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女性の雇用に関する比較研究

短い文献紹介です。



Tanja van der Lippe and Liset van Dijk, 2002, "Comparative Research on Women's Employment", Annual Review of Sociology, 28:221-41.


女性の雇用に関するここ25年ほどの比較研究についての、レビュー論文です。よく整理されていると思うので、前半だけサマライズしておきます。主に旧社会主義国を含めた欧米諸国を対象とした論文をカバーしているようです。



女性労働の尺度と記述


以下のような尺度が主に使われている。



■経済活動:就業率(employment rate)、労働参加率(participation rate)



  • 分母はどちらも生産年齢人口だが、後者は分子に失業者も含む。これらを尺度として用いるときのデメリットは、労働の内容が不問にされること。特に、パートタイムもフルタイムも同じように扱われてしまうこと。
  • とりあえず数値だけ見ると、北欧で高い(76%)。次にアングロサクソン諸国(70%)。イタリア、ギリシャ、スペインでは50%ほど。オランダは急速に数値を上げてきている。
  • 変化が激しいのは既婚女性の就業率。しかしここでも北欧とアメリカで63%なのに、南欧では平均して37%に留まる。
  • 東欧(旧社会主義)諸国では、革命前においてすでに西側諸国よりも高い女性労働力率を実現していた。革命後は全体的な就業率の低下に伴って数値が下がってきているが、男性と比較した数値は1988年から1995年で上昇した。


■労働時間



パートタイム労働の定義は機関や個人によりまちまちである(たとえばILOの定義と比べるとOECDのパートタイムの定義は広い)。Hakimの定義を使うと、(a)時短労働(reduced hours jobs, 30-35くらい?)、(b)半日労働(half-time jobs, 15-29)、(c)短時間労働(marginal jobs)となる。この定義に従うと...


  • スウェーデン、デンマーク、ノルウェイでは時短が多い。
  • イギリス、ドイツ、フランス、ベルギーでは半日労働が多い。
  • アメリカ、ギリシャ、スペイン、ポルトガルではフルタイムが多い。
  • 東欧諸国では、革命前まではパートタイム労働は単純に存在せず、革命後もこの状況はあまり変わっていない。


■性別分離



一般的に、女性の労働市場参加は男女の職域分離をほとんど緩和してこなかった。職域分離は、通常は職業変数で測定されるが、国際比較の文脈では産業分類変数が使われることが多い。たいていどこの国でもサービスセクターの女性割合が高い。


  • 北欧諸国では他の国に比べて職域分離の度合いが大きい。
  • 東欧諸国では革命前は職域分離の度合いが小さかったが、市場経済移行に伴ないサービスセクターが成長し、徐々に西欧諸国に近づいている。


■時給



賃金に関しては、絶対的な所得の多さではなく、たいていは男性と比較した時の値が関心を集めている。ほぼすべての数値で男女格差があるが、


  • 北欧諸国では男女の時給格差がいくぶんか他の地域より小さい。
  • アメリカ、オーストラリア、カナダでは女性の管理職比率が高い。
  • 革命前の東欧諸国でも、賃金と管理職比率の男女格差がそうとうな程度存在した。


三つのアプローチ


■マクロ・アプローチ


  • 各国の事例に注目する記述的方法。
  • いくつかの経済・政治・社会変数の計量的関連をみる方法。欠点としては...
    • 学歴、婚姻、エスニシティのばらつきなどを適切に考慮するのが難しいこと。
    • 制度を表す指標がうまく揃わないこと。同じ「政府による子育て支援」でも国ごとに様子が異なる。多くの国のデータを一括して扱いたいときには、細かな情報は切り捨てる必要がある。


■ミクロ・アプローチ


  • 典型的には各国ごとのマイクロデータを使った重回帰分析を行い、それを制度に関する事例記述で補完するという方法。面白い研究も多いが、基本的には計量分析と事例研究の折衷になる。


■マクロ-ミクロ・アプローチ


  • 個人レベル変数と制度変数を同時に使って推計するやり方。たいていの場合、個人レベルの被説明変数のばらつきのうち、個人レベルの説明変数で吸収できない部分が制度変数によって吸収できるかどうかをみる。
  • マクロ・アプローチでの難点(信頼できる制度変数の入手)はそのまま残る。


以降、制度と個人のそれぞれのレベルでの変数が女性の雇用にもつ効果についてのレビューが続くのですが、省略します。考察部分で「以降はマクロ-ミクロ・アプローチが主流になるだろう」と述べられてます。そして(混合モデルが多くの統計パッケージに実装されるようになって)実際そのとおりになりつつあります。



社会学は経済学に比べて制度を重視する(行為から制度を説明するというよりも制度から出発して行為を説明する)という特性があると以前書いたことがあるのですが、これはあくまで社会理論の文脈。実際の実証研究では、少なくともこれまでは制度軽視だったと思います。家族しかり、ネットワークしかり...基本はミクロレベルの行為の説明でした。でもこれからは徐々に変わっていくのだと思います。



マクロやらミクロやらの用語は一部業界では慎重な取り扱いが要されるみたいですが、ここでは特に深い意味もないく、「国レベルのデータ(主に集計データや国ごとの法制度の違い)を分析するのがマクロで、個人レベルのデータ(年齢、学歴や態度)を扱うのがミクロ」でいいと思います。



ただ、少なくとも計量分析の世界では、ミクロとマクロの区別はおそらく多くの計量分析研究者が考えている区分では説明不可能です。なぜかというと...この話は少々長くなるので別のエントリにします。


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