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【回顧2013年】敵対的ジャーナリズムは無敵か 米NSA機密漏洩事件

衝撃だったスノーデン事件

中国の台頭と、米国の衰退が目立つ中、世界は2013年、激動した。

シリアをめぐっては米英両国が軍事介入を断念し、オバマ米大統領は「米国は世界の警察官ではない」と宣言。イランの核問題はイランと欧米の双方が歩み寄り、協議は大きく前進した。

一方、アジア・太平洋では北朝鮮が一時、緊張をギリギリまでエスカレート。中国が沖縄・尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定、一触即発のキナ臭さも漂う。

オバマ大統領が中国の習近平国家主席とひざを交えて会談するなど、世界の勢力図は明らかに変わった。米中首脳会談は今後、冷戦下の米ソ首脳会談と同じ重要性を持つ。

2013年、筆者にとって、最も衝撃的だったニュースは、元米中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン容疑者の機密漏洩事件だった。なぜか。理由を列挙してみよう。

・米国の電子的なスパイ活動が国内外の個人レベルに及んでいた。
・告発サイト、ウィキリークス事件の記憶が生々しいのに、それ以上の国家機密が米情報機関から大量に漏洩した。
・スノーデン容疑者のような外部スタッフがいとも簡単に国家機密にアクセスできた。
・スクープした英紙ガーディアンのグリーンワルド記者(当時)が敵対的ジャーナリズムを掲げ、時の権力と慣れ合ってきたオールド・ジャーナリズムを厳しく批判した。

日進月歩のデータ・ジャーナリズム

筆者は新聞社で28年勤め、昨年フリーになった典型的なオールド・ジャーナリズムの住人だ。

米紙ワシントン・ポストの若き記者2人が民主党本部への盗聴事件を追及し、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件にあこがれて、朝駆け夜回り取材に走り回った。

ベトナム戦争に関する極秘報告書ペンタゴン・ペーパーズをスクープした米紙ニューヨーク・タイムズの「恐れることも偏ることもなく」という精神に胸を踊らせた世代だ。

若い記者から「シーラカンス」と笑われたこともある。自分でも「時代遅れ」を痛感する毎日だ。

ウィキリークス、スノーデン事件の口火を切ったのは米国のメディアではなく、「アンリミテッド(無制限)」を掲げてデジタル・ジャーナリズムに取り組んできた英紙ガーディアンだった。

ウィキリークス事件の際、アサンジ容疑者もインターネット・テレビ電話で参加した2010年8月の討論会で、情報公開制度を使い議員経費の不正を暴いた女性ジャーナリストの言葉が記憶に残っている。

「私は1つ1つ調べて不正を暴いていくのがジャーナリズムだと思っている。内部告発者からもたらされた大量の電子データを右から左へ公表するようなやり方にはなじめない。ただ、これからのジャーナリズムは大量のデータを処理する能力が求められる」

女性ジャーナリストがこう指摘したのは、わずか3年前の話である。

ガーディアン紙を去り、イーベイ創業者の出資でニュースベンチャーを立ち上げようとしているグリーンワルド記者の情報処理能力、報道のスケールとスピードは、まさに「異次元ジャーナリズム」の到来を告げている。

スノーデン容疑者が提供した膨大な電子データの中からニュースを見つけ出して、裏を取って報道する。6月以降、ニュースで公表されたデータは全体の1%にも満たないともいわれている。

最近の報道にはコンピューターを駆使してデータを分析するデータ・サイエンティストのサポートが欠かせなくなってきた。

なぜNSAはメタデータを欲しがったのか

米国内の電話通信記録などのメタデータを極秘裏に収集、保存していた米国家安全保障局(NSA)について、ワシントン連邦地裁のレオン判事は12月16日、この活動は米合衆国憲法に反する可能性が極めて強いとの判断を下した。

メタデータとは電話番号や通信時間などの付随データのことを指し、通信内容そのものは含まない。通信内容は「通信の秘密」に基づいて保護されている。

筆者は英政府通信本部(GCHQ)元職員が主宰するデータ・ジャーナリズムのワークショップに参加した際、電話通信記録のメタデータの使い方を教わったので、NSAが何をしていたのかがわかる。

このメタデータを解析ソフトに流し込めば、「ソーシャル・ネットワーク・マッピング」と呼ばれる詳細な人脈図が一瞬にして出来上がる。

誰から誰に、どれぐらいの頻度で、何分話したかを分析すれば、ネットワーク内の人間関係がわかる。ソーシャルメディアのFacebook、Twitter、Youtubeや写真投稿サイトをたどっていけば人物像まで浮き彫りにすることができる。

