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労働者を食い物にするような会社は潰しても仕方ない~「ダンダリン一〇一」原作者・田島隆氏×POSSE代表・今野晴貴氏対談~

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撮影:和田まおみ
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サービス残業の強制やパワハラ・セクハラなど労働基準法違反を取り締まる、労働基準監督官の活躍を描いたマンガ作品『ダンダリン一〇一』。竹内結子主演でドラマ化もされた、この作品は「モーニング」で連載中の『カバチ!!!』の原作者、田島隆氏によって生み出された(※「ダンダリン一〇一」での名義は「とんたにたかし」。作画は鈴木マサカズ氏)。今回、12月20日に「カバチ!!!」の最新刊が発売となったばかりの田島氏と、若者の労働相談に取り組むNPO法人POSSEの代表・今野晴貴氏による対談を実施。同作品が生まれた背景や日々注目度が高まっている「ブラック企業」問題について語ってもらった。(取材・構成:永田正行【BLOGOS編集部】)

「能力のない経営者は会社を経営してくれるな!」


今野晴貴氏(以下、今野):先日ドラマの放送が終了した「ダンダリン」ですが、僕も毎週録画して見ていました。この作品を描こうと思ったきっかけはあるのでしょうか?

田島隆氏(以下、田島):私の自伝『弱者はゴネて、あがいて、生き残れ!』の中でも書いたのですが、私は家庭の事情もあって15歳の頃に高校を中退し独立して生活してきました。高校中退という学歴だと、どうしても、社長一人に先輩と私といった零細企業を中心に勤める機会が多くなってしまいます。そういう零細企業では、昼休みなしのサービス残業なんてあたりまえでしたし、いざ会社が沈みかけると、問答無用で真っ先に一番若い従業員が切られる。そんな“ブラック”的な体質が普通でした。でも、当時は「余力のない零細企業だから仕方ないんだ」という社会的なコンセンサスがあったように思います。それが嫌ならば、大企業に勤めることができるような学力やキャリアを積み重ねろ、それができないのは自分が悪いんだ、というような空気だったんですね。

ところが、『ダンダリン一〇一』(以下、「ダンダリン」)という作品を構想し始めた4~5年前から、こうした状況が零細企業だけではなく、いままで労働者を守ってくれると考えられていた大企業でも当たり前になってきていると強く感じ始めたんです。

例えば、リストラと称して労働者をいとも簡単に切り捨てたり、新人を雇っておきながら、即戦力として役に立たなければ「おまえは使えない奴だ」という社内的ないじめをする。入社したばかりの何のキャリアもない、本来であれば教育して戦力にするべき人間を「使えない」といって罵るのです。そんな会社が大企業の中にも出てきた。これはちょっとおかしいんじゃなかろうか、というところが「ダンダリン」を産み出したきっかけです。

マンガはジャーナリズムではなくエンタテインメントなので、どうすれば読者に共感してもらい、この現状を訴えることができるのか、を考えました。当初は法律家を主人公にしようとも考えたのですが、法律家も結局のところ自営業者で、広い意味での経営者、労働者を使う側に立つわけです。ならば役人を主人公にした方が、多少なりとも中立になるだろうと考えて、労働基準監督官という隠れたヒーローにスポットを当てることにしました。

多くの読者が、その実態をあまり知らないけれど実は意外な権力を持っている労働基準監督官という存在。実際には、その権力の幅も狭かったりするわけですが、司法警察員として逮捕権だってある。そういう役人・役所もあるんだよということを伝えたかったんです。ここに駆け込めば、もしかするとなんかなるかもしれない。これをマンガの中で訴えていくことができないか。そんな気持ちで描いたのがこの作品なんです。

今野:正直、ドラマになると聞いたときに監督官が何でも助けてくれるみたいな話になるんじゃないかと懸念していました。でも、僕の目から見ても論点が整理されていて面白かったですね。ドラマの中で出てくる大きなポイントは2つで、「労働者のために会社をつぶしていいのか」と「嫌ならやめりゃいいじゃん」だと思うんですよね。

「会社を潰していいのか」という問いに対しては、多くの場合「どっちも大変だよね」みたいな感じで終わるのですが、「いや潰せ」と言うんですね。経営者の苦しみとかを引き受けながら、それでも全体のことを考えると潰すしかないんだと。労働条件を守れない会社というのはやはり悪なんだというメッセージがある。

あるいは、「嫌ならやめろ」という言説についても、そういう話じゃないんだというのを丁寧に説明していきますよね。

田島:その点は、私の別作品である『カバチタレ!』シリーズ(現『カバチ!!!』)で労働問題を取り上げるときにも意識しています。『ダンダリン』だけでなく』カバチタレ!』シリーズでも、経営者のところに主人公が乗り込んでいって、給料をちゃんと払えないブラック経営者とバトルをするといったエピソードがあるのですが、そこでも主人公達は「能力のない経営者は会社を経営してくれるな!」というわけです。『ダンダリン』を執筆する際に、特に意識していたのは、労働者を食い物にするような会社は潰しても仕方ないんだ、ということです。これは労働問題をテーマとするこの作品を描こうと思ったときから、はっきりと軸足として定めようと決めていました。

もう一つは、監督官がなんでもできるわけじゃないんだ、むしろやれないことの方が多いんだ、ということもきちんと描こうと考えていました。例えば、制度的な問題として人員が少ないから小さな事件まではなかなか手が回らない。監督官も人間であって、手一杯になると、労働者から相談を受けても「きっと、この程度の問題なら労働者にとってもたいしたことないだろ」と甘えてしまうケースもあるわけです。でも、そうした対応をしてしまうと相談した労働者は救われません。そういうジレンマを描こうと思ったんです。

今野:ドラマ化された後の反響はどうでしたか?

田島:私自身はマンガ原作者をしながら、行政書士の仕事もしているので企業からの相談も何件か受けたんですね。その中でドラマを見て、「こんな法律を守らなければいけないのか。実際には大半の会社が守ってないじゃないか」と言う方がいました。つまり、道路交通法で例えるならば、「制限速度50kmといっても、大半のドライバーはそれを厳密に守ってやしないだろう」と。「そんなので逮捕なんかされるのか」とおっしゃるわけです。そこは小さな会社でしたが、「どうやれば守れるか」ではなくて、「守らないといけないんですか」というところからスタートするんです。

こうした事例から、私は経営者側の労働法に対する意識の低さを感じました。ちょっとした速度超過や駐車違反と同じような感覚で、経営者が労働者を扱っていると思うとぞっとします。もちろん、例えに出した道路交通法も違反してよいというわけではありませんが。

今野:ドラマだと、「会社が潰れたらおまえの人生ないんだぞ」といって違法行為をみんなで隠すような文化があって、そこにメスをいれていくという部分が焦点化されてきますよね。あれは画期的だったと思いますよ。

田島:ドラマ『ダンダリン』では、私も脚本監修という形でプロデューサーさんとやりとりをしていたのですが、共通の問題意識としてもっていたのは、「そういった黙認状態は害悪なんだ」「なくしていく必要があるんだ」ということでした

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