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自治体の衰退にどう対処していくべきなのか/ゴーストタウン化の危機

■トヨタ市に対する懸念

以前に住んでいて,しばらくぶりに出かけるとその変貌ぶりに驚いてしまう場所というのは、誰にも一つや二つはあると思う。私の場合、その典型なのが愛知県トヨタ市だ。私の記憶の中のトヨタ市は、『ど』のつく『田舎』だ。当時も急速な住宅開発等が進んでいる区域はあったが、それでも、広大な田舎の田園や森林に比べればほんの一部に過ぎなかった。当時すでに世界第二の自動車会社(トヨタ自動車)の本社があるこの場所は、一方で『開拓を拒む未開の荒地』に思えた。

ところが、しばらくぶりに訪れてみると、あまりの変貌ぶりに言葉さえ見つからない。かつては目隠しをしていても道を間違えそうになかった田舎道でさえ、今やカーナビがあっても道に迷いそうな迷宮だ。企業の急成長に引きずられるように、無理矢理拡張させられたこの企業城下町には、『無秩序の秩序』とも言うべき、アジア的な活気と混沌を感じてしまう。

だが、不自然なほど巨大な商業施設、病院、スタジアム、道路網など、すべてを一企業が命運を握るという危うさは隠しようも無い。最近でこそ、アベノミクスの円安誘導の追い風を受けて、業績は急回復したとは言え、生産基地としての日本の地盤沈下のトレンドは中長期的には避けようがない。しかも、若者の車ばなれ、人口減少等の影響は深刻で、いずれも反転の兆しは見られない。街としてのトヨタ市は、今将来設計を真剣に準備しておかないと、中長期的には衰退/ゴーストタウン化が運命づけられているように思えてならない

■郊外の衰退

実際、街の『衰退』はすでに今の日本のあちこちで現実になりつつある。

マーケティング・アナリストの三浦展氏の著書、『東京から郊外は消えていく!』*1の冒頭に衝撃的な事例が紹介されている。埼玉県狭山市の中古マンション(2LDK、52平米、1974年築、西武新宿線新狭山駅からバス分10分)が390万円(!?)というのだ。狭山市と言えばかつては(といってもバブルのころは)、工業地帯としての雇用もあり、都内への通勤圏としても許容範囲と認知されて住宅地としても有望視されていた印象があったものだが、これが今の現実だ。三浦氏の語りが何とも物悲しい。

1974年に35歳でマンションを買った人は、今、73歳である。15年たったら半数近くが亡くなるだろうから30%が夫婦とも亡くなって空き家になってしまうかもしれない。実際すでに、UR都市機構の古い大規模団地で30%以上が空き家になっていることは珍しくない。65歳以上の高齢者率50%というところも珍しくなく、15年したらゴーストタウンになるだろう。 同掲書 P16
人口の減少、高齢化もさることながら、専業主婦の減少(女性の社会進出、夫の収入源による共働き等)による通勤時間の長い郊外の忌避の傾向、未婚で親元に住むいわゆる『パラサイトシングル』の増加等もあいまって、かつて急速に造営された郊外のベッドタウンの衰退が目に見えて進んで来ているようだ。

■地域間の競争の時代

同書には、首都圏在住の住民の意識調査に基づき、これからの都市/郊外のありかたについて述べてある。もちろん現在の住民の意識だけで、10~30年くらいのレンジを正確に見通すことは難しいとはいえ、一つだけ間違いないのは、今後は各自治体間で、否が応でも、人口の誘致合戦を余儀なくされるということだ。もちろんこれは首都圏に限ったことではない(というより、地方ではすでに今目の前にある現実、あるいはすでに起きてしまっていることかもしれない)。個人にとってはどこに住み、どこに資産を持つかが死活問題になる。自治体がゴーストタウンの方向に向かうようなら、公共サービスも衰退し、子供の教育環境も悪化し、資産としての住宅も『クズ』になりかねない。三浦氏が指摘するように、中途半端な地域/自治体は地域間の競争に負ける時代になる。

■住宅のマネジメントの必要性

では、どうすればいいのか。

端的に言えば、『住民として住みたくなるような環境を整え、安く住宅を提供すること』という身も蓋もない回答になってしまうが、そのためには具体的にどうすればいいのか。三浦氏は、明海大学教授の齋藤広子氏の論文(『住宅地の再生、本格的に新たなスキームが必要』)を参照して、次のように述べる。

