所得の捕捉が不完全であって(クロヨン、トーゴーサンという言葉がある)、源泉徴収されるサラリーマンに皺寄せがいくことである。クロヨンやトーゴーサンは、一言で述べれば脱税であり、その意味では、わが国の所得税は水平的公平原則(同じ能力なら同じ負担)からは少し外れているという見方もできよう(もちろん所得の捕捉が完全であれば、水平的公平原則は満たされるが、現実的にはかなり難しいと言われている)。

これに対して、消費税は、水平的公平原則上は問題がなく、高齢化社会にも適応できる。論点は、垂直的公平原則にある。即ち、消費税は税率が一律であることからして、逆進性(累進性の反対概念として造語)が高い、と、一般に広く信じられてきたのである。

逆進性の議論は、例えば、同じ価格の食料品を購入した場合、低所得者の税負担率が高くなることを論拠としている。しかし、これに対しては、人間の現実の消費行動を無視した観念論ではないか、という指摘がなされている。即ち、高所得者の中には、例えば生活必需品の代表であるお米についても、高級品を購入する人がかなりいるのではないか、加えて、奢侈品も購入するのだから、高所得者ほど消費税を多く払っている。したがって、垂直的公平原則は損なわれていない、と考えるのである。

また、所得は消費+貯蓄であり、人生の活動や楽しみは消費を前提として初めて叶えられるものだから、一生涯を通して考えれば、その人の消費に応じて課税することは、垂直的公平原則の発露である、と考えるのである。加えて、逆進性の緩和については、政策的な手段も多々ある、という意見もあり、そのことを考え合わせると、消費税そのものは、今日の高齢化社会においては、比較的公正・公平な税ではないか、という見方にも、かなりの説得力がある。市民間の情報格差を縮めるためにも、こういった本質的な議論こそ、メディアには探堀りして取り上げてほしいものだ。

なお、蛇足だが、増税肯定論を展開すると、財務省に乗せられた、という批判が寄せられることが、しばしばである。主権者である市民は、いうなれば社長である。そして財務省は経理部のようなものである。社長が経理部を批判して、(その会社は)どうなるのか。社長は自らの信じるところに従い、経理部を活用すれば良いだけの話である。およそこういった全て役人が悪いとする批判の類は、健全な市民社会の精神の退行現象を示すようで憂慮に堪えないものがある。

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