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【読書感想】修業論


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修業論 (光文社新書)


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修業論 (光文社新書)

出版社からのコメント

◆日々の稽古を通じてたどりつくべき「無敵の境地」とは!?

武道家として、研究者として、生活人として……

40年の稽古を通して形作られた、ウチダ哲学の核心(エッセンス)

◆武道の修業、なかでも著者が長年稽古をつづけている合気道の修業を通じて開発されるべき能力とは、「生き延びるための力」である。

それは「あらゆる敵と戦って、これをたおす」ことを目的とするものではなく、「自分自身の弱さのもたらす災禍」を最小化し、他者と共生・同化する技術をみがく訓練の体系である。

道場での稽古を「楽屋」と位置づけ、道場の外の生業の場を「舞台」とする。

新たな学びを阻止する無知や弱さといったものを「居着き」ととらえ、これを解除し、「守るべき私」を廃棄する。

すると修業は自分を、予想もしなかった場所へ連れていく――。

合気道修業を通じて得たこれらの身体的実感は、瞑想や祈りといった宗教の実践とも重なる。

修業とはなにか、強くなるとはどういうことか、そして信仰とは、生きるとは――。

正面から問い、それに答える。


 僕は武道とは極北の人生を送ってきた人間なので、内田樹先生の著作のなかで、合気道について語られたものは、かなり苦手だったんですよね。

 でも、これは新書でもあるし、読みやすいかな、と思って購入。

 ひととおり読んでみたのですが、実際に「修業」を経験したことがない僕としては「なるほど、武道の世界というのは、こんな感じなのかな……」と、ちょっとわかったような気分になった部分と、こういうのって、「言葉にすると、どうしてもウソになってしまう面がある」のだろうな、と感じた部分がそれぞれありました。

「言葉にできないものを、言葉にしてみせる」のが内田先生のワザであるのと同時に、ちょっと「煙に捲かれている」ような気もしたんですよね。

「じゃあ、合気道経験のない僕にとって、これが何の役に立つのか?」と問うてみても、「役に立つのか?とか考えている時点で、それはもう本質から外れている」という答えが返ってくるわけで。

ただ、ここで言葉にされていることそのものは、すごく興味深いし、面白い。

僕も合気道をやってみたいな、とも、ちょっと思いました。

 身体技法の場合には、修業で習得されたことは、ほとんどの場合「自分の身体にこんな部位があることを知らなかった部位を感知し、制御できるようなった」というかたちで経験されます。「骨盤を倒す」とか「股関節を畳む」とか「肩甲骨を開く」といったような基本的な身体操作でさえ、「できた」後になってはじめて、自分が「何をした」のかがわかる。できる前には、「あれができるようになる」という目標設定をすることができません。「あれ」が身体実感として存在しないんですから。

 そのような部位があり、そのような働きをするとはかつて一度も思ったこともなかった部位が、現に活発に働いているのを実感するときに、修業の意味は事後的・回顧的にわかります。ですから、修業がもたらす成果を、修業開始に先だってあらかじめ開示することは不可能なのです。

つまり、「これをやったら、こういうことができますよ」と因果関係があらかじめ示されているようなものは「修業」ではない、ということなのです。

それはもちろん、身体的な働きにかぎらず。

「とにかくやってみる」そして、「成果が出てみてはじめて、『こういうことだったのか』と理解できる」。

でもまあ、そういう因果関係が明示されていないものは、現代人には理解されにくいだろう、と内田先生も仰っています。

実際、部活レベルで武道をやっている人たちだって、段位を取得したいとか、大会で好成績を収めたい、という動機でやっている場合が多いのではないかなあ、と僕は想像しているのですが……

 武術の稽古を通じて私たちが開発しようとしている潜在能力がどういうものであるかは、戦国時代でも、江戸時代でも、大筋では変わらないだろうと私は思っている。それはさしあたりは、実践的な意味での生き延びる力である。

 戦場では戦闘能力として示される能力が、平時では例えば統治能力として顕現する。ということは、戦闘能力と統治能力と共約する人間的能力が存在するということである。それは何か。

