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ついに可決された特定秘密保護法 自民党が喧伝する「中国脅威論」の虚妄と日本の「ナショナリズム」を利用する米国のシナリオ

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 これは本当に空母といえるものなのだろうか。空母超大国のアメリカの評価は厳しいものだった。当時のニューヨーク・タイムズ紙はこう報じている。『中国は国家元首まで登場して初の空母保有を宣言したが、中国が誇る初の空母は外国向けの誇示に過ぎず、中身はない』。つまり周辺国を脅かすための『張りぼて』と喝破したのだ。

 米国務省に至ってはもっとそっけなかった。『特に驚くべきことはない』(国防総省スポークスマン)。少なくとも日本のマスコミが報じたような『軍事バランスをただちに変える』ライバルの出現とは思っていないのは確かなようだ。

 海上自衛隊の中には、『日本のヘリコプター搭載護衛艦(ヘリ空母)の出現におっとり刀ででてきた鉄クズ空母』との声まである。米国防総省の担当者は試験航海する『遼寧』の偵察衛星から送られた写真をみて吹き出したという。

 『甲板に艦載機ゼロ。カタパルトも発艦装置もない』。「遼寧」は世上言われるような空母ではなく、ただの全通型甲板を持つ”輸送船”だったという。これでは短時間に艦載機を何十機も飛ばせる空母の姿に程遠いというわけだ。[91ページ]

 この記述が事実ならば、「遼寧」は、日本国内で大々的に喧伝されているほどの実戦能力を持った空母ではない、ということになります。

 日本側は「遼寧」の存在を過大に警戒していますが、ここ数年で軍事力の増強を図ってきたのは、中国ではなく、実は日本側なのだと、小河・国谷両氏は、同書の中で綴ります。

 日本の海上自衛隊は、2009年3月、「ひゅうが」を、そして2011年3月には「いせ」を、それぞれ就役させています。

 海上自衛隊は、この「ひゅうが」と「いせ」を、潜水艦による攻撃に備えるための「ヘリコプター護衛艦」だと称している。しかし、「ひゅうが」と「いせ」の実態は、それぞれ11機のヘリコプターを搭載している「ヘリ空母」なのです。さらに、いざとなれば、簡単な甲板修復で、ハリアー戦闘機10機を搭載することも可能だと言われています。

※海上自衛隊ホームページ 「護衛艦」紹介コーナー

 このような「ひゅうが」や「いせ」のようなタイプの「護衛艦」は、海外では「STVOL空母」と呼ばれます。「STVOL」機とは、短距離での離陸と垂直着陸ができる戦闘機のことです。つまり、「ひゅうが」や「いせ」は、甲板修復を行い、戦闘機を搭載すれば、いつでも攻撃用の空母に様変わりすることが可能なのです。

 防衛省は海自最大のヘリコプター護衛艦『22DDH』を建造中だ。基準排水量一万九五〇〇トン、長さ二四八メートルの全通型飛行甲板を持ち、『護衛艦』と称するが外見は空母そのものだ。(中略)
 将来は『F35』戦闘機も艦載機として運用できるよう飛行甲板の強度と耐熱度を強化した設計となっている。『日本が国内世論や中国の批判を恐れて護衛艦と強弁しても無理。世界の軍事常識からみれば22DDHは最強の空母の分類であり、仮に艦載機をオスプレイや対潜ヘリだけに限定してもヘリ空母と呼ばれる主役級の現代空母になる』とロシアの軍事専門家は警戒を隠さない。[85ページ]

 この「22DDH」と、「いせ」「ひゅうが」そして輸送艦の「おおすみ」を加えると、日本は実質的には「空母」の機能を備える艦船を4隻保有することになる、といいます。

 なお、「22DDH」は、今年8月6日、「いずも」として進水しました。就役は2015年3月の予定とされています。

※海自最大艦「いずも」進水 15年に就役(産経新聞、8月6日)

※「いずも」の進水式の様子は、海上自衛隊が動画を公開している。動画をご覧いただければ、非常に巨大な「空母」であることがお分かりいただけると思う。この進水式には、麻生太郎副総理、石破茂自民党幹事長が参加している。(【動画URL】http://bit.ly/1jACYcW

 「空母」を「空母」とあえて呼ばないことについて、小河・国谷両筆者は、「空母保有に対する周辺国の軋轢(あつれき)や、左翼や反日勢力の非難を考慮した賢明な対応といえるかもしれない」と記しています。

 この表現からわかる通り、両氏は左派の人間ではなく、どちらかと言えば右派の論客であろうと思われます。小河正義氏は航空評論家で元日経新聞編集委員。国谷省吾氏は大手新聞(どこの新聞かは明記せず)で勤務後、アジア企業のコンサルタントも務める国際ジャーナリストであると、同書に肩書きが記されています。

 彼らのような、どちらかといえば右寄りの論客の目から見ても、東アジアの海域で一方的な軍備増強を図っているのは中国海軍というよりも、むしろ米軍および海上自衛隊の方が先行しており、それが中国側に過剰な刺激を与えている、と映っているようです

 私が12月5日にインタビューを行った、「有事法制」研究の第一人者の山口大学副学長の纐纈(こうけつ)厚氏も、次のように指摘しました。

 「中国が『遼寧』という空母を保有したのは、実際の戦闘に使用するためではなく、中国人民解放軍が自らの軍事的プライドを担保するための装備です。この装備に、どれだけの軍事的な有効性、汎用性があるかは、非常に疑問です。

