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地図こそスマホのポータル。o2oとモバイル広告は新時代へ

モバイル広告は画面が小さくて効果を期待できない。この話を何度、業界関係者から聞いたことか。現場に近い人ほど、そう考える。確かに現実はそうかもしれない。しかしモバイル機器は消費者が常に持ち歩くデバイス。モバイル機器にあった広告手法は必ず登場するだろうし、それが定着すれば大きな市場になることは間違いない。

では、そのような時代はいつくるのだろうか。私は2,3年先にはそうなるのではないかと思っている。

前回のメルマガで、スマートフォンのイノベーションを普及させるのがGoogleではなくAppleになると予測した。技術的にはGoogleもイノベーションを起こし続けるだろうが、Googleの基本ソフトAndroidを搭載するのは途上国や低所得者層向けに開発される機種が多い。先進国や高所得者といったユーザー層ではAppleのiPhoneの人気は根強く、今後そうしたユーザー層を狙って他業種との連携が盛んに行われるからだ。

なので今回の記事では、Appleの技術動向を見てo2o(オンライン・ツー・オフライン、スマホからのリアル店舗への集客)施策とモバイル広告の今後を占ってみたい。

★地図はAppleにとって戦略的アプリ


もともとiPhoneには、Googleマップが標準地図として搭載されていた。メールやスケジュールの中に記載されている住所をタップすれば、Googleマップが立ち上がり、その住所の場所を示してくれた。この連携の使い勝手が非常によかった。

ところがiOS 6リリース時に、Appleは自社開発の地図を投入してきた。メールやスケジュールとの連携はGoogleマップではなく、Appleマップに変更された。しかし地図に関する一日の長はGoogleにあり、使い勝手が今ひとつだったAppleマップにユーザーから批判が集中。一部ユーザーは、iOS 5にダウングレードしてまでもGoogleマップを使い続けようとした。

なぜAppleは、地図という収益につながらない無料アプリにこだわったのか。ユーザー満足度の高かったGoogleマップの代わりに、完成度の低いAppleマップを投入してきたのか。

もちろんそれは、地図を戦略的アプリと考えたからだ。iPhone片手に街へ繰り出すユーザーは、地図をベースに情報を収集するようになる。PCにおけるポータルサイトの地位を、スマホでは地図が担うようになる。そう考えたからではないだろうか。実際に私自身も、さらなる機能改善を地図に期待している。知らない土地でもっと情報がほしいし、もっと使い勝手をよくしてもらいたい。地図をもっとおしゃれに、もっと楽しくできるのではないかと思う。

Appleが地図を戦略的アプリとしてとらえたと仮定した上で、Appleの最近の技術開発、買収動向を見てみよう。そうすればAppleの今後の方向性が見えてくる。

★3D技術のベンチャーを買収


Appleは11月24日に、イスラエルの3D技術ベンチャーのPrimeSenseを3億5000万ドルで買収した。PrimeSenseは、Microsoftのゲーム機用入力装置kinectの技術を開発したことで有名だ。kinectはテレビの前で踊ったり動いたりするユーザーの体の動きを把握する機械。ダンスゲームでkinectを利用するとテレビの前で踊るプレーヤーの動きを認識し、ゲームの中のアバターが同じように踊るようになっている。

Appleは何のためにPrimeSenseを買収したのだろうか。

Appleテレビに搭載するのではないかという憶測もある。テレビをリモコンではなくジェスチャーで操作できるようになるからだ。

iPhoneに搭載するのではないかという憶測も飛び交っている。この技術を搭載することによって、物体の大きさを簡単に把握できる。例えば家具屋でお気に入りの家具を見つけ、iPhoneカメラを起動して家具の向ける。そうするとユーザーと家具との距離をベースにしてカメラに写っている家具の縦、横、奥行きを正確に認識する。そのデータを家で留守番している家人に転送する。家人は同様にカメラを起動し部屋を写しだしたことろに家具のアイコンをドラッグしていくと、部屋の中にうまく収まるのかどうかをその場で判断できるようになる。

このほか当然ゲームにも利用できるし、AR(拡張現実)などのアプリにも利用できる。

いろいろな用途が考えられるのだが、私自身は、「街や店内を3Dスキャンするために使うのではないか」という説が気になっている。このことに関して、後で詳しく説明したい。

★iBeaconをデパートで実証実験


Appleが最近力を入れている技術にiBeaconと呼ばれる近距離通信技術がある。iBeaconとはApple独自の呼称で、業界内ではBluetooth Low Energyと呼ばれる技術だ。名前の通り省電力なので、常時オンにしていてもiPhoneの電池が著しく減ることはない。

Appleは米大手デパートのMacy'sサンフランシスコ店や、米国内のApple Storeで、このiBeaconの実証実験を始めている。

Macy'sでは、店舗の入り口に近づくと、セール情報やクーポン情報などがiPhone上に表示される。Apple Storeでは、特定の製品の近くに立つと、その製品の詳しい説明がiPhone上に表示されるという。

