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リアリズムと陰謀論(1)

読むと言ったので読みましたよ。北野幸伯『日本自立のためのプーチン最強講義』(集英社インターナショナル、2013)。「突如、政界引退のプーチンが「隠居場所」に選んだのは日本だった!/相談を持ち込む「矢部首相」らに彼が与えた秘策とは?」(オビ)という趣向の巧拙については私のよく評価するところではないけれど、全体としてはまあその、こういうの読むといいのではないだろうか。

つまり全体として外交・エネルギー・食料安全保障・経済などの問題について国際関係論におけるリアリズム的な立場からの説明を展開したものと整理することができ、第一にこれらの問題が相互に関係しあっているという(高校などの教科の枠組からは意識しづらい)点を大きく捉えることができるだろうという意味で悪くない。第二に、他国との友好関係でも国家としての自尊心でもいいが政治外交に関する義務論的な見方(○○は正しい、故に○○しなくてはならない(その結果とかコストとかを気にするべきでない))が蔓延しているのに対し、どのような帰結が生じるかを考えて最良の選択を取るべきだ(その選択肢に内心は不満があるとしてもとりあえず我慢しておけ)という帰結主義的な立場を正面から取っている点でも、最終的にどうするかはとにかく見ておいたほうがいい。

かつ、リアリズムが「正しさ」の問題を考慮しないというありがちな誤解に対し繰り返し説明を加えている点も丁寧に感じた。つまり一方でリアリズムは、天から16tのオモリが降ってきて邪悪なる存在に自動的に制裁を加えるようなことがない以上、「正しさ」はお題目でしかないと考える。しかし他方、世の中を動かす力(我々一人一人も少しずつは持っているもの)を持っている人々がお題目を信じて行動を変える以上、それのありとなし(正確にはそれがあると人々が信じる状況とそうでない状況)とでは帰結が変わってくるとも考えるわけだ。だから自分たちに正当性があると人々に信じさせることの価値を、リアリズムは決して無視しないことになる。このあたり、とかく義務論者(のうちデキの悪い人々)は誤解しているところではある。

もちろん内容に問題がないわけではないので、「こういう見方もあるのか」という感じで批判的に読むことが重要。一例を挙げると、技術のスケーラビリティということには非常に無頓着だなという印象を持った。つまりたとえば、1台のサーバで1000人のユーザを管理できるオンラインゲームがあったとして、同じサーバをあと9台増設すればユーザ1万人に対応できるということにはならない。サーバ間での情報共有などインタラクションのための負荷が別に生じるだろうし、その負荷は分割したサーバの台数が多ければ多いほど(規模が大きくなればなるほど)膨らむだろうからである。一般的に、小規模のサービスが実現できる技術があったとしてもそれを量的に拡大すれば大規模な問題が解決できるということはできない。日本独自でエネルギーを作り出す新技術の芽がある、という段階から日本全体のエネルギー問題の解決というところまで飛んでいってしまうのはどうなのかな、などとは思ったわけだ。

* * *

もう一点、一般向けの書籍だからということか著者の筆が滑ったのか、多少問題のあるところがある。作中のプーチン氏は「世界情勢に偶然は存在しない。/すべては必然である。」という内容を「リーダーたるものが絶対に知っておかなけりゃあいけない事実」[38]とするのだが、これは正確にはそのように想定せよという内容だろう。

つまり、現実には気まぐれとか前夜に飲んだ睡眠薬の量などといった偶然的要素によって個々の為政者の行動が影響をうけることはあり得るし、国家単位で見ても与党内の勢力争いや人間関係、あるいは天災がいつ発生しその時点で国会の会期が何日残っていたかというような要素が意思決定に影響する可能性はあるわけだ。政権内部の動向がリアルタイムにつかめることは少ないし、個々の政治家の内心を覗いてみることができない以上、そこに偶然が存在しないと断言することはできない

だが、そこで相手は非合理的に違いないとかどうせ頭が悪いと想定し、実際にはその逆だと痛い目を見ることになる。それよりはもっとも合理的で賢明に行動しているような存在だと相手を仮定しておこうその場合は間違っていたとしても(相手は実のところあたまが悪かった)対応はより簡単になるだけで、被害は少ないだろうと考えるわけだ。つまり前述の内容は、「国家の安全保障については、常に「最悪」を想定して、準備をしておく必要がある」[210]、prepare for the worstという危機管理の一般原則によるものだと理解すべきだろう。そしてここに、リアリズムと陰謀論の差異がある。

陰謀論とは何かという説明にも難しいところはあるが、とりあえず結果からさかのぼってその背景にある事態や関係者の行動、事実の解釈をすべて決めていく発想法だということができるだろう。そこにおいて他者は独自の観点や価値観や利害関係を持っているような、つまり自分にとって不可解な・不確定な部分をどこかに残すような存在としてではなく、自分が「結論から考えるに当然こうでなくてはならない」と考える動きをしているだけの生き物として、つまり真の他者ではなく自分が描いている劇の登場人物のように想定されることになる。ユダヤ陰謀論でもコミンテルン陰謀論でもこの点は同じであり、どちらでも陰謀の「黒幕」は非常に合理的でない・よくわからない偏執に囚われたような存在として描かれるのであるが、それはそもそもそのような陰謀論に染まる人間に「自分とは違う観点」や「価値観の対立」といった要素を理解する能力がなく、他者を合理的な存在として想定してその動作・反応を予想することができないからなのである。

言い換えれば、他者が他者であり、その理解に常に不確定性がつきまとうということを前提として、相手がもっとも計画的・合理的に行動していると想定することを「もっとも安全な賭け」として選ぼうというのがリアリズムの原理であるのに対し、陰謀論は自分の依拠する結論が絶対に正しいという前提から出発して、それに同意・合致しない人々の行動をすべて「陰謀」で説明するという発想法である。つまりその世界に《自分と同等だが異なる他者》が存在する余地などない、ということになるだろう。つづく。

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リアリズムと陰謀論(2)
リアリズムと陰謀論(3・完)

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