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起業学のススメ - みんな知らない起業の実務

先日、投資家からベンチャー起業家へ転身したA女史に久しぶりにお会いする機会があり、起業から現在に至るまでのストーリーを聞かせてもらったのだが、やはり会社を興すというのは、雇われサラリーマンでは決して経験できない喜びや苦しみがそこにあるのだなと感じた。

「弊社の企業理念は」「コア・コンピタンスは」とプロパー社員が悠々とプレゼンしているのを聞くと無性に腹立たしくなる、とは某上場起業の創業者の言葉だが、実際の起業というのは、そのような絵空事を語る以前に、地を這い、草を噛み、泥水をすすり、最後には気力と運だけで押し切る場面が数え切れないほどある。

もともとお嬢様育ちであったA女史にとってもそれは例外ではなく、金欠のあまり親に金を借り、猫の餌のグレードを下げ、最終的には自分の生理用品まで買えなくなるなど、創業間もない頃の話というのは壮絶エピソード満載である。人生にレバレッジをかけて挑む起業家にとっては、それすら笑い話にできる強さが必要なのであろう。

一連の話の中でも私が最も感銘を受けたのは、会社が本格的にテイクオフするキッカケとなった、とある仕事を受注した時の話である。
A女史の会社が提供するサービスを、某大手企業が業務サポートツールとして採用を検討していたのだが、類似のサービスを展開する超大手の系列会社とコンペとなってしまった。必至に自社のサービスの競争力を説明して食らいつくA女史であるが、先方が決めあぐねている様子を見て、何としてもこの仕事を取りたいA女史は「他社よりも安い価格まで値下げをします」と言ってしまった。

ところがこの時、意外にも先方の担当役員が口を開き、A女史に対してこう言った。「価格を下げるなんてことを簡単に言ってはいけない。あなたのサービスが他社よりも本当に優れているのであれば、相応の対価を得て当然なはず。価格を下げて仕事を取り、あなたは会社へ帰って従業員にただ働きをしてくれと言うつもりなのですか?それは経営者としては最低の悪手だ。」

プレゼンに行ったのに逆に先方に説教されてしまったA女史だが、仕事を持ち帰りたい一心で軽率な発言をしてしまったと正直に告白し、助言をくれたことに謝意を表してその場を後にした。当然コンペには落ちたものと思い込んでいたA女史であったが、後日連絡があり、何と競合の大手を差し置いてベンチャー企業のA女史の会社へ仕事を発注する旨が伝えられたそうだ。

後から知ったことだが、彼ら自身もベンチャー企業として会社の立ち上げに腐心していた頃、まったく同じようなシチュエーションで見込み客に諭されたことがあったという。今では大企業となった彼らでも、駆け出しの頃は右も左も分からずに、経営者としてのノウハウは失敗から一つ一つ学んでいったそうだ。同じベンチャー起業家として、A女史とかつての自分たちの姿を重ね合わせたのかも知れない。

私は数多くの創業社長と話をしてきたが、会社の創業期というのは、それを越えたものでしか分かり得ない苦労があるようだ。学校で教わる経営学や市場分析、財務戦略、チームビルディングなどは、すべて組織や事業のお膳立てが整った前提の学問ばかりであるが、実際に起業とするとなると、そのようなところへ辿り着く以前に、資金調達から、登記の仕方、法人口座の開設、契約書の書き方、経理の仕方など、種々雑多なことが分からないことに気付く。

この上、本来の事業としての製品・サービスを磨き上げ、売り込み、顧客を得て、そして早めに資金回収しないとタイムオーバーとなってしまうため、創業者というのはマネージャーとプレーヤーの両方を一人でこなさなければならない。経営学に関して学べる教育機関は数多くあるが、「起業学」のような実務のノウハウの教育&サポートシステムが整備されていると、日本でも起業のハードルが少し下がるかもしれない。

A女史は自分で事業を興し、初めて自分の会社から給料をもらった時、事業家としての第一歩を歩み始めたことを実感したという。その喜びは、リスクを負って努力した者にしか味わえない感動であるに違いない。彼女のような新しい起業家が数多く生まれてくれば、日本経済の厚みも増してくる。

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