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2013年の経済倫理地図 あなたはなに主義?の政党分析 - 橋本努

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第二次安倍政権後のイデオロギー

昨年(2012年)の12月26日に第二次安倍晋三内閣が誕生してから、約一年を迎えました。最近のアメリカ経済の景気回復も手伝って、日本の株価は現在、リーマン・ショック以前の高値に戻っています。政治よりも経済に軸足を置いた「アベノミクス」の政策は、一応の成功を収めたとも言えるでしょう。むろん、アベノミクスをやらなくても、米国経済の回復や消費増税前の駆け込み需要で、日本経済は回復したはず、との意見もあるでしょうから、評価には一定の留保が必要です。

ではそもそも「アベノミクス」とは、どんなイデオロギーに基づくのでしょうか。「アベノミクス」の正体は、「新自由主義」なのか、それとも「反新自由主義」なのか。あいはこの二つをアベコベに組み合わせた新種の主義なのか。いろいろな疑問が提起されていますが、思想の混迷状態が続いているようです。

去る7月の選挙で、自民党が安定多数派として第一党になると、イデオロギーの対立状況は後景に退き、多数派による多数派のための利益政治が復活してきました。それにともなって野党の存在意味も変わり、経済倫理のイデオロギー構図が、すこしズレてきたのかもしれません。

約5年前に刊行した拙著『経済倫理=あなたはなに主義?』(講談社メチエ、2008年)で、私は現代イデオロギーを分類するための4つの質問を立て、それらの問いへの答えの組み合わせから、16通りのイデオロギーを区別できることを示しました。ここではその基本的な4つの質問を、2013年の時事問題に照らして、立て直してみましょう。それによって現在の諸政党が、どんなイデオロギー的位置にあるのか、という問題に迫ってみたいと思います。

4つの基本問題アンケート

2013年に話題になった経済事情は、原発問題、アベノミクス、食品偽装問題、TPP参入問題、等々でした。食品偽装の問題について言えば、これは、「内部告発」問題の一端であり、内部告発に関してはこの他にも、半沢直樹(ドラマ)、秋田書店の景品偽装、運送業者のクール宅急便偽装なども、話題になりました。あるいはまた、国家の「特定機密保護法」の是非も、内部告発の可能性に関わる重要な問題です。オリンピック主催の是非なども話題となりましたが、以下では単純化のために、問題を4つに絞って、現代イデオロギーの構図を考えてみます。

皆様、以下のAからDの質問に対して、「イエス」ですか、それとも「ノー」ですか。

【問A】「原発」について。

もし原発を、政府に頼らず市場ベースで維持できるなら、例えば、事故が起きた場合には保険で被災者の損害をカバーし、最終処分場も整備できるとすれば、原発を維持してもよいと思いますか。それとも、経済以外の理由(道徳上の理由など)から、反対ですか。

【問B】「アベノミクス」について。

政府は、黒田日銀総裁を任命する際に、日銀法の改正をちらつかせて、日銀の独立性を揺るがしました。そして日銀との連携強化によって、大胆な金融緩和(大量の国債発行)を行いました。これによって政府は、財政支出とその赤字を拡大させたわけですが、このような経済成長戦略に、賛成でしょうか。それとも、政府は「ルールの下での公正な市場競争」を維持すべきであり、日銀の独立性は維持、財政規律も維持、ケインズ主義的な介入政策には反対、というルール重視の立場をとるべきでしょうか。アベノミクスに賛成かどうかをお伺いします。

【問C】「内部告発」について。

ドラマ「半沢直樹」で、今年は「倍返しだ」という言葉が流行語になりました。主人公は、自らの企業の不正を内側から正そうとしたわけですが、にもかかわらず「出向」の処分を受けました。そこで質問ですが、「内部告発者」に対して、どのような処分が望ましいでしょうか。出向のみならず、解雇を含めて処分を検討すべきでしょうか。あるいは反対に、内部告発者は保護すべきであり、社内でのいかなる処分も、法的に不当とみなすべきでしょうか。処分すべきかどうかについて、お答えください。

【問D】「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」について。

国際貿易における関税、とくに外国の農産物を日本が輸入する際の税率について、お伺いします。日本政府は、日本の国土を守る、美しい風景を守る、国民の暮らしを守る、あるいは伝統を守る、といった道徳的価値を考慮に入れて、関税率の引き下げ(TPPへの参加)に反対すべきだと思いますか。それとも、これらの道徳的価値は、基本的に自由貿易経済の下でも生じうるのであって、日本の農業は基本的に、グローバルな市場で勝負すべき、ただしうまくいかないところは農家に対する戸別所得補償で補うべき、と思いますか。TPPに賛成かどうかを伺います。

以上の4つの質問は、それぞれ話題になった時事問題を、ある角度から切り取った問いかけになっています。もしかすると、必ずしも「イエス/ノー」で答えることはできないかもしれません。ただ単純化と分類学的限界のために、このような問いかけとさせてください。

