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米メジャースポーツのデータ革命はリーグ主導

10月にNewsweek誌が「Big Data's Full-Court Press」と題する記事を掲載しました(日本語版もありました:「NBAが巻き起こすビッグデータ革命」)。これは、NBAが推進するスタッツデータを活用したファンサービスを解説した記事なのですが、米国ではNBAを筆頭に、選手に関する様々なデータを活用した新たなサービスが続々と誕生しています。

ちょうど今年の夏にクライアントと一緒に映像やデータを活用した新たなビジネスを視察に、スポーツリーグやベンチャー企業などを回ったのですが、もう驚くくらい様々なサービスや技術が既に実用化されていて、度肝を抜かれました。その中でも、NBAはいち早くスタッツデータを活用したファンサービスに着目したリーグで、もう1年以上前から提供しています。

スポーツリーグが提供するこの手のデータビジネスのトレンドは以下の2つです。
1. スカウティングデータのファンサービスへの転用
2. リーグ主導でのイニシアティブ
今、「ビッグデータ」が流行語になっているので、何でもかんでもこの文脈で語られてしまうことが多いですが、もともとスポーツビジネスはデータリッチな産業で、この流行語が出現するはるか昔からスタッツが選手の評価(スカウティング)の材料として使われてきた長い歴史があります。映画にもなりましたが、オークランド・アスレチックスの取り組みなどはその分かりやすい一例ですし、ファンの中にも統計に強い人などは独自の分析サイトを主宰するといった試みは昔からありました。

で、スカウティング目的で蓄積されていたデータをファンサービスに転用してしまおうというのが、最近の流行です。これをやり始めたのがNBAで、昨シーズンから公式HPに「NBA Stats」というページを開設しています。

このページでは、例えば「有名選手のシュートの成功率比較」(下がスクリーンショット)といった様々な切り口でスタッツを可視化してファンに新たな楽しみを提供しています。

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これ以外にも、1試合当たりの移動距離や平均速度、ボール接触回数、得点への貢献、リバウンドなどなど、様々な観点からデータを整理しています。こうしたスタッツページは、SAP社の協賛を受けており、新たなスポンサーマネーを獲得する手段にもなっています。

で、こうしたスタッツページを作る際に重要なのは、いかに豊富な観点のデータを整理するか、ではないんです。まあそれも重要でないわけではないのですが、もっと重要なのは「左脳の右脳への変換」です。

いくらたくさんのデータを集めて整理してみても、それをファンの左脳に頼って処理させていては統計オタク以外のファンには読まれないのです。これを、グラフィックや動画などを上手く活用して、「見て直感的に分かる」ようにしないと宝の持ち腐れとなってしまいます。NBAもここに腐心していると言っていました。

NBAでは、今年から選手のトラッキングデータの公表も開始したのですが、もともとこうしたデータは従来までは各球団がスカウティング用に個別に専用会社と契約を結んでいました。これを、Newsweekの記事にもあるように、今年からリーグ主導でStats社の「SportVU」と一括契約を結んだのです。

「球団個別」から「リーグ一括」という動きの裏には、「戦力均衡」という意味もあるのですが、さらに「コストシェアにより無駄を省く」「プラットフォーム拡大によりスポンサーシップ機会を創る」「ファンサービスへの転用を可能にする」といった多くのベネフィットが期待できるわけですね。

こうした動きを模索しているのはNBAだけではなく、MLBなども同様です。MLBでは、まだスカウティング用の映像・データ解析は主に球団レベルで行われていますが、今水面下でこれをリーグが一括管理してしまおうという動きが進んでいるようです。その第一歩として、MLBはSportsvision社と提携し、同社の提供する「PITCH f/x」というトラッキングサービスを導入しています。

「PITCH f/x」は、全球場にカメラを設置して投球動作を記録し、それを自動的に解析するというもので、「球種」「球速」「コントロール」などを瞬時に判断してデータ化します(裏に人がいてマニュアルでやっているわけではありません)。テレビ中継を見ていると、疑似ストライクゾーンが出てきて球種や球速が表示されると思いますが、あれです。MLBは、テレビ中継と並んでオンライン中継「MLB.TV」でも配球や投球軌跡の表示サービスを行っています。

野球はバスケ以上にデータリッチなスポーツですから、スタッツを活用したファンサービス開拓の余地は非常に大きいでしょう。MLBでは、ネット事業は既にMLBAMが一括管理しています。スタッツデータとネットの相性は非常に良いですから、一旦仕組みが出来てしまえば、広範な領域でサービス展開が可能になるでしょう。

例えば、投手の肘が出る角度によって怪我がどの程度の確率で発生するのかといった観点から解析をすることも可能なんだそうで、「スカウティング」「ファンサービス」以外に「メディカル」の分野からの応用も期待されているようです。

MLBは来シーズンからビデオ判定(インスタントリプレー)を拡大し(今まではホームラン判定のみ)、原則としてストライク判定以外の全てのプレーに適用する予定です。で、このビデオ判定は、各球場ではなく、MLBAMのオフィスにいる判定員によってリモートで行われるようになります。

先週、BAMで打ち合わせがあってオフィスに行ってきたのですが、既にインスタントリプレーの専用ルームが出来上がっていました。

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インスタントリプレーを試合が行われている球場ではなく、マンハッタンにあるBAMのオフィスで行うことに違和感を感じる人もいるかもしれませんが、この背景には、条件を同一にするという理由の他に、映像解析サービスはリーグが管理する方向で物事が進んでいるという大きな流れがあるんです。

そう遠くない将来、怪我のリスクや選手寿命などを自動的に分析・数値化する映像解析ソフトなんかも誕生するかもしれません(僕が知らないだけで、既に実在するのかもしれません)。こういうノウハウが、高校生や大学生にまで普及して、選手のパフォーマンス向上や怪我の防止に役立つようになればいいですよね。

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