 それから、『遼寧』に載っている戦闘機は非常に旧式です。ですから、例えば米国の第7艦隊などには、とてもではありませんが歯が立ちません。ですから、具体的な戦闘は、千歩一万歩譲っても、ないと思います」



※2013/12/05 岩上安身による山口大学副学長・纐纈厚氏インタビュー

 こう指摘する纐纈氏は、ほとんど報じられることのない海上自衛隊の実態を明らかにしました。

 「日本の自衛隊は、防衛省は大型護衛艦と言っていますけど、1万トンを超える空母があります。このたび、フィリピンにも行きましたよね(※フィリピン救援に海自最大艦「いせ」など3隻、1000人規模派遣 産経新聞、11月13日)。

 飛行甲板が左舷に集中配備されていて、135メートルあります。これは、ヘリ空母です。イギリスから技術を提供してもらって、飛行甲板ができたんですね。昔だったら軍艦と言われたものですが、それを護衛艦と言って作ろうとしているのです

 完全に、今の日本の海上自衛隊は『外征型』です。『専守防衛』などという言葉は、もはや彼らの中では死語です。自衛隊の幹部は、本音では『専守防衛』なんて思っていません。それは、海上保安庁に任せればいい、と思っています。『俺たちは外に出て行って、周辺事態に備える』、という腹なんですね」

 その実態を糊塗され、日本国内では強調される「中国脅威論」。その声に後押しされ、着々と重武装化を進める日本の自衛隊。

 今国会で可決した特定秘密保護法案と日本版NSCの創設、そして来年初頭にも行われるのではないかと懸念される解釈改憲による集団的自衛権の行使容認とは、「中国の脅威とそれに対抗する自衛隊」という、「物語」に力を得て、日本周辺の有事どころか、「地球の裏側でも、宇宙でも」(安保法制懇の北岡伸一座長代理)米軍につき従って戦争する体制を整えているのです。

◆反中感情が高揚したきっかけを作ったのは、石原慎太郎前東京都知事◆

 もうひとつ、改めて検証しなくてはならないのは、ここまで日中関係が急速にこじれてしまったのはなぜか、どういう道筋をたどってのことか、という経緯です。

 事の発端は、今から1年半前。2012年4月16日に飛び出した、以下の発言でした。

 「東京都はあの尖閣諸島を買います。買うことにしました。たぶん、私が留守の間に実務者が決めているでしょう。

 本当はね、国が買い上げたほうがいいんだけれども、国が買い上げると支那が怒るからね。なんか外務省がビクビクビクビクしてやがんの」

 これは、昨年4月16日、当時東京都知事だった石原慎太郎氏が、東京都による尖閣諸島の購入を宣言した際の発言です。現在に至る日中関係の極端な悪化の、まさに起点となる爆弾発言です。

 この発言以降、尖閣諸島を巡り日中関係がどのように悪化したのか、時系列で簡単に振り返ってみましょう。

 4月16日の石原氏の発言に対し、中国外交部はすぐさま「日本側のいかなる一方的な措置も違法かつ無効であり、この島が中国に属するという事実を変えることはできない」との談話を発表、東京都による尖閣諸島購入の構えに強く反発しました。

 それに対し、当時の野田佳彦総理は5月18日、中国政府の反発を和らげ「平穏かつ安定的な維持管理」をするためなどとして、政府関係者に尖閣諸島の国有化を指示、7月7日には、実際に国有化の方針を正式に表明しました。

 そして9月10日、日本政府は、尖閣諸島の中から、魚釣島、南小島、北小島の3島の国有化を閣議決定。藤村修官房長官はその日の会見で、「所有者が売却したい意向を示した。第三者が買えば平穏かつ安定的な維持管理の目的が果たせなくなる」と国有化の必要性を強調しました。そして日本政府は、翌9月11日、3島を20億5千万円で購入し、日本国への所有権移転登記を完了させました。

 しかし、野田総理のこの決断は、中国側の「反発を和らげる」どころか、実際には、逆に激しい反発を招くことになりました。国有化の方針が正式に表明されたその日、中国の漁船監視船3隻が日本の領海内に侵入。8月17日には、香港の民間抗議船が尖閣諸島に上陸します。

 9月15日には中国27都市で大規模な反日デモが行われ、反日気運が毎年盛り上がる柳条湖事件の起きた日にあたる9月18日には、多くの日系企業がデモ隊に襲われました。

 柳条湖事件とは、1931(昭和6)年、奉天(現・審陽)の郊外・柳条湖で、日本の関東軍が自らの手で南満州鉄道の線路を爆破しておきながら、張学良の東北軍による破壊工作によるものだと発表し、満州(現在は中国東北部)への武力侵攻を開始した、忌まわしい謀略事件です。これが満州事変の発端となったことは、戦後生まれの日本人の多くが忘れてしまっていても、被害を受けた中国人は忘れてはいません。「ナショナリズム」という燃えやすい枯れ葉のような感情の山に、マッチをすって放り投げたようなものです。

 かくて、日中国交正常化以来、積み上げてきた平和と信頼関係の構築、共存共栄に向けての努力は灰燼に帰し、日中間の怒り、憎悪、恐怖、敵対感情は、戦後最悪の状態にまで高まってしまいました。日本人にとっても、中国人にとっても、これは「悲劇」という他はありません。

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