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解雇規制緩和は若者も非正規労働者も救わない-「解雇自由」のデンマークより首切り自由な日本

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 城繁幸氏が監修した『働くってなに? ブラック企業大論争』(宝島社)というムック本 が出版されています。このムック本での竹中平蔵氏との対談等で城氏は「正規労働者の解雇規制緩和が若者や非正規労働者を救う」かのような主張を繰り返していますが、この点についてふれている私が企画した座談会の一部を紹介します。(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan ※以下は2013年6月15日に収録した座談会「労働『規制改革』の正体――限定正社員の狙いは解雇自由と無限定な過労死労働」の一部です。座談会出席者は、根本到大阪市立大学教授、佐々木亮弁護士/日本労働弁護団事務局長(現在は日本労働弁護団常任幹事)ブラック企業被害対策弁護団代表、森﨑巌全労働省労働組合委員長。以下敬称略。『国公労調査時報』2013年8月号第608号収録

雇用の規制緩和や流動化が成長につながったケースない

 森﨑 『東京新聞』5月22日付で、ILO(国際労働機関)のガイ・ライダー氏は、規制改革の内容に関わって「強調しておきたい」とした上で、「雇用の規制緩和が、成長をもたらす魔法のような解決策として捉えるのは間違っている」と述べています。「日本の成長鈍化は、労働市場の硬直性が原因ではない。逆にいえば、雇用の規制緩和や流動化が成長に繋がったケースもない」とはっきり言い切っている。この指摘にしっかり耳を傾ける必要があります。

「限定正社員」は長時間労働問題の最大の“目くらまし”

 佐々木 本来であれば正社員が長時間労働を強いられているとか、生活を犠牲にするような配置転換があるとか、追い出し部屋のような不当なやり方があるとか、そういう問題をこそ規制していくことが正社員改革のはずなのですね。ところが規制改革会議は、それを「限定正社員」というものをつくって「限定」していこうと言うわけです。「限定正社員」というのは“目くらまし”と言っていいかもしれません。なぜなら、「限定正社員」の反対側には「無限定正社員」ができることになってしまって、その「無限定正社員」ならば長時間労働でいいのか? 生活を犠牲にしていいのか? という問題が何の議論もされないまま進められているわけです。この最大の問題に対する“目くらまし”に「限定正社員」がなっていると思います。

「限定正社員」の狙いは解雇規制緩和と賃下げ
一方で“無限定正社員”の過労死は自己責任とされる

 佐々木 「限定正社員」の狙いは、やはり解雇規制緩和にあると思います。労働契約法第16条の適用除外の正社員をつくるということまでは明文化されていませんが、職がなくなったとか、企業が地域から撤退したとか、そうした時の労働者の解雇をよりやりやすくしようという狙いがあると思います。

 この解雇規制緩和の狙いとともに、「多様な働き方」という観点には2つの懸念があります。1つは正社員の賃金・労働条件の切り下げです。確かに非正規労働者から正規に近づけるために限定正社員を設けるという考え方もあるのかもしれませんが、今回の「限定正社員」の狙いは間違いなく、現在の一般的な正社員を「限定正社員」にすることで賃金全体を下げようという狙いがあるのではないか。つまり、一方には無限定な正社員というのがいて、彼らは長時間の残業もするし、広域配転もあるのだから、当然、賃金は高く設定されている。一方、そうではない「限定正社員」は、賃金も低くていいという流れが出るのではないかと思っています。ですから解雇規制緩和と同時に賃金の切り下げというのが大きな狙いではないかと見ています。

 もう1つ懸念するのは、「限定正社員」をつくることによって一方に無限定正社員というものも出てきてしまう弊害です。たとえば、無限定正社員が過労死した場合、「この人は無限定正社員だったのだから過労死するのは自己責任でしょ」みたいな議論になりかねません。限定に対する無限定というのは、会社に命を捧げるというところまで話が進んでしまう可能性があります。そこまで露骨に報告書は書いてありませんが、当然予想される弊害だと思っています。

「解雇が自由にできる国」と言われているデンマークよりも日本は解雇規制が弱い

 根本 解雇の厳しさに関しては、2008年に出たOECDのデータがあります。このデータによると、正規雇用、非正規雇用、大量解雇あるいは集団解雇を分けているんですが、まず全部をひっくるめた解雇規制でいえば、日本は強い方から24番目、弱い方から7番目ということになっています。よく「解雇が自由にできる国」と言われているデンマークよりも日本は解雇規制が弱いのです。実際にデータで見ても、むしろ日本の解雇規制は足りないのです。

 このOECDのデータが3つに分かれているということで、正規雇用だけをとってみても、日本は解雇規制が強い方から18番目です。正規雇用の解雇規制が日本はすごく厳しいと指摘されることがありますが、世界で使われている統計データで見れば、解雇規制は弱いといえるのです。

