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【読書感想】「Chikirinの日記」の育て方

内容紹介

この本は、2005年3月に始まった社会派ブログ、「Chikirinの日記」の運営記です。

無名の会社員が“ちきりん”などというふざけたペンネームで書き始めた個人ブログは、現在、日々数万人の読者が訪れる人気ブログとなりました。

書き手の“ちきりん”は、実名はおろか詳しい経歴も開示せず、取材時の写真撮影でも“お面”を使って顔を隠しています。

そんな立場でありながら4冊の書籍を出し、定員500人もの会場で講演会を開き、企業家や政治家、研究者からプロの勝負師まで、様々な方と対談するまでとなっています。

そんなブログを、いったいどうやって育ててきたのか。この9年の間に何が起こり、それぞれの場面において、どんな判断をしてきたのか。本書では、これまでほとんど開示してこなかったブログ運営について、まとめています。


ブログテーマの選び方から、“そんじゃーね”が果たした役割、ツイッターの使い方、炎上コントロールの方法から匿名と実名の使い分け、そしてブログからの収入額まで、「Chikirinの日記」運営の実態とその裏側が初めて明かされます。


・本書はブログで成功するためのノウハウ本ではありません。あくまで“ちきりんブログ”の運営記録です。

・全文書き下ろし 計6万6千字

・詳細目次は「Chikirinの日記」2013年11月15日のエントリをご覧ください。


そんじゃーね!



この本を読んで、僕はようやくわかったような気がしたのです。

他の「プロブロガー」と、ちきりんさんに感じる「違い」とは何なのか。


ブログを書いている人は、文章を書くのが好きで、ブログで認知され、本を出版したり、他のメディアで採り上げられたりするのがひとつの「成功の象徴」みたいなイメージを持っているのではないかと思います(少なくとも僕はそうです)。

ところが、ちきりんさんは、その逆をずっと考えてきたのです。

私が、「書籍を出すのもブログへの集客の手段」と考えている理由も、ここから来ています。著作がある、単著があるということは、リアルなビジネスの世界で信用力を得るためには大変役に立ちます。けれども本は「コンテンツの塊」であって、「発信できる場所」ではありません。

ほとんどの本は出版後1年もたてば、書店で探すのも難しくなります。そんな著作を何冊も持っていることより、毎日何万人もが訪れてくれるサイトを持っているほうが、圧倒的に発信力は高いのです。

自分のサイトを育てることは、将来何か新しいことをやるためのインフラを整備し、維持しておくようなものです。ライターを目指すのでも収益化を目指すのでもなく、「Chikirinの日記」という場所の運営者として、その場所の価値をできるだけ上げていくこと、それを目標として設定したことは、ちきりん活動の指針の大方を規定する、重要な決断だったと思います。



ああ、ちきりんさんは「プロブロガー」になりたいわけじゃなくて、糸井重里さんと同じようなことをやりたいんだなあ、って。

「稼ぐための最適化」よりも、読みに来てくれる人たちの心地良さを大切にし、「面白い場所」をつくることを指向していたんですね。

ブログを踏み台にするのではなく、他のメディアも活用し、ブログの力を高めることが、目的になっているのです。

この本には「懐事情」的なものも書かれているのですが、ちきりんさん自身が「あまり生活にお金を使わないタイプ」らしくて、お金に対してガツガツしたところは、あまりなさそうなんですよ。

もっとも、そういう姿勢というのは、それはそれで理解されがたいところもあるみたいなんですが……

「お金が欲しい!」っていう人のほうが、「わかりやすい」のは事実でしょうし。


あの「Chikirinの日記」も、立ち上げから、大人気ブログだったわけではないのです。

ネット上に文章を書き始めても、読んでくれる人はほとんどいません。でも紙の日記の場合、自分以外の読者はいないのが当たり前なので、ブログを始めて5人でも10人でも、読者が現れたこと自体にびっくりしました。