 この問いはそのまま、「武術修業を通じて私たちはどのような力を身につけようとしているのか?」という問いに通じている。

 この問いに対しての私の答えは経験的には自明である。

 生き延びるためにもっとも重要な能力は、「集団をひとつにまとめる力」である。

究極的には、その「集団をひとつにまとめる力」と向上させるのが武道の目的である、ということなのです。

この新書のなかで、内田先生が、司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』について語っている章があるのですが、内田先生は、この小説のなかで「竜馬の修業のプロセス」があまりにも端折られ、いきなり天才的な能力を発揮しているのに違和感があると仰っています。

いくら才能があったとしても、そんなに簡単なものではないだろう、と。

そしてそれは「太平洋戦争に従軍した司馬遼太郎という人の『合理的であろうという精神』の影響」であり、「武術修業という不合理なものへの違和感」なのではないか、と推論されています。

坂本龍馬、木戸孝允、武市半平太らの明治維新で重要な役割を果たした志士たちが、武道家としても高名だったことを「偶然にも」と書いた司馬さんに対して、「それは偶然ではないはずだ」とも仰っています。

武道といえば、学校の体育の時間に嫌な思い出しかない僕としては、司馬さんに一票入れたいところではあるのですが、これだけ長い間武道が生き延びていることを考えると、たぶん、「対人格闘での優位だけではない『何か』がある」のですよね、そこには。

「天下無敵」についての、内田先生の解釈も、大変興味深いものでした。

「天下に敵なし」とは、敵を「存在してはならないもの」ととらえないということである。そういうものは日常的風景として「あって当たり前」なので、特段気にしないという心的態度のことである。

 風邪を引いたら、「生まれてからずっと風邪を引いていた」かのようにふるまい、雷撃に打たれたら「生まれてからずっと雷撃に打たれ続けてきた」かのようにふるまい、子どもを亡くしたら「生まれてからずっと子どもに死なれ続けてきた人」であるかのようにふるまうことができる。そのような心身のモードの切り替えができる人にとってはじめて、天下は無敵である。


なるほど……特定の「何か」を倒すことを「無敵」だと定義している限り、本当の「無敵」にはなれないのです。

「敵」は無数にいるし、自分が常にベストコンディションとは限らない。

どんな状況にあっても、それを「もともとそういうもの」だと受け入れられる、それが「敵が無い」ということなのだ、と。

……しかし、考えてみれば、「そんなことできるヤツいないだろ……」という感じではあるんですけどね。

うーん、でも実在するならば、本当の「天下無敵な人」は、格闘技のリングや武道場にいるとは限らないのですね。

この新書のなかに、中島敦の『名人伝』に出てくる、弓の名人・紀昌の話が何度か出てくるのですが、僕もこの作品、すごく好きなんです。極めたひとの凄みのような、幻想文学のような「名人」の一代記。

また、この新書のなかには、内田先生が長年研究してきたエマニュエル・レヴィナスというフランスのユダヤ人哲学者の話が出てきます。

「神がいるのなら、なぜホロコーストが引き起こされたのか?」と絶望し、神を信じられなくなったフランスのユダヤ人たちに、レヴィナスさんの弁神論は、あらたな精神的な支柱となったのです。

 ホロコーストは、人間が人間に対して犯した罪である。人間が人間に対して犯した罪の償いや癒やしは、神がなすべき仕事ではない。神がその名にふさわしいものなら、必ずや「神の支援なしに地上に正義と慈愛の世界を打ち立てることのできる人間」を創造されたはずである。自力で世界を人間的なものに変えることができる高い知性と徳性を備えた人間を創造されたはずである。

「唯一なる神に至る道程には神なき宿駅がある」(レヴィナス『困難な自由』)。この「神なき宿駅」を歩むものの孤独と決断が、信仰の主体性を基礎づける。この自立した信仰者をレヴィナスは「主体」あるいは「成人」と名づけたのである。


ひとりの人間には、何ができるのか?

正直、僕には「興味深いけれど、真似できない世界」ではあります。

これを読んでいて役立てられるほど立派な人間じゃないけれど、読んでみてよかったんじゃないか、とは思った新書です。

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