インターネット上で公開されている無料ソフトを使っても、かなりの範囲で調査が可能になる。

こうしたビックデータを利用して、ソーシャルメディア上で発せられた言葉と過去の事例を比較すれば、どの人物がテロ組織に加入し、実際にテロを実行するか、理論上は、ある程度の確率で予測することができる。

何が問題なのか

米国内での通信傍受についてNSAは、発信先電話番号は第三者の電話会社に任意に提供した情報だから、電話の音声録音に裁判所の令状が必要とする米憲法修正4条(令状主義)の要請は及ばないという1979年の連邦最高裁判決を根拠に「合憲」と主張してきた。

ひと昔前まで国外での諜報活動、国内での防諜活動は仮想敵国の関係者を中心に行われてきたが、2001年9月の米中枢同時テロを境にイスラム系移民など一般市民にも拡大された。

電子メールやFacebook、Twitterなどでは当事者の通信内容までプロバイダーやサイトの運営者など第三者に提供されているため、1979年連邦最高裁判決の法理が拡大解釈され、本来ならプライバシー保護の対象となる通信内容の傍受までまかり通るようになった。

NSAの情報収集活動は、市民の安全を守るテロ対策という錦の御旗の下、一般市民を対象にとんでもないスケールで行われていた。

前出のレオン判事は「政府はNSAの情報収集が実際にテロの阻止につながった具体例を1件も示していない」と述べ、「全体主義の監視社会の恐ろしさを『1984年』で告発した英作家ジョージ・オーウェルの世界に近い」と非難した。

「米憲法の父」と呼ばれる第4代大統領マジソンは「国民が情報を持たず、情報を入手する手段を持たないような国民の政府というのは、喜劇への序章か悲劇への序章か、あるいはおそらく双方への序章に過ぎない」と述べたが、レオン判事は「マジソンがNSAの話を聞けば、怒っていただろう」と指弾した。

敵対的ジャーナリズム

米紙ニューヨーク・タイムズは2005年、「テロとの戦い」を掲げていたブッシュ大統領がNSAに対し裁判所の令状なしで盗聴を認めていたことをスクープした。

しかし、「報道すればNSAの手の内がテロリストにばれる」という当局の要請を受け、記事掲載を1年以上も見合わせていた。

スノーデン事件をスクープしたグリーンワルド記者はジャーナリズムの使命は、正確で重要な情報を伝えることと、敵対的な立場で権力をチェックすることだと強調する。

米中枢同時テロ以降、当局の意向を報道に反映してきた米主要メディアの対応を「愛国的ジャーナリズム」「当局と慣れ合っている」と一刀両断に切り捨てる。

グリーンワルド流に言えば、権力のポチと化したジャーナリズム、当局と同業他社と馴れ合う談合型ジャーナリズムだけでなく、是々非々で時には当局と協力する協調型ジャーナリズムもジャーナリズムの名に値しない。

12月18日、NSAの活動の見直しを検討してきた諮問委員会は改善策を検討した報告書で46の提言を行った。オバマ大統領は「プライバシー保護と米国の国家安全保障は両立できる」と強調した。

スノーデン事件は大きな転機を迎えたが、グリーンワルド記者は英BBC放送にこう断言した。

「スノーデン氏から提供されたデータを当局に返還するつもりは毛頭ない。報道の目的はNSAによる権力の乱用とインターネット上の自由を確立することだ。その目的が達成できるまで報道は続ける。関係者の生命、国家の安全を危険にさらすようなデータは公表していない」

NSAは国防総省の下部組織で、オバマ大統領がNSAの活動内容を知らないわけがない。グリーンワルド記者はそう言わんばかりだった。

ウォーターゲート事件では、政府高官が「記事にするなら、ケティ(ワシントン・ポスト紙のキャサリン・グラハム社主)のおっぱいを乳搾り器で締め上げてやる」と記者に圧力をかけるなど、報道が権力と妥協する余地は一切なかった。

敵対的ジャーナリズムと最先端のデータ・ジャーナリズムでグリーンワルド記者はオバマ政権を追い詰めることができるのか。そして、スノーデン事件は「21世紀のウォーターゲート事件」として後世に語り継がれるのか。

ワシントン・ポスト紙は、米インターネット小売り大手、アマゾン・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏に買収された。ウォーターゲート事件もセピア色の追憶に埋もれる中、筆者はまだ、スノーデン事件にジャーナリズムのロマンを見出すことができずにいる。

(おわり)

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