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張成沢処刑の報に接して

瞬間、いつの時代だよ、と思った。
張成沢氏を処刑 死刑判決、即日執行、北朝鮮

 【ソウル支局】北朝鮮国営の朝鮮中央放送(ラジオ)は13日早朝、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の叔父で後見人とされた前国防副委員長の張成沢(チャン・ソンテク)氏に対して、12日の国家安全保衛部特別軍事裁判で死刑判決が下され、即日執行されたと報じた。ラヂオプレスが伝えた。
 失脚にも驚いたが、彼はこれまでにも何度か失脚し、復権している。

 今回もそんなレベルにとどまるのだろうと思っていた。

 まさか死刑となり、しかも即執行されるとは。

 近年、北朝鮮の要人が死刑となることがなかったわけではない。

 1997年?には農業担当の徐寛煕党書記が、2010年には経済通の朴南基党計画財政部長が公開処刑されたと韓国などで報じられた。これらについて北朝鮮の公式発表はないが、かといって彼らの健在が示されることもなかった。

 しかし、失脚したにもかかわらず、復権した事例もある。この張成沢もそうだし、昨年の第4回党代表者会で彼以上のポストである党政治局常務委員、党中央軍事委員会副委員長に就いた崔龍海・朝鮮人民軍総政治局長もそうだ。

 失脚したとしても、その理由は示されない。単に公式報道における役職名から解任が判明し、その後の動静も伝えられなくなるというのが1970年代以降の北朝鮮における失脚のありようだった。

 今回のような、反逆者として大々的に発表した上で処刑という手法は、ここ数十年なかったことだ。

 金正恩の祖父、金日成が1950年代に数多くの政敵を葬った手法を想起させる。

 北朝鮮が建国されたころ、金日成は政府の首相、朝鮮労働党の中央委員会委員長(党首)ではあったが、後年のような絶対的な指導者ではなかった。党は金日成らのパルチザン派のほか、ソ連から送り込まれた在ソ連朝鮮人の共産主義者によるソ連派、中国の延安を根拠地とした中国共産党の下で活動した延安派、韓国から逃れてきた南朝鮮労働党(南労党)派、朝鮮北半部で共産主義活動に従事していた国内派といった多彩な勢力の連合体であった。

 金日成は、1953年の朝鮮戦争休戦後、まず南労党派に戦争の責任を負わせ、米帝国主義のスパイとの汚名を着せて処刑した。続いて、1956年、党中央委員会総会でソ連派と延安派が金日成批判を行ったのを機に両派を粛清した(一部の幹部はソ連や中国に亡命した)。1960年代後半には金日成らとは別系統のパルチザンであった甲山派をも粛清し、金日成直系のパルチザン派による支配が確立した。

 反対派の粛清は北朝鮮に限ったことではなく、共産主義国ではよくあることだった。

 ソ連のスターリンは権力を確立した後に、ジノヴィエフ、カーメネフ、ラデック、ルイコフ、ブハーリンら古参の党幹部やトハチェフスキー元帥ら軍幹部を反国家陰謀を企てた「人民の敵」として処刑する大粛清を実行した。

 しかし、スターリン死後の権力闘争を勝ち抜いたフルシチョフは、マレンコフ、モロトフ、カガノヴィチら政敵を党・国家の中枢から排除はしたものの、死刑にはしなかった。この手法はフルシチョフがブレジネフらによって失脚させられた時にも受け継がれ、フルシチョフは年金生活で余生を全うした。

 中国の毛沢東は、抗日戦中も、戦後も、反対派への果断な粛清を行った。文化大革命でも江青ら文革派を利用して劉少奇ら「実権派」を打倒した。劉少奇や、文革以前に失脚していた彭徳懐は、監禁され、虐待を受け、病気になっても満足な治療を受けられず、事実上殺されたと言えるだろうが、しかしその他の多くの「実権派」の要人は、迫害はされたが、殺されるまでには至らなかった。

 毛沢東の死後、トウ小平をはじめ陳雲、李先念、楊尚昆、彭真、薄一波、陸定一といった、生き延びた旧「実権派」が復権し、元老格に収まった。

 トウ小平の下で取り立てられた胡耀邦と趙紫陽は共に失脚したが、殺されることも迫害されることもなかった。

 ソ連は既に崩壊した。ロシアでは、プーチン大統領による強権的な政治が行われているが、野党が存在し、反政府デモを行う自由がある。公正性に疑問がもたれているものの、選挙が実施されている。スターリン時代のような恐怖政治はもはや有り得ない。

 中国では未だ共産党の一党独裁が続いているが、毛沢東時代のような極端な個人崇拝や共産主義的政策はもう行われていない。先の薄熙来の裁判が公開されたことに見られるように、指導部が反対派を恣意的に葬ることができる時代ではない。

 北朝鮮だけが、昔の共産主義国の手法へと回帰している。

 時代錯誤もはなはだしい。

 金正恩は、祖父金日成の統治スタイルの踏襲を意図していると言われるが、恐怖政治までをも踏襲しようとしているのだろうか。

 なるほどそれで体制の引き締めは可能だろう。しかしそれによって、いったいどんな国を作ろうというのだろうか。

 軍事偏重と指導者一族の神格化の果てに、何があるというのだろうか。

 朝鮮総聯中央常任委員会の機関誌である朝鮮新報のサイトを見ると、北朝鮮国営の朝鮮中央通信による張成沢一派粛清の報道をそのまま報じる一方、朝鮮総聯としての独自の見解は示されていない。朝鮮総聯のサイトを見ても、やはり何の論評もされていない。

 彼らはいったいいつまでこんな国に忠誠を誓い続けるのだろうか。それが自らの首を絞めていることに気がつかないのだろうか。

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