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今年ついた嘘を確実に取り消してもらう方法

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医療法人「徳洲会」グループから5千万円を受け取った問題で猪瀬東京都知事の釈明が二転三転している。ひとつの小さな嘘を隠そうとするとさらに嘘をつかなければならなくなり、たくさんの嘘の間でつじつまが合わなくなってしまう。最初から嘘をつかなければいいのだが、嘘をついてしまったら、まずは素直に認めることだ。今日は、米国で特許を取得する手続の中で、嘘をついたらどうなるか、そしてその嘘を取り消してもらうにはどうすればよいか、アメリカの訴訟事件から学んでみよう。年の瀬である。今年一年自分のついた嘘を振り返り、嘘を取り消したいと悩んでおられるのは都知事だけではなかろう。人は嘘をつく動物なのだから。

2013年10月9日にCAFC判決が出たIntellect Wireless, Inc. v. HTC Corp. (Fed. Cir. 2013) を取り上げる。インテレクト社の米国特許出願の発明者であるヘンダーソン氏は、出願審査において、出願日よりも前に公知となっていた先行技術を回避するために、自分の発明は先行技術よりも先に発明されたものであることを宣言する宣誓供述書を提出した。先発明主義(旧法)のもとでは、出願日から発明日に遡って、自分の発明が先行技術よりも先に完成した発明であることを立証(”swear behind”と呼ばれる)して先行技術を回避することができる。

しかし、裁判において双方が認めているように、ヘンダーソン氏の最初の宣誓供述書には虚偽が含まれていた。米国では、特許を取得する過程で不公正行為(inequitable conduct)があると、特許を権利行使することができなくなる。

ヘンダーソン氏がついた嘘はこういうものである。「本発明は現実に実施化され(actually reduced to practice)、1993年7月のミーティングでデモをした。」

ここで、米国における発明日の認定について解説が必要である。発明は、着想(conception)の段階(発明をひらめいたり、思いついたりする段階)と、着想の具体化(reduction to practice)の段階(思いつきを具体的な問題解決手段に落とす段階)に分かれる。「発明日」とは、基本的には、着想を得た日(思いついた日)ではなく、「着想の実施化(具体化)」(reduction to practice)をした日である。

この「着想の実施化」には二通りあり、その一つが「現実の実施化」(actual reduction to practice)である。ヘンダーソン氏は、「現実の実施化」の日がデモを行った1993年7月であると宣言したのである。これが本当であれば、発明日は、出願日より前である1993年7月であり、自分の発明は先行技術よりも前に完成した発明であると主張して、先行技術を回避することができる。

しかし、証拠によれば、本発明が現実に実施化されたという事実はない。ヘンダーソン氏は虚偽の宣誓を行っていたのである。

ところが、ヘンダーソン氏は、特許出願の審査過程で、宣誓供述書の訂正版を提出しており、インテレクト社の代理人弁護士の主張によれば、発明者は訂正版宣誓供述書において「現実の実施化」ではなく「擬制的実施化」(constructive reduction to practice)に主張を切り替え、審査官にもそれを説明し、審査官は「擬制的実施化」に依拠して特許出願を許可し、特許が発行されるに至ったというのである。

また解説が必要になった。先に「着想の実施化」には二通りあると書いたが、そのもう一つが「擬制的実施化」である。「擬制」というのは法律用語で、「みなす」という意味である。現実の実施化はしていないが、「実施化」(reduction to practice)をしたとみなすという意味である。「実施化」とみなされる行為として代表的なものは、「特許出願」である。特許出願をする際、発明の詳細な説明に実施例を書くが、これは当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。したがって特許出願をするためには、発明が着想の段階にとどまっていただけでは不十分であり、実施例を記載できる程度に具体化されていなければならない。このことから、記載要件を満たした特許出願をしたということをもって、発明が具体化(実施化)されたとみなしてもよいということである。これが「擬制的実施化」である。

特許出願という「擬制的実施化」が認められても、出願日は先行技術の公知日よりも後なのだから、それ自体ではどうしようもないのであるが、発明の着想(conception)から実施化(reduction to practice)までの間、勤勉な努力(due diligence)を継続していた場合、発明日は、実施化の日から着想を得た日にまで遡ることができる。ヘンダーソン氏は、発明の着想の日から特許出願までの勤勉な努力(特許出願書類を準備するに当たって実施例を考えたり、プロトタイプを作るなど)を続けたから、着想の日を発明日として認定するよう、審査官に求めたのである。

簡単に言えば、ヘンダーソン氏は、現実に実施化をしたという最初の話は間違いだったかもしれないが、実施化とみなされること(特許出願)はしたし、それに至るまで継続的に努力もしたのだと言い直したのである。このあたり、いろいろ追求されると、記憶にないと言いながら、弁解する政治家の答弁みたいで面白いと思う。実際、裁判所は、ヘンダーソン氏は、訂正版宣誓供述書によって、良く言っても「真実をわかりにくくした(obfuscated the truth)」だけだと、つれない。

裁判所は過去の判例を引用して、宣誓供述書の虚偽を訂正するなら、具体的にどこに虚偽があるのかを明確に陳述するべきであり、事実に関して虚偽があるなら、本当の事実は何であるのかを知らせるべきであると指摘している。嘘をついた人間にはつらいことであるが、何が嘘であって、真実は何であるかを明らかにして初めて、過去についた嘘を取り消してもらえるのである。それをしなかったヘンダーソン氏は、訂正版宣誓供述書においても過去の虚偽を明確に否定したのではないのであるから、依然として不公正行為があることに変わりがないとして、控訴裁判所は、特許は権利行使不能であるとした地裁判決を維持した。

嘘はすべてを無に帰し、取り返しのつかないことになった。最初についた嘘はすぐに素直に認めよう。肝に銘じたい。

なお、本事件は、本来は、「不公正行為」の判断基準を厳格化したTherasense事件大法廷判決の観点から解説すべきものであるが、それについてはまた日を改めて書きたいと思う。

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