4つの問いの意味について

ここで以上の4つの問いについて、すこし補います。

問Aは、企業(この場合電力会社)は基本的に「金儲け第一主義」で経営を行ってよいかどうか、という問題です。

長期的な視点に立った場合、やはり経済以外の道徳の問題についても考慮すべき、と考えるなら、答えは「ノー」になります。例えば、原発は、重大事故が起きたときに、被災者に対してたんに保障すればいいという問題ではなくて、将来世代に「日本の美しい大地」を残してあげたいという、道徳的な問題なのだ、と考えることもできるでしょう。

あるいは、原発に反対している人のなかにも、その理由は「コスト」の問題であって、もし本当に原発のコストが安い(あるいは将来安くなる)のであれば、原発は経済的に望ましいと考える人もいるかもしれません。ですからこの問題は、いま自分が実際に原発に反対しているか賛成しているかではなく、「もし市場で勝負できるなら」という仮定の下で、原発に賛成か反対かをお伺いするものです。

問Bは、経済政策や制度の理念として、「公正」が望ましいか、それとも「秩序の安定・成長(全体の利益)」が望ましいか、という問題です。

「アベノミクス」には三本の矢があると言われます。(1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略です。これらの政策を行うときの問題点は、それが日銀の独立性を脅かすかたちになる、という点です。政府は、日銀からいわば自由に借金できるようになり、したがって財政規律というルールが無視されてしまいます。経済全体の成長のために、市場経済の公正さを保つためのルールを軽視してもいいのかどうか、という点についてお伺いします。

この点、ネオリベラリズムの思想は一般に、アベノミクスに反対です。日銀は政府から独立しているべきですし(そうしないと政府は財政赤字を拡大しつづけるでしょう)、また公共事業による市場介入政策は、市場競争を阻むのであり、市場のルールに従っているとは言えないからです。

ただし、ネオリベラリズムの思想も、リバタリアニズムとの比較では、「秩序の安定・成長」を重んじる立場です。思考実験として、例えばリーマン・ショック後に、アメリカ政府は、倒産寸前の諸銀行を救済すべきだったかどうか、という問題を考えてみましょう。ネオリベラリズムの立場は、「秩序維持」の観点から「救済すべき」と発想します。

これに対してリバタリアニズムの立場は、「公正な市場のルール」を重んじる観点から、「救済すべきではない」と発想します。このように、何が「公正」で、何が「秩序の安定・成長」に資するのかは、問題状況に応じて変化します。ネオリベラリズムは、アベノミクスに反対するといっても、「秩序の安定・成長」一般に反対しているわけではありません。ここでは評価の相対性が問題になります。のちほどの分析で、いちいち分類の仕方を再考しなければならないので、やっかいです。

問Cは、企業ごとに自由な経営方針を認めてよいかどうか、という問題です。

例えばある企業が、「うちは女性社員を雇わない」とか「女性はお茶くみ係のみだ」という方針をとりたい場合、私たちはそれを自由に認めてよいでしょうか。企業の運営方針を、自主性にまかせていいでしょうか。それとも、どんな企業であれ、組織内部で開かれた人間関係を構築すべきなのでしょうか。例えば「うちは内部告発はダメ、告発したら解雇」というルールを、それぞれの企業に認めてもよいのでしょうか。それとも内部告発者は、社会全体に利益を与えるので、法的に保護(解雇は違法)すべきでしょうか。「自由な家父長制を認めるか、それとも人為的なリベラル制で統一すべきか」という問題です。

この問題は、最近衆議院で可決された「特定秘密保護法」とも関連しています。国家の特定秘密が保護されると、その話題に関する内部告発ができなくなります。企業における内部告発の意義を認める政党は、おそらくこの特定秘密保護法案に対しても、反対の立場をとるのではないでしょうか。

問Dは、国家による道徳的包摂か、市場のもとでの倫理期待か、という質問です。

例えば、コンビニで売られているポルノ雑誌について、これを国家が規制すべきだと考える立場は、TPP反対の立場と類似しています。どちらも、国家が市場に介入して、社会を道徳的にすべきだ、と発想するからです。

これに対して、ポルノ雑誌容認の立場は、TPP賛成の立場と類似しています。どちらも市場ベースでの利益を第一に考えるからです。この市場ベースの立場は、社会が道徳的になるかどうかは、国家に押し付けられたくないと発想します。むろんこの立場は、市場競争のなかで、道徳的なコンビニ(ポルノ雑誌を売らないコンビニ)が勝てば、それが望ましいと発想するでしょう。あるいは、日本の国土を守るような活動をする農業組合ないし農業経営体がグローバル市場で勝てば、それが望ましいと発想するでしょう。

なおTPP参加の是非については、これを純粋に経済学的な見地から論じることもできます。参加しない方が経済的に有利、という考え方もあると思います。ただここでは、経済以外の道徳的要因を、国家が考慮すべきかどうかについて、お伺いします。

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