記事

弁護士の不祥事 横領事件の「多発」をどのように見るか

 最近では、弁護士の不祥事も珍しくなくなった感があります。
 特に目につくのは預かり金の横領です。弁護士の場合、後見人や管財人として他人の財産を預かったり管理する場合がありますが、それが結構な資産だったりすることから被害額も大きくなるという傾向があります。

 もともと裁判所が弁護士を後見人や管財人に選任するのは、その職務の専門性は当然の前提として弁護士であれば、かかる横領などの不正は行わないという信頼があることが前提になっています。
 しかし、今日の不祥事の多発は弁護士の信頼を根本から揺るがす事態に陥っているということでもあります。

 ところで弁護士が破産した場合にはその弁護士は資格を喪失します。破産者が多額の金を預かるのが相応しくないのは当然のなのですが、実は一番、危ないのは破産手続きの直前の時期です。
 この時期はまだ何とかなる、何とかしなければという状況であり、言ってみればAIJ前社長と同じ心境なのです。
AIJ前社長、懲役15年のもつ意味 被害額248億円と年金喪失

 ちょっとでも他人のカネに手をつけてしまうことによって、次から次へのウソで塗り固めた報告書を作成したり(裁判所、依頼者に対するもの)、穴埋めのために次から次へと横領していく構図は、まさにAIJの事件の構図なのです。

 本来であれば、1円たりとも預かり金に手をつけてはいけないのは当然のことです。例え、目先に必要とする支出があったとしても手をつけてはいけない、このようなことは弁護士でなくても誰でもわかっていることです。
 それ故に預かり金に手をつけてしまう弁護士は、その人の属性というものが占める割合は大きいとは思います。
 また、そのような局面だからこそ、その人の属性が表れてしまうということでもあります。

 これに対する対策ですが、弁護士会が不祥事を起こした弁護士に厳しく懲戒処分を下せば足りるというものではありません。処分は当然ですが、被害回復には結びつかないからです。また抑止にもなりません。やっていること自体が横領行為という犯罪であり、懲戒処分以上の制裁が待っていることは当然に認識していることだからです。
 借金まみれになった場合、その後、横領罪に問われるようなことがあったとしても借金まみれになった時点において、その弁護士にとってはもはや失うものがなく、後はAIJ前社長のように露見するまでの時間稼ぎあるのみという場合が一番の問題なのです。

 実際にはこれだけ多くの不祥事が起きているのであれば、個別の人の属性の問題だけに原因を求めて良いのかが問われなければなりません。
 このままでは間違いなく法曹という制度自体が崩壊してしまうからです。
 研修や教育で何とかなる問題でもありません。法科大学院におけるご自慢のプロセス教育の中に法曹倫理科目がありますが、「人のお金に手をつけてはいけません」などという教育をやってみたとしても全く無意味だということです。
(そのような低レベルのことは実際にもやっていないと思いますが)

 では制度として横領を防ぐことは考えられるでしょうか。
 預かり金等は、銀行等に預け入れることは大前提となっていますが、引き出す際の許可のあり方について、裁判所の許可証などの必要書類を揃えるということを要求するというやり方もあります(以前、管財事件では預金の引出は許可制でしたが、その後、廃止されました。)。ただ、この方法でさえも裁判所の許可証を偽造することもあり得ますから、裁判所から直接、銀行に許可証を送付するという方法にしなければならないかもしれません。
 このようにすれば確実とも言えますが、コストは間違いなく増加しますし、迅速な処理(支出)も全く不可能になります。
 ある程度、依頼を受けた弁護士の判断で処理できることが望ましいことは言うまでもありませんし、実際に後見事件、管財事件の件数からすれば裁判所にそれだけの負担を強いることは非現実的です。
 何よりも委託者は裁判所だけでなく、一般の依頼者もいますから、すべてこの方法が採れるわけでもありません。

 やはり弁護士の一定の経済的基盤の確保は不可欠の大前提です。現状では職業として成り立たなくなってきているし、経済的な貧困は決して良質なサービスを提供することにはつながらないからです。
競争によってサービスは向上するのか タクシー業界から考える

 しかも、弁護士人口の激増政策がもたらした弊害は単に弁護士の経済的基盤を揺るがしたというだけでありません。
 特に若手による不祥事の場合には、弁護士人口の激増により、資格そのものがビジネス資格に変質を来たし、本来の公的性格を歪めてきたことが背景事情としてあります。
 司法修習生に対する給費制の廃止も弁護士資格のビジネス化に拍車を掛けています。
 借金の増大(法科大学院に対する高学費、奨学金と司法修習生に対する貸与)は、最初から新人弁護士を貧困状態にさせているだけでなく、自分のカネで資格を取得したという受益者思想が色濃く反映しやすいものになっているのです。
 ビジネス資格化とあいまって弁護士によるビジネス思考は、弁護士という職業の社会的責任というものを急速に希薄化させていること、これこそが横領行為という犯罪を産み出しやすい背景事情です。
 社会性の希薄化した人たちが集まって来れば来るほど、社会的責任の欠如が顕著になるだろうし、それはまた最後の一線を越えてしまいかねない危険を増幅させているからです。
 それと合わさるように弁護士人口の激増によるビジネス化が相まって横領の下地を作っているということです。
 しかも、今後の新人弁護士は多額の借金を抱えた状態で収入を得られる見込みのないまま実務に就かざるるを得ない状況を考えると、これが制度として弁護士の信頼をおとしめていることは間違いありません。
 早急に法曹養成制度を改革し、法科大学院制度の廃止と給費制の復活は急務です。

 なお、これは一面を述べたものであって、これですべてを説明できるわけではないということを念のため申し添えます。
 かかる不祥事の一定の層は高齢の弁護士が占めていますが、本来であれば食うや食わずの状態に陥っているのが不思議です。それまでの生活状況に大いに問題があったのではなかいと思われてなりません。今のような過当競争ではなく一定の収入は確保されていた時代を通ってきているからです。
 このような年配層による横領問題は独自の問題があります。
 一括りに弁護士の不祥事というだけでは足りず、どの層がどのような事情の元でかかる犯罪に手を出したのかということが重要です。
 日弁連がすべきことは、このような視点から個別の事例について事例集として作成するなどして会員間の認識を高めていく必要があります。

あわせて読みたい

「弁護士」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    法相辞任 文政権は崩壊に向かう?

    早川忠孝

  2. 2

    バレーのジャニ依存 海外で批判

    WEDGE Infinity

  3. 3

    韓国法相辞任で文政権崩壊はない

    文春オンライン

  4. 4

    韓国法相辞任 反日弱まる可能性

    文春オンライン

  5. 5

    旧民主の悪夢 八ッ場ダムに脚光

    早川忠孝

  6. 6

    少女像以外も政治的なあいトリ

    紙屋高雪

  7. 7

    元政務官「今井議員の仕事見て」

    山下雄平

  8. 8

    ラグビー主将が忘れぬ日本の募金

    文春オンライン

  9. 9

    台風19号 タワマン断水続き悲鳴

    文春オンライン

  10. 10

    教師間いじめ 評価高い加害教諭

    非国民通信

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。