 また労働者保護の全般にかかわっては、ILO条約の批准数が、ヨーロッパ諸国においてそれぞれ差はありますが100前後くらいは各国が批准しているのに対して、日本は半分の49しか批准していません。ILO条約の批准数を見ても、労働者保護という意味ではむしろ随分劣っています。日本の労働者保護は、国際比較からもむしろ引き上げなければいけないのです。

ロックアウト解雇や追い出し部屋などが野放しになっている現状の規制こそ必要

 森﨑 私は労働行政の中で解雇の実態も随分見てきましたが、いとも簡単にクビを切られるというのが現実です。そうすると、法制度でさえ解雇しやすい方から7番目ですから、現実の日本の社会はもっとひどい解雇自由の国と言えないでしょうか。労働者が少し口答えしたら即日解雇とか、あるいは一度遅刻したら解雇とか、年休を請求したら解雇とか、そうしたことは私もよく見てきました。

 それから、大企業の多くは、解雇という手続きを取らないで辞めさせます。私はバブル崩壊の時に第一線の職場にいましたが、嫌がらせも含めて、労働者に退職願いを書かせてしまうのです。そうやってあれだけのリストラをやってのけた。解雇は一つもなく、みんなそういう形で辞めさせてきた。そういうことも含めて考えると、日本には乱暴な「解雇」が蔓延しているのです。むしろそうした乱暴な「解雇」をどう規制するのかということを真剣に考えるべきです。今でも、新手のリストラ、ロックアウト解雇や追い出し部屋など、一部の人材ビジネスの指南のもと乱暴なことが行われていて、それが野放しになっている現状があります。解雇ルールの見直しの方向性そのものがやはり逆を向いていると思います。

労働者の使い放題求める「柔軟な働き方」

 佐々木 「柔軟な働き方」と言っていますが、では現在は労働時間が硬直していることが問題なのでしょうか。立法事実があれば柔軟な働き方に向けた施策をとる必要があるわけですが、現在、労働時間の問題として一体何が起きているかというと、過労死や過労自殺、働き過ぎによる精神疾患が増えているということが大きな問題で、これこそが立法事実だと思うのです。より長時間労働を生むような施策をとることはまったく立法事実に反した政策ということになります。労働者がまず求めているのは、もっと休みたい、有給休暇を全部取得したい、長時間労働はしたくない、健康的で人間らしい働き方がしたい、ということだと思います。

 柔軟な働き方、働かせ方を求めているのは逆に使用者側です。使用者側が求めているのは、要するに無料で長く使える労働者です。昨今のブラック企業の若者の使い捨てなどを見ていれば、長時間働かせて使い倒せるよう求めていると見られても仕方ないと思います。それをまるで後押しするようなやり方をしている。現在の労働時間規制は、基本的には青天井で、36協定でもほとんど上限なく長時間労働が蔓延している現状です。マスコミでも報道されているように、労働組合自体が長時間労働に協力している問題がありますから、本来はそうしたことを改善するために、きちんと意識を変えて、長時間労働をすれば一定の割合で人間は死ぬのだという事実を踏まえた上で長時間労働を規制していく必要があります。

 長時間労働をすれば過労死するという事実から出発して、終業から次の始業までのインターバルを必ず何時間以上は取らなければいけないとか、年間の最大労働時間もきちんと決めてしまうとか、そうした実効性のある長時間労働の規制こそが求められているのです。それにも関わらず、労働者の使い放題を求めているという、まったく方向が逆だと言いたいですね。

正社員の解雇自由が非正規労働者を救う?

 森﨑 ところで、正社員改革を考えるとき、正社員と非正規社員を対立して捉えて、正社員の既得権益があるから非正規社員が報われないんだという考え方があります。この間の議論に即して言えば、正社員を解雇しやすくすることによって非正規社員の人達が救われるのではないかというものです。そうしたトレードオフのような考え方についてはどのように見たらよいでしょうか?

 佐々木 まず、正社員の持っている既得権を破壊すれば非正規社員に正社員が得てきた既得権が回ってくるかというと、回ってくるはずはありません。それは正社員が持っていた権利がなくなるだけで、労働者全体の底上げにはまったくつながらないと思います。

 たとえば正社員の雇用が不安定になったとして、非正規社員の雇用が安定するのかといったら、関係ないですよね。皆が不安定になるだけです。労働者の誰も幸せにならない。使用者側は雇用調整がしやすくなりますので幸せになるのかもしれませんが、少なくとも労働者側に幸せは来ない。さらに、正社員ばかりが高い賃金をもらっていて、非正規社員の賃金は安いから、じゃあ正社員の賃金を下げれば非正規社員に回ってくるかというと、そんなに甘いものではないですね。要するに企業としては利益を最大限に確保したいという企業活動の第一の欲求がありますから、企業自らは正社員に払っていた賃金を下げたからといって、その下げた分を非正規社員に回すわけがありません。ですから、正社員の賃金を下げても非正規社員は幸せにならない。そういう意味では、正社員のパイを奪って、そのパイが非正規社員に回ってくるという考え方自体が、夢のようなことを言っているだけで何の実態もない話なのです。

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