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高山正之への疑問(1) はじめに

 高山正之というジャーナリストがいる。
 産経新聞社で社会部デスク、テヘラン支局長などを経て、コラム「異見自在」で評判となる。退社後、2001~2007年帝京大学教授を務めた。『週刊新潮』の巻末コラム「変見自在」を長期連載中で、これは人気があるらしく、単行本化の後に文庫化もされている。
 その単行本の副題を挙げてみると、
スーチー女史は善人か

ジョージ・ブッシュが日本を救った

オバマ大統領は黒人か

偉人リンカーンは奴隷好き

サダム・フセインは偉かった

日本よ、カダフィ大佐に学べ

マッカーサーは慰安婦がお好き
といったもので、まあだいたい中身の想像がつくだろう。

 私がこの人の名前を意識したのは、確か、1990年代後期に産経新聞で連載された「20世紀特派員」という企画の中の「太平洋序曲」というシリーズだった。

 ハワイ王国の滅亡やわが国との関係、日露戦争が世界に与えた影響、当初はわが国に好意的だった米国がやがて排日に転じていった経緯などを記した、興味深い内容だった(この連載に限らず、このころの産経はこんにちに比べるともっと読ませる内容であったと思う)。

 その後、たまたま『週刊新潮』で「変見自在」を興味深く読んでこの人に興味をもち、その前の産経新聞での連載を単行本化した『世界は腹黒い――異見自在』(高木書房、2004)を買って読んでみた。

 こうしたコラムは、雑誌の中にちょこっとあるからいいのであって、まとめて読むものではないなと思った。毒気に当たられた感じがした。「腹黒い」のは何でもかんでも悪意にとる著者ではないか、などと思ったり。

 あまり聞いたことのないような話が多々出ているが、これはこれで何らかの根拠があるのだろうと思っていた。
 誇張や曲解はあるのかもしれないが、全くのでたらめではないのだろうと。

 ところが、4年近く前に、あるブログで、ムック『反日マスコミの真実2010』(オークラ出版、2010)に掲載された高山の文「誰のための東アジア共同体か」を紹介する記事を読んだところ、不審に思う点が多々あった。
 そして調べてみたところ、この高山の文には多くの疑問点があることがわかった。

 この件は以前別のブログで書いたのだが、その時はこの『反日マスコミの真実2010』は手元になかったので、高山の文を紹介するブログからの孫引きと、本屋での同書の立ち読みで済ませていた。
 最近たまたま古書店でこのムックを購入したので、正確な高山の文章に基づいて書き直すことにする。

 この高山の「誰のための東アジア共同体か」は、2009年の政権交代で発足した民主党の鳩山由紀夫内閣が、東アジア共同体構想を掲げていたことに対応している。

 鳩山は「支那を盟主に仰ぎ、その強大な軍事力をもって東南アジア諸国に君臨する」共同体に「日本はカネと技術を提供してこの形を確固たるものにし」ようと考えている。しかし、鳩山は東南アジア諸国の支那への感情を理解しているのか。東南アジア諸国は植民地時代の負の遺産である華僑を追放し、日本を盟主とし支那の圧力をブロックしての発展を望んでいるのだ。かつてその構想をつぶした米国に朝日新聞は協力し、今また東アジア共同体を後押しするその罪は重い――というのが高山の文の主旨である。

 いったい鳩山が支那を盟主とするだの軍事力で君臨するだのといつ言ったというのだろうか。
 例えば、政権交代後に月刊誌『Voice』2009年9月号に掲載され、のちに一部がニューヨークタイムズに転載されて反米的であるとして問題になった鳩山の「私の政治哲学」は、東アジア共同体構想についてこんなふうに述べている(太字は引用者による)。
 アメリカは影響力を低下させていくが、今後2、30年は、その軍事的経済的な実力は世界の第一人者のままだろう。また圧倒的な人口規模を有する中国が、軍事力を拡大しつつ、経済超大国化していくことも不可避の趨勢だ。日本が経済規模で中国に凌駕される日はそう遠くはない。覇権国家でありつづけようと奮闘するアメリカと、覇権国家たらんと企図する中国の狭間で、日本は、いかにして政治的経済的自立を維持し、国益を守っていくのか。これからの日本の置かれた国際環境は容易ではない。

 これは、日本のみならず、アジアの中小規模国家が同様に思い悩んでいるところでもある。この地域の安定のためにアメリカの軍事力を有効に機能させたいが、その政治的経済的放恣はなるべく抑制したい、身近な中国の軍事的脅威を減少させながら、その巨大化する経済活動の秩序化を図りたい。これは、この地域の諸国家のほとんど本能的要請であろう。それは地域的統合を加速させる大きな要因でもある。

 そして、マルクス主義とグローバリズムという、良くも悪くも、超国家的な政治経済理念が頓挫したいま、再びナショナリズムが諸国家の政策決定を大きく左右する時代となった。数年前の中国の反日暴動に象徴されるように、インターネットの普及は、ナショナリズムとポピュリズムの結合を加速し、時として制御不能の政治的混乱を引き起こしかねない。

 そうした時代認識に立つとき、われわれは、新たな国際協力の枠組みの構築をめざすなかで、各国の過剰なナショナリズムを克服し、経済協力と安全保障のルールを創り上げていく道を進むべきであろう。ヨーロッパと異なり、人口規模も発展段階も政治体制も異なるこの地域に、経済的な統合を実現することは、一朝一夕にできることではない。しかし、日本が先行し、韓国、台湾、香港が続き、ASEANと中国が果たした高度経済成長の延長線上には、やはり地域的な通貨統合、「アジア共通通貨」の実現を目標としておくべきであり、その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出する努力を惜しんではならない。
 鳩山の東アジア共同体構想とはこうした理念に基づくものだろう。
 私は、ここで述べられていることに賛成はしない。東アジア(東南アジア含む)諸国はあまりに違いすぎる。協力は必要だが、共通通貨や安全保障体制などを検討すべき段階ではないと考える。
 しかし、高山の批判は、鳩山の主張をまるで無視した、単なる悪口にすぎない。

 そんな高山が東南アジアや東アジア共同体構想をどのように論じたか。以下、何回かに分けて指摘する。

(続く)

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