このように、放っておくと住宅地が劣化してしまうのは『第一に、空間の作り方が間違っていた。時代の変化に耐えうる空間のゆとり、多様な世代が住める多様な居住の場がなく』、『まちに必要な『働、学、憩、農』の機能をつくらなかった』。つまり、若い核家族が永遠に、入れ替わり立ち替わり住宅地に住むという想定がされていたのである。『第二に、住宅地をマネジメントする主体がなかった。』そもそも『マネジメントの発想がなかったのである』。 (中略)

ひとことで言えば、高度経済成長時代の人口の都市集中と、郊外への居住地拡大のトレンドの中では、住宅をマネジメントする必要性が意識されなかったのである。

同掲書 P194~195
住宅のマネジメントとは(齋藤氏によれば)『居住性の再生、資産価値の再生』で、中でもその中核に、アメリカに事例のある持ち家の所有者からなる組織をつくり、専門業者に委託し、住宅地の質、資産価値を維持・向上させる組織を組成すること、特に、空き家・空き地の活用方法を考え推進していくことが必要、という。私自身、この夏故郷に住む父親をなくし、実家を空き家にしてしまった立場でもあり、このような住宅のマネジメントの必要性/重要性は身にしみる。

■都市はつまらない

また、従来型の都市開発は、均質で効率的な、人工的な都市をつくることが正とされてきて、土地単位当たりの収益の最大化というニーズもあり、どこも空間は均質化し、没個性になった。これに対して、三浦氏が実施したアンケートでは、『東京の都心は便利になったが、つまらなくなった』という回答者の意向がはっきり現れてきている。何も無いところに高層マンションとショッピングモールをつくっただけでは、恒常的に人を魅きつけ続けることには難がある。少なくとも、それだけでは地域間の競争に勝ち抜くことは難しそうだ。昨今、IT技術を駆使して利便性を追求する『スマートシティ』や『スマートハウス』にしても、近代化/モダンの発想から抜け出していないことを常々痛感する。

■必要な要素

では、どういう要素が必要なのか。

『地域のコミュニティ性』『全体景観の良さ』『歴史/史的価値』『広くてまっすぐで単調な道路より、狭くて曲がりくねって複雑な路地』『恐ろしげなものも含めて何が出て来るかわからない場所』『ピカピカのビルより味わいのある古い建築物』等、近代化/モダンのアンチテーゼのような要素が次々に思い浮かんでくる。少なくともこちらのほうが『面白い』し三浦氏が指摘するように、文化的には成熟の兆しとして尊ぶべきところだろう。だが、いずれも土地の単位当たりの収益の最大化を前提とすると如何にも非効率で、市場での経済合理性を最重要視する自由競争にまかせる限り、実現が難しいと言わざるをえない。

■バックヤードでの最大効率化

同書にもこの点については必ずしも有効な回答が述べてあるわけではないが、私自身の見解を言えば、古い街並みや景観を出来るだけ保持して、その裏側ではインターネット/通信技術を最大限活用して、最大限の効率化を実現する、という方向を突き詰めることがあらたなチャレンジになってくると考えられる。従来は、建築物等が近代化して空間が均質化し、人々の間の交流が疎遠になる事態に対処する目的で、インターネット空間を重ねることで、均質空間を多様化し多孔化(鈴木謙介氏『ウェブ社会のゆくえ』*2)することが志向されてきたが、今後は、空間の多様性を可能な限り残しながら、バックヤードでの最大効率を追求することが志向される時代が来るように思える。

■物語/神話

地震であらわになったリスク(海抜が低く津波被害を受けそうな地域、液状化が予想される地域、さらには福島原発の事故の影響を受けている地域等)で、そもそも土地自体にハンディキャップを負っている地域はどうすればいいのか。それこそ、東浩紀氏が推進する、『福島第一原発観光地化計画』*3の書評にも書いた通り、誰にとっても魅力的な新しい物語/神話を創ってネガティブなイメージを払拭/上書きしていく必要がある。具体的には観光地化という手法は有効な一つだが、それだけではないだろう。それこそ、創造性が求められる。

■ビジネスとしての新規分野

自治体にとっても住民にとっても、非常にシリアスな問題だが、ビジネスという観点で言えば、これほど創造性が求められる新規分野はないと言っても過言ではない。大変な事態だが、意欲を持って乗切っていきたいものだ。

*1

リンク先を見る

東京は郊外から消えていく! 首都圏高齢化・未婚化・空き家地図 (光文社新書)

*2

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ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207)

*3

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福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

  • 作者: 東浩紀,開沼博,津田大介,速水健朗,藤村龍至,清水亮,梅沢和木,井出明,猪瀬直樹,堀江貴文,八谷和彦,八束はじめ,久田将義,駒崎弘樹,五十嵐太郎,渡邉英徳,石崎芳行,上田洋子
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