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ついに可決された特定秘密保護法 自民党が喧伝する「中国脅威論」の虚妄と日本の「ナショナリズム」を利用する米国のシナリオ

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 12月6日午後11時23分、”稀代の悪法”特定秘密保護法案が参議院本会議で可決されました。

 「採決撤回!」「独裁やめろ!」――

 法案可決の一報が入った後も、国会周辺を取り囲んだ多くの市民からは、怒りのシュプレヒコールが上がり続けました。



※2013/12/06 特定秘密保護法案を廃案に! 国会周辺での抗議行動

 二転三転した森雅子担当大臣の答弁、これまでの国会の慣例を無視した地方公聴会の突然の開催、深夜になって立て続けに行われた民主党委員長の解任決議、そして、委員会での審議打ち切りと強行採決。特定秘密保護法案をめぐる与党の国会運営は、あまりにも横暴かつ強引なものでした。

※【参議院本会議で法案成立】秘密保護法で解消されぬ「疑問」「矛盾」「問題点」続々明らかに

 政府・与党は、なぜこれほどまでに強引な手法を取り、特定秘密保護法の成立を急いだのか。ひとつの説明は、日中間の緊張が高まっているから、というものです。

 私は前々号の「IWJウィークリー」28号の「ニュースのトリセツ」で、次のように記しました。

 「特定秘密保護法は、単なる治安強化、国民への監視強化を目指した法案ではありません。この『トリセツ』でも再三、指摘してきた通り、日本を戦時体制に改造するための法律であり、その背景をなすのは、『台頭する中国の脅威』論であり、『不朽の日米同盟』が、固く手を携えあって、これを迎え撃つ、という物語です。

 その同盟強化のために、秘密は保持されなくてはならない、だから秘密保護法は必要なのだ、という理屈になっているわけです。従って、『中国の脅威』を実感させる出来事が起これば、法案成立の追い風になりうる」

※【IWJウィークリー28号発行!】中国が「防空識別圏」を設定 尖閣をめぐり緊張高まる日中関係

 防空識別圏の設定に見られるような「台頭する中国の脅威」を国内にアピールすることで、極めて不備の多い特定秘密保護法案の成立を正当化する。そして、TPP関係閣僚会合を前に、法案の成立を米国に対する手土産として献上する。こうすれば、「不朽の日米同盟」をよりいっそう深化させることができるだろう。これが、安倍政権が思い描く構図です。

 事実、特定秘密保護法案の審議の過程で、自民党の議員は、この防空識別圏問題を繰り返し持ち出し、法案の必要性を主張しました。

 例えば、12月4日に行われた埼玉での地方公聴会において、自民党の北村経夫議員は次のように発言しています。

 「中国が防空識別圏を設定したことにより、東シナ海の安全保障環境は一気に緊張してきました。東アジアには、いまだに東西冷戦構造が残っているのです。

 従って、安全保障の情勢の変化に対応するためにも、特定秘密保護法は必要であると考えます。情報を自衛隊が収集するだけでなく、米国や英国との共同作業が必要なのです」



※2013/12/04 【埼玉】特定秘密保護法、自民・公明が地方公聴会を強行 公述人3人のうち2人が賛成

 しかし、安倍総理をはじめ、大多数の自民党議員が考える、「台頭する中国の脅威」対「不朽の日米同盟」という構図、東アジアにおける「新しい冷戦構造」という構図は、はたして現実のものでしょうか、その大前提が真剣に問われなければなりません。

◆中国の軍事力は本当に「脅威」か?“張り子の虎”「遼寧」と”専守防衛”を捨てつつある海上自衛隊◆

 特定秘密保護法案可決のタイミングで浮上した防空識別圏騒動。これをきっかけに、日本国内で再び急速な高まりをみせる「中国脅威論」。それを論じるに際しては、まず第一に、中国の軍事力がどの程度「脅威」であるのか否か、冷静に確認しておく必要があります。

 「IWJウィークリー」28号の「ニュースのトリセツ」で私は、中国の防空識別圏問題について、その経緯を簡単に解説しました。まず、日米両政府が中国政府に対して抗議を行います。それを中国側が突っぱねると、米軍は戦略爆撃機B-52をこの防空識別圏内で飛行させ、その貫禄を見せつけることにより中国側を黙らせたのでした。

 中国による防空識別圏の設定を受け、日本政府はすぐさま、日本の民間航空会社に対し、中国の求める飛行計画書を提出しないよう呼びかけました。その一方で、米国務省は11月29日、米民間飛行機会社に、「中国側の要求に従うべきだ」との見解を発表しました。ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空の米航空会社大手3社が、中国当局に飛行計画を提出したと発表したのです。

※「米民間機は中国の要求に従って」、防空圏問題で米国務省 (11月30日、AFP)

※米民間航空3社、中国に防空圏飛行計画を提出(12月2日、ロイター)

 ケリー国務長官が緊急の声明を発表し、さらに戦略爆撃機B-52を飛行させるなど、政治的・軍事的なレベルでは、米国は中国をしっかりと牽制するかのような装いを見せ、日本側を安堵させました。しかし、いざ経済上の実利が絡むと、米中はしっかりと落とし所を作るのです。

 この特定秘密保護法可決のタイミングでの中国の「軍事行動」は、もう一つありました。

 B-52による防空識別圏内での飛行が行われる直前、中国海軍初の空母「遼寧」(りょうねい)が山東省青島の港を出港して南シナ海に向かったという報道が流れたのです。一時、緊張が走りました。青島と南シナ海の間には、尖閣諸島があります。防空識別圏の設定とあわせ、この「遼寧」の出港は、尖閣に対する中国側の極めて挑発的な態度であると、日本側は強く反発しました。その後、「遼寧」の行先については、続報が見当たりません。

※中国空母「遼寧」出港 尖閣周辺通過の可能性も(毎日新聞、11月26日)

 「遼寧」とは、2012年9月25日に就役した、中国海軍が初めて保有する空母です。旧ソ連の空母「ヴァリャーグ」の未完成の艦隊を中国海軍が入手、改良したもので、50機もの戦闘機が搭載可能だと言われています。遼寧が就役した際、日本では「北東アジアの軍事バランスが変わりかねない」など、強い警戒をもって報じられました。

 中国が初めて空母を保有した、というニュースは、昨年来、大手メディアでも大々的に取り上げられてきました。戦略論でいえば、伝統的に「大陸型」国家だった中国が、「海洋型」国家を本格的に目指そうとする姿勢のあらわれであるとも報じられ、「中国脅威論」の象徴として扱われてきたわけです。

 しかし、この「遼寧」は、実は「張り子の虎」ではないか、という指摘があります。小河正義・国谷省吾著『空を制するオバマの国家戦略』(実業之日本社、2013.02)には、海上自衛隊幹部と米国防総省担当者の証言として、遼寧に関する以下のような記述が登場します。

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