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デジタルネイティブを取り巻くコミュニケーションの姿とは?――ネット時代の文化人類学

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文化人類学で、自分を知りたい

―― 木村先生が文化人類学に興味を持ったきっかけはなんですか?

もともとは高校生の頃、フランスの人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースの『野生の思考』という本に騙された(笑)のが大きいです。私が高校生だった80年代の初めには、浅田彰さんらが活躍された「ニュー・アカデミズム」と呼ばれる知的潮流があったんですね。そうした流れのなかで、私も知的刺激を求めていたときに『野生の思考』に出会いました。当時は高校生ですから、何もわかってなかったんですけど、すごい衝撃を受けました。

「よくわからないけど強い衝撃を受けた」というのは、人間の普遍的な構造というものを明らかにしたいという大それたことに当時強い知的好奇心があって、レヴィ=ストロースの『野生の思考』と「構造主義」は、とても野心的で、その好奇心に応えてくれる部分があったんだと思います。そこで、哲学の道や心理学の道もあったんですけれども、人類学に惹かれることになりました。

人類学は結局、「野生」あるいは「野(フィールド)」を基盤にした経験科学だと思うんですね。哲学のようにテキストと思考、論理、議論でヒトを掘り下げていくのでも、心理学のような実験的状況を作り出しての実験でもなく、なるべく自然状況のなかで人と出会うことによってヒトを掘り下げていく、フィールドを生きることでそこで生きているヒトを理解していく研究領域だと思いますし、私自身、そうした研究スタイルが好きなのだと感じます。

おそらく、人類学を志した背景には、「自分を知りたい」ということがもっとも大きな動機としてあって、その意味で、いわゆる一般的な人類学のイメージにある「未開」社会を対象にするのではなく、自分が生きている現代社会を人類学のアプローチで研究したいと考えていました。別に職業として研究者になりたいというよりも「自分を知りたい」。今から考えればすごく向こう見ずで、怖い話ですよね。どうやって食べていくかというのはあまり考えなかったので(笑)。

―― 文化人類学のどんなところが面白いですか?

「野生(フィールドに生きる)の学問」ですから、やはり、一番面白いのは人との関係ですよね。実際に調査に協力してくれた人のなかには、現在までつきあいが続き、何年もたっているのに、繰り返し調査に協力してくださる方もいます。また、家族ぐるみのつきあいになった人もいます。

やはり人類学は、一人ひとりのヒトを大切にしようというのが基本にあると思います。自分が知らないところに行って、そこの人に受け入れてもらうということをしなければいけない研究領域なので、相手に対しても寛容さが不可欠ですよね。そういうところはやはり人類学の良さじゃないかなと思います。

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―― 最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします!

最近は業績主義が強まって「お仕事」として研究者になってしまう側面が、他の分野では強くなっている気がするんですよね。人類学はそういう意味では時間軸もゆったりしてるし、物事を多面的、多元的、多義的に捉えて考えていく。だから人類学の研究はなかなか完熟しないというか長期熟成しなきゃいけないし、汎用性の高い知識ではなく、一つ一つの研究がそれ独自の意味をもつ一品物のような知、職人技のような知が生み出される。

現在学術研究を取り巻く状況は、より早く、より多く業績を、という傾向があり、人類学的研究は、時代にそぐわない面があることはたしかです。でも、こうした「野生の知」の必要性は学術研究でなくなることはないし、取り巻く環境が厳しいからこそ、人類学が持っているパワーはより強くなることはあっても、弱まりはしないと思うんですね。文献案内で紹介する著作には半世紀前や一世紀前に近い作品がありますが、それらはいまだ現代的インパクトを持ち、命脈を保っています。それは人類学の持つ力、奥行きの深さと拡がりを示していると思います。

ですから、多面的、多元的、多義的を大切にし、じっくりと自分のなかで考えをふくらませていく。人と関わることで経験主義的にものを考えていくことが好きな人にとって、「野生の学問」である人類学はすごく魅力的だと思います。そうした知的営為に共感を持つ人には、人類学を自分の将来像の一つとして、是非関心を持ってもらえたら嬉しいです。

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