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デジタルネイティブを取り巻くコミュニケーションの姿とは?――ネット時代の文化人類学

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「サイバースペース」を文化人類学から研究する

―― 木村先生はいまどんな研究をされているのでしょうか?

ネットワーク上の仮想空間である「サイバースペース」を、文化人類学の立場から研究しています。サイバースペースは人類にとって新しい活動空間です。ヒトの多様性と可能性を探究する人類学にとってサイバースペースはとても魅力あるテーマだと思い、研究に取り組み始めました。

サイバースペースを文化人類学のアプローチで調査するとき、大きく分けて二つの異なる方向性があります。まず一つはサイバースペース、オンライン空間内で起きることを研究しようとするベクトルです。たとえば、電子掲示板であれば、掲示板上でのやりとりだけを見て、どういうふうに言い争い(フレーミング)が起きるのか、自己提示や印象形成がどのように行われるか、「新参者」がいかにやりとりに参加し、「常連」からどう扱われるかといったように、オンライン空間で起きることに関心を向け、オンラインに接続しているオフラインの人間の行動は考えません。

このようなアプローチでは、オンラインでの言葉の扱われ方や、絵文字の使われ方、アイデンティティ、秩序形成など、様々な特質がオンラインだけでも出てきます。そうしたオンライン空間でのコミュニケーションや行動を丹念に見ていく手法を「オンラインエスノグラフィー」と呼んでいます。

もう一つの方向性は、オンラインが日常生活に組み込まれる過程、あり方、変容へのアプローチです。たとえば、対面、アナログメディアの日常生活に、デジタルメディアが不可欠なものとして組み込まれていく過程で、人々のコミュニケーション、対人関係はどのように変化するのか(あるいはしないのか)を明らかにしようとします。先ほどのジャマイカにおける携帯電話の例を思い出してください。

このアプローチでは、従来の人類学者と同様に、オフラインで調査に協力してくれる人(インフォーマント)と出会い、その人々と信頼関係を醸成し、聞き取りやオンライン行動をともにするなど、いろいろな情報を得ながら人々のあり方を明らかにしていく手法で、こちらは「コミュニケーション生態系アプローチ」と呼んでいます。

私自身は後者の「コミュニケーション生態系アプローチ」の立場で、オフラインから人がどうオンライン空間でのコミュニケーションをおこなっているのか、また、それによって人の生活がどう変わっているのかということを研究しています。

やがて社会の担い手になるからこそ、いま「デジタルネイティブ」を

―― サイバースペースをコミュニケーション生態系アプローチから研究されていて、具体的にはどういったものを研究対象にされているのでしょうか?

青少年期からデジタル技術に触れている世代である「デジタルネイティブ」を対象に研究をしています。1980年前後生まれ以降をデジタルネイティブと呼んでいるのですが、それは、この世代が、幼少期、学生時代に、コンピュータ、インターネット、携帯電話と、現在の情報ネットワーク社会に不可欠なデジタル機器に初めて出会った世代だからです。

まず、1983年に任天堂から「ファミリーコンピュータ」が登場し、家庭用ゲーム機が普及し始め、1980年前後生まれの人たちは、幼少期からゲームをとおしてコンピュータに触れることになりました。さらに彼らは、90年代半ばから後半、大学時代に、インターネットと携帯電話に接する機会が生じました。このような意味で、80年前後生まれ以降は、デジタル技術に生まれながら接する機会を持った最初の世代と考えることができるわけです。

ただ、世界全体でみると、80年生まれ以降の人口はすでに半数を超えているので、あまりデジタルネイティブということを事立てる必要はないんですよね。

ところが、日本は高齢化が進んでいるため、2010年でようやく80年生まれ以降の人口が約3割になったところです。日本社会では年齢の重心が45歳を越えていて、私でようやく真ん中から上に出てきたところですから、皆さんのようなデジタルネイティブは、まだまだ長い間「若手」「若手」と言われ続けないといけないんです(笑)。

若干気が滅入ったかもしれませんが、別な見方をすると、日本の場合、2000年の段階だと2割しかデジタルネイティブがいなかった。しかもある程度デジタル技術を活発に使う高校生以上になると、わずか6%だったんです。それが2010年には、15才以上のデジタルネイティブは16%、デジタルネイティブで3割を越えました。今後デジタルネイティブがやがては社会の中核になっていくわけだから、2000年くらいからのデジタルネイティブ拡大過程と情報ネットワークとの関係を見ていくことは、日本の社会を考える上ですごく重要な面があるんじゃないかなということで、研究に取り組みはじめたんです。

―― デジタルネイティブの研究をしていくなかで、なにか予期せぬ驚きのようなものはありましたか?

予期せぬ驚きというのは、調査協力者(インフォーマント)が調査者を信頼して、吐露してくれた(なかには、「うっかり」もあります)ことが大半です。でも、それは、文字通り「オフレコ」にしなければならないので、なかなか公表はできないんですよ(笑)。

そこでここでは、私の場合、質的研究と量的研究を組み合わせる方法論(「ハイブリッドメソッド」)に積極的に取り組んでいるので、その観点からお話したいと思います。

実際に調査するなかで一つ明確になったのは、中学生、高校生、大学生、社会人と、ライフサイクルのどの時点で、情報メディア環境における特定の技術的な変化や制度的な変化に出会うかで、日本社会のデジタルネイティブたちは、いくつかの年代に細分化されるということでした。たとえば大学生でミクシィに社会人で出会うのと大学生で出会うのではネットワーク行動に大きな違いを生み出すし、パケ放題に高校なのか中学なのかもやはり大きく異なる影響があります。

そこで、ライフサイクルと情報メディア環境の変化の組み合わせを追っていき、1982年生まれ以前を第1世代、1983年〜87年生まれを第2世代、1988〜90年生まれを第3世代、1991年生まれ以降を第4世代というふうにデジタルネイティブを4つの世代に分けました。

その上で、世代間にどのような違いがあるか、調査データを分析してみたのです。すると、その人たちのミクシィ上のフレンドである「マイミク」の数が、第2世代で平均30人くらいだったのが、第3世代になると平均100人を超えて、きれいに第2世代と第3世代が分かれたんですね。別にマイミクの数で世代を分けたわけではないんですよ。他のライフサイクルと情報メディア環境の変化から4つの世代に分けてみたら、マイミクの数が見事に違っていた。

質的な調査に基づいて世代を分けたんですが、量的なデータでここまできれいに違いが明らかになったのは、まったく予期しなかったですし、嬉しい驚きでした。

―― 木村先生の研究だとデジタルネイティブは第4世代まで分けられています。その後、第5世代は出てきていたりするんですか?

いまの中高生がLINEを使っているというのはこれまでとだいぶ違うと思うので、そこで一つ出てくるような気はします。あとは博士の学生で調査している話を聞くと、いまの中学1年生が、はじめから「スマホ」を持っている世代なんです。それまでは一回は「ガラケー」を通過しているので、そこでもう一つ第6世代が出てくるのかなと思います。その次は、ウェアラブルがどのようになるかによりそうです。

そこは常に変化とライフサイクルの重なりあいで、日本の場合、情報メディア環境の変化が比較的一律に起きるので、共通経験を持つ世代というのが生まれやすいと考えています。それに対して、アメリカでは、州毎、学校毎にかなり個性が強いので、なかなか日本のように捉えることはできないと感じてます。

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