おそらく最初1年くらいは、毎日50PVくらい、月に1500PV程度だったろうと思います。うち10名くらいが固定読者という感じでした。


いまの人気からすると信じられない話ではあるのですが、「Chikirinの日記」が注目されはじめたのは、書き始めてから3年くらい経ってから。

よく我慢できたなあ、と短気な僕は思ってしまうのですが、「振り返ってみると、ブレイクするのに時間がかかったことは、マイナスではなかった」と、ちきりんさんは仰っています。

ネットの最先端ユーザーは、私より数年早くブログを書き始めており、影響力のあるブロガーを”アルファ・ブロガー”と称して、認定する試みも始まっていました。でも、まだ10人ほどしか固定読者のいなかった私には、それらも無縁の世界でした。


あまり注目されていない時期が3年もあり、その後も一年半くらいかけて人気が徐々に高まったからこそ、ウェブの世界に疎い私にも「ネット上でのお作法」を勉強する期間の猶予があったのです。このことは、いま考えても本当にラッキーだったと思います。


雌伏の時期にさまざまなエントリを蓄積した状態で「ブレイク」できたことのメリットも大きかったそうです。

ネットの世界では、ちょっとしたきっかけで、はじめたばかりのブログのひとつのエントリに、大量の読者が集まることがあります。

それは、すごい幸運であるようにみえるけれど、「いきなり注目される」というのは、怖いことでもあるのです。

注目されれば、ネガティブな反応が来ることもあります。

そういう状況に影響されすぎず、うまく適応していくには「ネット上での経験値」が高いほうが有利です。

他の人の「炎上」に対するふるまいから、学ぶことも大きい。

(しかしながら、ああいう「炎上」っていうのは、他人が燃えているのと、自分自身が燃えているのでは、こんなに違った風景が見えるのだな、と僕も痛感した記憶があります)

エントリの蓄積が少なければ、「これだけしかないのか」とすぐに飽きられたり、そのわずかな情報だけで「あなたはそういう人だ」なんて、決めつけられたりもしがちだし。


芸人さんにだって、そういうこと、ありますよね。

若いときにアイドル的にブレイクしたけれど、まだキャリアが浅くて「芸の貯金」が無いままレギュラー番組がたくさん決まってしまった。

ネタの蓄積も経験も無いために、すぐにガス欠を起こし、「あいつらはつまらない」とバッシングされて、すぐに番組を降ろされ、かえって遠回りをすることになってしまう。

ただ、だからといって、「わざとブレイクしないようにする」っていうのも、ちょっと違っていたりもするわけで。

準備不足だろうが、今はネタがなかろうが、目の前にチャンスが現れれば、飛びつかないと、次があるかどうかわからない、というのもまた、ひとつの真実ではあります。

結局のところは「運」みたいなものなのかもしれませんね。

ちきりんさんも、この本のなかで、何度も「いろんな(たとえば、はてなブックマークが使われるようになったり、Twitterが導入された)タイミングがちょうどよかった」と、述懐されています。


もちろん「運」だけではないんですけどね。

ちきりんさんには、ちゃんと「戦略」があった。

それも、「検索対策」のようなものではなく、「読み物として、固定読者を得るための工夫」は欠かさなかったのです。

ブログの場合は、なにかのきっかけて通常の何倍ものアクセスがあった場合、その翌日に何を書くかが鍵となります。なぜなら、昨日たまたま来てくれた人の一部は、今日もブログを再訪してくれる可能性が高いからです。それに備え、大きく注目された翌日こそ「昨日よりおもしろい何か」を書いておけば、再訪してくれた人に対して、一気に「このブログはおもしろい!」と印象付けられます。そうやって、「エントリを読みに来た人」を「ちきりんブログを読みにくる人」に変えるのです。


私もヒットエントリがでた翌日は、なんとかそれを超える価値のあるエントリを書こうと頑張りました。二回続けて「おもしろい!」と思われたら、非常に高い確率で、「このブログはおもしろい」と判断してもらえるからです。 


