記事

原発の「観光地化」という“逆転の発想”

「門田さん、福島第一原発を“観光地化”すると言ったら、どう思いますか」。私は突然、そんなことを聞かれて仰天してしまった。しかし、言っている本人は、いたく真面目だ。そして、1冊の本を差し出された。

福島県内で次作の取材をつづけている私は、昨夜、いわき市で地元の人と飲み会をやった。その席でのことである。その人は、福島県双葉郡の富岡町出身で、弁当や給食サービスの会社を運営している藤田大さん(44)である。差し出された本は、『福島第一原発 観光地化計画』というものだ。

分厚い写真つきの本で、巻かれている黄色い帯には、「原発観光地化 あり? なし?」と大きな字で書かれている。筆者・編集人は、作家の東浩紀氏である。

「どういうこと?」と私が聞くと、「あれほどの事態をもたらした福島第一原発を逆に観光地化して、人を呼ぼうという考えです。人にどんどん来てもらえれば、地元は活性化していきます。日本だけでなく、世界中から人に来てもらえば、双葉郡も復興していくと思うんですよ」

真剣な表情でそう訴える藤田さんの顔を見ながら、私は、「ユニークな“逆転の発想”だなあ」と、感心してしまった。たしかにおもしろい考えである。

「あとづけ」を見ると、この本は「11月20日」に発売されたばかりだ。藤田さんは、この本の趣旨に賛同しており、「福島第一原発を“観光地化”」して、「世界中から人を呼び」、地元を活性化させる「夢を持っている」と、私に言うのである。

「人が離れていく」被災地の中心である原発に、逆に「人を呼ぶ」――奇想天外な考えである。私は、今日、この藤田さんと、フタバ・ライフサポートの遠藤義之専務(41)の二人に案内されて、許可者以外は立ち入りができない双葉郡富岡町の「夜ノ森地区」のぎりぎりの境界まで行ってきた。

同じ富岡町でも、その境から先は「帰還困難区域」であり、そこで検問がおこなわれていた。藤田さんと遠藤さんの二人は、自宅がこの帰還困難区域内にあり、許可なしでは二人とも自宅に行くことはできない。

しかし、それ以外の富岡町は行き来できるので、私はあちこちを案内してもらった、私の次作のノンフィクション作品は、この富岡町の“ある場所”からスタートするからだ。私はその地を見にきたのである。

昨年、拙著『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』の取材の時は、楢葉町のJヴィレッジまでが通行可能な区域だったが、富岡町まで行くことは、とても無理だった。

この1年の間に、そこから行き来ができる区域が15キロも広がり、富岡町まで来ることができるようになったことを思うと、感慨深い。

私が“初めて”見る富岡町の姿は、目を覆うばかりだった。海に近い富岡駅は駅舎ごとなくなり、鉄の改札だけが今もポツンと残っている。駅前の店舗、ホテル、飲食店は見事に地震と津波に破壊され、至るところで、津波に流された自動車が引っくり返り、あるいは土中に突き刺さっていた。

海岸に近い住宅地帯は、見事に何もなくなっていた。生い茂った草むらの中に、よく見ると建物の土台だけが残っている。かつて家族団欒(だんらん)を過ごしたマイホームが土台を残してすべてなくなっているのである。

富岡川の河口にかかる橋も、橋桁が落ちて段差が生じ、通行はいまだに不能だった。町の大半が帰還困難区域ではなくなったものの、まだ「居住制限区域」であることに変わりなく、富岡町には震災から1000日以上を経た現在も、誰も住むことができない。

今日、案内してくれたお二人は、富岡町内の元の自宅に帰ることもできず、今はいわきで暮らしている。そんな二人にとって、“地元復興”が悲願であることは言うまでもない。

共に双葉高校出身という二人から飛び出した「原発観光地化」という言葉は刺激的であり、興味深いものだった。たしかに「人が離れる」なら「人を呼べ」である。

原発事故の悲劇を二度と繰り返さないためにも、また、この東日本大震災の教訓を忘れないためにも、「現場の観光地化」という“逆転の発想”は興味深い。原爆ドームが広島原爆の悲劇を現在に伝え、ついには世界遺産に登録されたことを思えば、二人の発想は一笑に付すような類いのものではないだろう。

藤田さんが富岡町のある場所で、「ここはホットスポットですから、数値を見てみましょう」と言って、線量計を取りだした。たちまち数値は上昇し、なんと「76マイクロシーベルト」を記録した。

「ああ、70台の数値が出ましたね。私もさすがに初めてです。こんな数値が見られるなんて、門田さんも運がいいですね」と、藤田さんは言う。

「ああ、今日は猪豚(イノブタ)が出ました」と、富岡駅のすぐ近くで二人が同時に声を挙げたのは、それから1時間近くあとである。見ると、閉まったままの測量会社の駐車スペースから“つがい”と思われる二頭の猪豚が出て来て、車に乗っている私たちに近づいてくる。完全に野生化したものだ。

「同じように町なかにいても、猪(イノシシ)より猪豚の方がおとなしいですよ。猪は人間を見ると突っかかってきますから」という。放射能汚染で人がいなかった2年間のうちに、ここ富岡町では、人間に代わって野生化された動物の方が主役だったようだ。

「原発観光地化」を各方面に持ちかけ、そのプロジェクトを進め、「この地を世界中から人が集まってくる場所にしたいんです」と、二人は言う。富岡で生まれ育った二人の真剣な目と、わがもの顔で道を闊歩(かっぽ)する野生動物の姿は、あまりに対象的なものだった。

たしかにそれほどのユニークな発想でなければ、この地の復活は難しいだろう。奇抜な発想こそが、あらゆるものを活性化させる可能性がある。「人が離れるなら、人を呼べ」。どんな人でも「福島の浜通りに来てください」。そして、「その目で震災の惨状を目に焼きつけてください」。

あまりの惨状と傷跡に塞(ふさ)ぎこんだ時期を経て、今、逆転の発想で彼らのように「大反攻」を考える人がいる。私は、どんな試練にぶつかっても、決してへこたれない浜通りの男の姿を見て、心から二人を応援したくなった。

あわせて読みたい

「福島第一原発観光地化計画」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ベガルタ選手 交際相手DVで逮捕

    SmartFLASH

  2. 2

    岸防衛相の長男 フジ退社で衝撃

    文春オンライン

  3. 3

    米山元知事が橋下氏の煽動に苦言

    SmartFLASH

  4. 4

    淡々とデマ正した毎日新聞は貴重

    文春オンライン

  5. 5

    任命拒否 背景に大学への不信感

    PRESIDENT Online

  6. 6

    マスク拒否で降機「申し訳ない」

    ABEMA TIMES

  7. 7

    TV設置届出? 感覚がズレてるNHK

    NEWSポストセブン

  8. 8

    ウイグル弾圧をルポ 朝日に評価

    BLOGOS しらべる部

  9. 9

    コロナで潰れる「強みのない店」

    中川寛子

  10. 10

    初鹿明博氏が議員辞職する意向

    ABEMA TIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。