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【佐藤優の眼光紙背】中国の防空識別圏設定に対する斎木昭隆外務事務次官の適切な対応

斎木昭隆外務事務次官(AP/アフロ) 写真一覧
 11月23日に中国国防省が沖縄県の尖閣諸島を含む空域に戦闘機が緊急発進する基準となる防空識別圏(ADIZ)を設定したと発表した。これは日中武力衝突を招きかねない中国による危険な挑発行為だ。

 今回、外務省はわが国益を擁護するために、実によく頑張っている。ただし、外交実務交渉に従事した経験のある人以外には、水面下での外務省の努力が見えにくい。27日付『朝日新聞』の報道から、外務省がかなり高度な交渉を行っていることが窺える。
中国が尖閣諸島(沖縄県)の上空を含む空域に防空識別圏を設定した問題で、国土交通省は26日、国内航空各社が中国への飛行計画の提出を打ち切ると発表した。提出がなくても運航を妨げないとの確約を、中国側から得たことが理由だとしている。

 国交省によると、外務省の斎木昭隆事務次官が25日、中国の程永華(チョンヨンホワ)大使から「今回の措置は民間機を含めて、飛行の自由を妨げるものではない」との見解を得た。日本政府として、この見解を「飛行計画を出さなくても運航を妨げない」との意向と判断した。

 台湾、香港路線がある日本航空と全日空、ピーチ・アビエーション、日本貨物航空は、中国の航空当局の指示があった23日以降、飛行計画を出してきた。各社とも、27日の初便までに提出を打ち切る。日航と全日空は「政府により安全が担保された」としている。菅義偉官房長官は26日午後の会見で「不当な義務を課す今回の措置は受けられない」と批判。国交省は、政府方針に従って飛行計画の提出をやめるよう、各社に文書で要請していた。(工藤隆治)(11月27日『朝日新聞デジタル』)
 斎木次官が程永華駐日中国大使から、「今回の措置は民間機を含めて、飛行の自由を妨げるものではない」との言質をとったことに大きな意義がある。それは、中国当局に日本の航空会社が飛行計画を提出しなくても、運行を妨げないということを実質的に意味するからだ。

 23日以降、台湾、香港路線を持つ日本航空、全日空、ピーチ・アビエーション、日本貨物航空は、飛行計画を中国当局に提出していたが、27日からは提出をやめた。

 尖閣諸島上空の現状を変更しようとする中国国防省の思惑は外れた。

 外交官の信頼関係は、国家間の関係が緊張したときに発揮される。外交実務を経験した人以外にはなかなか見えないが、斎木氏が程大使と、職業的良心に基づいた、個人的信頼関係を構築しているから、こういう非常事態のときに負の連鎖を防ぐ措置を取ることができたのだ。程大使も日本との関係悪化を防ぐために頑張っていることが行間から伝わってくる。これだけ大きな成果を獲得したにもかかわらず、外務省が自らの成果を誇示しないのは、程大使を初めとする対日関係の悪化を望まない中国外交官たちが「あいつらは日本寄りだ」という批判を中国軍部から受けないようにするためである。

 外務省アジア大洋州局長として拉致問題を担当したときも、斎木氏は、北朝鮮政府との外交交渉においても、タフネゴシエーターぶりを発揮した。それだから北朝鮮政府も斎木氏を信頼し、重視したのである。

 国際社会が帝国主義的傾向を強める中では、外交交渉を担当する外交官同士の個人的信頼関係が重要な役割を果たす。斎木氏の程大使との関係は、まさにそのような例だ。(2013年11月28日脱稿)

プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に、「超訳 小説日米戦争」など。

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