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ウケ狙いの記事の見分け方(ディオバン論文事件をネタに)

事件の概要(A)
高血圧治療薬バルサルタン(商品名ディオバン)に関する京都府医大松原元教授らの研究論文の作成に、発売元のノバルティスファーマの社員が身分を明示せずにかかわっていた。同論文ではディオバンを他の同効薬と比較し、脳卒中や狭心症の治療に効果があると結論している。解析データは販売促進に使用されたが、その後の調査で確認できた患者223人のカルテを調べたところ、34人の症例で不正が判明。

京都府医大の他、4大学(東京慈恵会医大、千葉大学、名古屋大学、滋賀医科大学)の研究論文でも同様の改ざんがあったものとみられる。(7/12 NHKニュースほか)

検証の結果(B)
B-1
・慈恵医大の調査委員会は7/30、論文に記載された血圧データに人為的な操作が相当数加えられていたという中間報告を発表。データの操作は大学研究者ではなく、データ解析の段階で行われたものの、研究チームの教授の責任は極めて重い、としている。(7/31 JC-NET)

B-2
・厚労省の検討委員会は9/30(京都府医大の論文について)中間報告をまとめた。誰がデータの操作を行ったのかは特定できなかったものの、論文を使った会社の広告は、結果的に薬事法で禁止された誇大広告の恐れがあるとして、厚労省に実態解明を求めた。(9/30 NHKニュース)

B-3
・滋賀医大は10/31、ディオバンをめぐり実施されたSMART研究について、カルテデータと論文データとの不一致が10.1%あったと発表した。学内の研究行動規範員会は「科学論文としては不適切である。」と結論付けた。
(11/1 ミクス オンライン)

各界の反応(C)
C-1=学会
日本高血圧学会は高血圧治療薬ディオバンについて、来年4月に改定する治療指針の中で、引き続き服用を推薦する薬とする方針を決めた。(10/23 読売オンライン)

C-2=市場
ARBディオバンの13年7~9月の売上前年同期比は15.7%減。ライバル薬のブロプレスが7.3%減。ディオバンについては臨床研究問題を受けての処方控えの影響がみられる。(11/20 ミクス オンライン)

退屈な考察
売上15.7%減は論文ねつ造問題でたたかれた割には落ち込みが小さいのではないか。高血圧学会が結論しているように、ディオバンの実力の評価にはこの問題はさほど影響がないのを考慮すると、現場での処方控えは「風評」を恐れてのことだと言える。「風評」はいずれ忘れ去られる。この問題も「ディオバンの評価」に限って言えば、早晩忘れ去られるだろう。

さて、このブログの記事の主題は「ディオバンの評価」ではない。如何にこのニュースを面白おかしく見せるかの「技術」についての検討にある。

更に(おいしい)情報(D)を加える。

外国から見た日本(D-1)
研究不正を許す日本の土壌に厳しい目が集まる中、今回の事件が起きた。欧州心臓病学会誌のトーマス・ルッシャー医師は4月、誌上で世界の科学不正の歴史をまとめた。最近の話題として紹介した二つの例のうち一つが、日本のバルサルタンの臨床試験だった。「日本の臨床試験に懸念が発生した。まだ詐欺か明らかではないが、論文の正当性に影響を与える懸念だ。」バルサルタン問題への日本社会の対応を世界がみている。(6/23 毎日新聞)

営業の深淵(D-2)
製薬会社225社からなる医薬品公取協は、製薬会社の医薬情報担当者(MR)による医師への接待に関する自主規制を2012年4月から強化する。接待に関わる自主規制の見直しは02年以来。これまでも「華美過大な接待は好ましくない。」としてきたが、過剰接待はなかなか止まなかった。4月からは接待の上限は2万円。これまで認めてきたゴルフやカラオケ、観劇やスポーツ観戦、二次会の費用を出すことも禁止した。(2011/6/23 J-CASTニュース)

人事(D-3)
(滋賀医大での)ディオバンの臨床試験データねつ造疑惑で、研究責任者の柏木厚典副学長は大学側の調査に対し、「データの入力ミスにすぎない。不正ではない。」と強く反発した。調査委員長を務めた服部副学長は「(論文を)取り下げた方がいいと思っている。」と述べる一方、「撤回は研究者本人がやるもの。修正で済ませるならそれも一つの方法。」と話すなど、次期学長の有力候補とささやかれていた柏木氏への配慮をにじませた。(10/31 毎日新聞)

カネ(D-4)
ノバルティス社は論文ねつ造疑惑のある5大学に総額11億3290万円の奨学寄附金を支出しており、滋賀医大には6550万円を提供していた。大学の資料によると、柏木氏個人には講演料などで5年間で計255万円の謝金があった。(10/31 毎日新聞)

考察
D-3とD-4は続き物の記事なので、言わずもがなだが、「カネをもらってねつ造した論文で実績を作り、学長の座を狙う実力者が支配する暗黒学園」というおいしいストーリーを狙う意図が感じられる。革新系のマスメディア、毎日や朝日はこういったストーリーを描くのが得意、というか使命に思っているようなフシがあるので注意。(いや、好きですけどね、こういう記事。)

人事やカネに関してはC-1と絡めるのもおもしろい。高血圧学会と論文ねつ造研究者と製薬会社の関係はかぶるので、その辺からいろいろとネタは上げられる。

D-1の外国からの評価、もなかなかウケがいい。この場合、外国とは欧米を指すのであって、それ以外ではない。何か事件が起こった場合、外国(欧米)ではこうだ、こう見られている、信用を無くす、信頼されている、と書くことで、一定の需要を満たすことができる。外国からの評価に中韓と日本を比較する方法も近年よく見られる。(実は6/23の毎日の記事でも韓国の論文についての言及がある。)

インセンティブという面から見ると、D-2の情報は面白いと思う。現場の医師へのアクセスが制限されると、どこに営業をかけるか、どこにカネを回すか、と考えれば、もっと川上(研究分野)にリソースを投入する以外にない。医薬品開発が滞り薬剤の「実力」にほとんど差がない環境下で、自主規制によるMRの「営業力」を縛られた製薬会社の営業の手段はどこにあるか。「実力」の装飾にしかない。装飾が行き過ぎて粉飾に変わったのがこの事件のケースだが、「適応疾患の追加」など装飾は厚労省のお墨付きで頻繁に行われいる。

今後の興味はB-1、薬事法の適用があるのかどうか、という点にあると思う。「誇大広告」とは何なのか。これはかなり微妙な問題点を含むのではないか。

蛇足
この事件のカギを握るノバルティス元社員のナマの声が聞こえてこない。雲隠れしているのか、謹慎しているのか。社の指示だったとか、他社でもやっているとかそういったスクープがとれる可能性はあると思うが。

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