ただ自動的に表示されるようにするには、iBeacon機能をオンにしておかなければならない。

前回のメルマガに書いたように、私はクーポンだけでは十分な消費者メリットにはならないと思っている。クーポンが欲しくてiBeaconを常にオンにするユーザーはそう多くないのではないかと思う。代わりにテーマパークやショッピングモール、空港などの広大な駐車場で、自分の自動車までナビゲートしてくれる「歩行者ナビ」などに先に使われるようになるような気がする。

★2Dから3Dへ


さてこの3D技術とiBeaconを合わせると何ができるのだろう。

3D技術で物体の正確な大きさが把握でき、iBeaconでユーザーの現在地を、GPSと比較にならないほど正確に把握できるようになる。

私はAppleがこの2つの技術を使って地下街や空港、デパート、ショッピングモールなどの屋内の様子を正確に3Dスキャンしようとしている可能性があるのではないかと思う。

実際には、今回Appleが買収した3Dスキャン技術がどの程度優れているのか分からないので、Appleが今回の3Dスキャン技術をストリートビューやストアビューの作成に利用するのかどうかは分からない。

ただこの技術を使うかどうかは別にして、なんらかの3Dスキャン技術を使って街や屋内を3Dスキャンしようと考えているのは、まず間違いないと思う。

というのは、Googleのストリートビューは全方位プラス上方をパノラマで撮影しているので3D風には見えるけれど、厳密に言えばやはり3Dではない。道路という直線を前に進むか、後ろに下がるかの2方向の動きしかできないからだ。

ところが3D技術とiBeaconを使えば、リアルな空間からデータを集めて、リアルそっくりのバーチャルな3D空間を作ることができる。Googleのストリートビューとは違って、ユーザーは360度、どの方向にでも進むことができる。

現時点でのGoogleマップとAppleマップの最大の違いは、ストリートビューの有り無しである。地図においてAppleがGoogleの後追いではなく一歩抜きにでるには、ストリートビューを超える3Dの「ストリートビュー」「ストアビュー」を、Appleマップに搭載することしかない。

そのために、今回買収した技術に限定されることなく、これからもより正確な現在位置を把握する技術と、より優れた3Dスキャン技術を手に入れたいと考えているのではないかと思う。

事実、2013年会計年度にAppleが買収した15社のベンチャー企業のうち、WiFiSlam、Embark、HopStopなどはどれも地図関連の技術を持つベンチャーだ。

★利用頻度でAppleが地図でGoogleを超えた


実はスマートフォンにおける米国人ユーザーの利用頻度では、AppleマップはGoogleマップを既に超えている。調査会社ComScoreの調べによると米国のiPhoneユーザーのうちAppleマップを使っている米国人ユーザーが3500万人、Googleマップを使っている米国人ユーザーが600万人と、Appleマップが大きく上回った。

iPhone上のアプリで住所が表示された場合、そこをタップすればAppleマップが自動的に立ち上がるので、Appleマップのユーザーが増えるのは当然のことなんだが、それでもそのことに対する苦情を目にしないところを見ると、米国のAppleマップはかなり充実していきていということなのかもしれない。

私個人として日本国内で利用する場合には、やはりGoogleマップが便利だと思う。その最大の理由はストリートビューで、待ち合わせの場所などの雰囲気をあらかじめ調べておけるのは非常に便利。

ただそれも道路に面した建物やレストランだけで、屋内のレストランなどはこれからというところ。GoogleもAppleも今後、屋内の地図に力を入れるのだろうが、もしAppleが地図を3次元にしていけば、一気にGoogleに差をつけることができる。

また最新の統計では、10月に日本国内で購入されたスマートフォンの76%がiPhoneだったという驚くような結果も出ている。

地図の性能がますます向上し、より多くの人が地図から情報を得るようになったら、どうなるのだろう。街のリアル店舗の売り上げは、地図からの集客の影響を受けるようになり、Appleがますます大きな影響力を手にするようになるのは、まず間違いない。

★ペイメントのエンジニアを募集


さてAppleの最近の動向の極めつけは、Appleがペイメントに関したエンジニアを募集し始めたことだ。「次世代のペイメントプラットフォームを構築するため」という誘い文句で、eコマースや、金融、小売、クレジットカードなどの業界の専門家を募集しているようだ。

いよいよApple版おサイフケータイを投入してくるのだろうか。

Appleが目指していることは、火を見るより明らかだ。より便利な地図を作り、クーポンや商品情報を発信し、その結果、実際に商品が売れたかどうかというデータまで取得。広告、マーケティングから販売までの一気通貫のプラットフォームを作ろうということなのだろう。

果たしてAppleの思惑通りにことが進むのかどうか。まだまだ不確実な状況だが、ただo2oやモバイル広告のインフラの覇権争いでAppleが最有力候補であることは間違いない。

この傾向が続くのであれば、今現在、日本国内で進められているo2o施策やモバイル広告も、Appleの方向性に沿ったものでなければ駆逐されてしまう可能性があると考えるべきだろう。

なんらかの形のペイメント機能を搭載してくるのは、早くて1,2年後。また大きく時代が動く可能性が出てきた。

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