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「強欲は善だ」というアメリカの価値観を理解しなければならない~小説家・真山仁氏インタビュー

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インタビューに応じる真山仁氏(編集部撮影)
インタビューに応じる真山仁氏(編集部撮影) 写真一覧
バブルで大きな痛手を負った日本企業を買い叩く投資ファンンドの鷲津政彦の活躍を描いた経済小説「ハゲタカ」。後にNHKでテレビドラマ化もされて人気シリーズとなった本作の最新刊「グリード」が10月29日発売された。本作執筆のための取材時のエピソードや日本経済について、作者である真山仁氏に聞いた(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

リーマン・ショックを経てなお「Greed is good」というアメリカ


――真山さんは、一つの作品を書く上で丹念に取材を重ねることで知られています。「グリード」でも多くの方に取材したのでしょうか?

真山仁氏(以下、真山):実は今回はそれほど多くないんです。協力していただいた方の名前は、作品の最後に掲載しました。もちろん、「名前を伏せてほしい」という方も結構いるので、掲載されているよりは多いですが、それでも「ハゲタカ」シリーズの中では一番少ないぐらいです。

今回は2011年11月に1週間ほど、ニューヨークに滞在し、猛烈に取材しました。あとは補完的にお話を伺ったぐらいですかね。というのも、リーマン・ショックに関しては、アメリカで非常によく出来たノンフィクションが既に何冊も出ていますから、それらを比較・検討していくことで、ある程度の状況が見えてきます。こうしたノンフィクションを書いているのは、リーマンに勤めていた人間や継続的に状況を追いかけていた記者、そしてこの騒動で儲けた人間や損した人間たちです。

また、これはシリーズものの良いところなんですが、登場人物のうち、主要な人物の半分くらいはもうすでにキャラクターが完成しています。なので、こうした登場人物のための取材はしなくていい。

デビュー作でもあるシリーズ1作目の「ハゲタカ」を書いたときの取材数が、今までで一番多かったですね。その理由は、私の知識がゼロに近かったからです。取材する際も最初から狙い撃ちで「この人に会いたい」と言える立場ではなかったので、目当ての人に辿り着くまで3~4人にお会いして、「次に誰か紹介してください」と徐々に広げていかなければならなかった。当時は、そういう状況だったので100人ぐらいにお会いしましたね。

――ニューヨークでの取材中に特に印象に残ったエピソードはありますか。

真山:「ハゲタカ」シリーズも含めた過去の作品すべてについて言えることですが、私の場合タイトルが先に決まるということは、まずありません。仮に決まっていたとしても最後に変わることの方が多い。単行本にする際に、変えたりすることもありました。

しかし、「グリード」の場合は、ニューヨーク取材へ行く前に、「おそらくこの小説のタイトルは『グリード』になる」と宣言していました。何故かというと、この言葉が持っている意味が、おそらく日本人とアメリカ人の違い、さらに金融という作品の柱となるものを非常に象徴できると考えたからなんです。

このエピソードは小説の中でも出てきますが、オリバー・ストーン監督の「ウォール街」という映画の中でカリスマ投資家役のマイケル・ダグラスが「Greed is good」というセリフを言います。日本語で簡単に言うと「強欲は善だ」と。意訳すると「がめつい方が良い」あるいは、「銭ゲバでどこが悪い」といったところでしょうか。

これは日本であれば、「何を言ってんだ」と思われるでしょうし、社会的に許されませんよね。しかし、この映画は、ウォール街で働く人々にとってはバイブルだというんです。そうだとしたら、実際にニューヨークに行ってリーマン・ショックを経験した人達に当時を振り返って、あの惨状を経験してもなお「Greed is good」と言えるのか、ということを聞きたかったんです。

こうした疑問をもって、ニューヨーク取材に臨み、アメリカ人はもちろん、アメリカの企業で働いている日本人にも会いました。ニューヨークのリーマン・ブラザーズで働いていた日本人、邦銀でリーマン・ショックを経験した人間、ニューヨーク在住の記者などにも会って、みんなに同じ質問をしましたが、全員「Greed is good」が正しいと言うのです。それどころか、それ以外何もないと。

つまり、「Greed is good」という価値観以外に、アメリカが成長する原動力はないと彼らは言うんです。私はさらに、「反省はしないのか」と聞きましたが、「なんで反省しなきゃいけないんだ」と返され、「敗れた人は今ここにいない。それで十分だろ」と追い討ちをかけられました。

――日本ではあまり受け入れらない価値観だと思いますが。

真山:最初のうちは私も呆れていましたが、全員が同じようなことを口にするのを見て、アメリカ人と日本人の価値観が違うのではないかと考えるようになりました。彼らは「Greed is American dream」、つまりアメリカンドリームを達成するためにはグリードがないと駄目だというんですね。先程「Greed」という言葉を、「がめつい」「銭ゲバ」と日本語的に訳しましたが、たぶん彼らからすると突き動かされる強い「衝動」あるいは「モチベーション」といった訳が適切なのかもしれません。

つまり、やる気のない奴は退場しなさいということです。弱肉強食のジャングルの中で生き残るためには、人を押しのけてでもまず自分が前に出て戦っていくことが、必要であり、それが「Greed is good」だと考える理由だと解釈すれば腑に落ちます。おそらくアメリカという国において、倫理や道徳は勝者になってから出てくるものだろうなとも思いました。そのように考えていくと、それまで感じていた違和感がなくなっていったのです。最初の内は、取材の中でも「いやそれはひどいだろ」と何度も思っていたのですが。

リーマン・ショックの問題点は、強国アメリカの金融機関がおかしくなったことでヨーロッパの末端、例えばアイスランドのような国が国家破綻してしまったことにあります。しかし、アメリカの金融機関の人間は、「それでも我々はリスクをちゃんと示した。テイクした彼らが悪いわけで、我々は別に違法行為をしたわけではない」というわけです。こうした理屈をしゃべる彼らを最初は酷いことを言う人達だなと思っていました。ただ、繰り返し言われると、「これは自分達の価値観と違うからだ」と思い至る。

ニューヨークに行き、話を聞いて漠然とイメージしていたこの「Greed」に対する感覚の違いこそが、おそらく日米の最大の価値観の違いだろうと確信しました。これから日本が国際社会で確固とした自分達のポジションを築くためには、これを理解しないと大変なことになる、という認識を強くしてニューヨーク取材から帰ってきたんです。

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