実は、ひとつのエントリが何かのきっかけで突然、大量のアクセスを集めるという事態は、案外、多くの人に起こっています。


最近は私も、他のブログに大量のアクセスを呼び込める紹介側ブログのひとつになりました。内容がおもしろければ、無名のサイトでも紹介します。ところがそういうサイトを翌日に再訪すると、「きちりんさんに紹介されて、こんなにアクセスが増えました!」と書いてあったりします。これは本当にもったいないです。


ちきりんさんは、「一度注目されたエントリがあると、同じようなエントリばかり書き始めてしまう人がいる」ことや、「最初はテーマや伝えたいことがはっきりしていたのに、次第にPVが手軽に稼げるワイドショーネタや有名人叩きばかりが増えていくブログがある」ことを嘆いておられます。


ブログにとって、大量のアクセスというのはまさに「麻薬」のようなもので、「曲げない」つもりでも、一度注目される高揚感を知ってしまうと、けっこう簡単に「転んでしまう」ものなんですよね。


僕自身も零細ではあるものの、ブログを運営している人間なので、大量のアクセスを集めるような「ヒット記事」のあとって、「これで2~3日更新しなくても、余録で多めのアクセスを確保できるな」とか、「このタイミングだったら、少々手抜きの記事でも、そんなにアクセス減らないんじゃないかな」とか、ついラクをしてしまう気持ちはよくわかるのです。

というか、そうなりがち。

でも、読む側からしたら「あのブログは面白いかも」と期待して再訪して、「○○さんありがとう!」だったら、「馴れ合いかよ!」って、軽く失望してしまうのです。

本当は「一度読んでもらったあと」こそが、大事なんだよなあ。

 

僕は、この本を読んでいて、この話を思いだしました。

「Quick Japan/Vol.62」(太田出版)の「総力特集・山下達郎」より、山下達郎さんと山口隆さん(サンボマスター)の対談の一部です。

(音楽の「主流」とは?という話になって)


山下達郎:主流は筒美京平さんとかであって、僕の音楽はまったく主流ではない。


山口隆:そうかなぁ。でも1位とかガンガン獲ってたら、本流じゃないんですか?


山下:経済活動とかチャートで1位を獲っても、それをもって主流とは言えない。音楽についての勝ち負けというのはすごく難しい。相撲だったら横綱にならなきゃ勝ちじゃない。オリンピックだったら金メダルを獲ればマイルストーンになる。しかるに、音楽にどうやって勝ち負けを付けるかと言えば、それは1位なのか、東京ドームで公演することなのか。でも、1位を獲っても、100万枚売っても、その曲に対してある人は涙を流して感動するけど、ある人はゴミだと言う。1億3千万の日本人を全員満足させる音楽はない。しかも、それがどんどん細分化されていっている。


山口:それで達郎さんは何を勝ちだと?自分の満足?


山下:勝ち負けは人が決めること。あとは、自分が顧客(カスタマー)でいて欲しい人たちの観念(イデア)に向けて発信したものを、その人たちがいいと思ってくれること。



Chikirinさんは、まさにこの「自分が顧客(カスタマー)でいて欲しい人たちの観念(イデア)に向けて発信したものを、その人たちがいいと思ってくれること」を目指し続けて、ブレなかった人だと思うのです。

常に、「顧客でいて欲しい人」のほうを向いて、発信を続けていた。

対象外の人たちからはバッシングされることも少なくないけれども、それも覚悟の上で。


もしあなたが、個人ブログを運営しているか、「Chikirinの日記」のファンであるならば、とても興味深く読める内容だと思います。

ブログ運営の「機微」みたいなものが、上手にとらえられているんですよね。

「『ちきりん』というハンドルネームの由来」や「なぜ、『はてなブックマーク』のコメントを非表示にしたのか?」とか、「なぜ匿名を貫いているのか?」というような「疑問」に対する答えも、きちんと書かれていますし。

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