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敵基地攻撃能力:知っておきたい巡航ミサイルと空爆の有効性

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敵基地攻撃能力についての記事を書いたばかりですが、新しい動きがあったので、多少修正の上で再掲いたします。

◇ ◇ ◇


年内の「防衛計画の大綱」*1改訂に向けて、6月に自民党が提言を作成し、7月末には防衛省が中間報告を公表しました。その中で、集団的自衛権と並んで注目されているのが、敵基地攻撃能力です。

敵基地攻撃論は戦後間もない頃からある議論ですが、現在争点となっている敵基地とは、「北朝鮮の弾道ミサイル発射基地」を指します(政府、防衛省資料より)。北朝鮮がミサイルを発射しようとしたら、座して自滅を待つのではなく、ミサイルおよび発射台を破壊してしまおうというものです。つまり、敵基地攻撃論とは、対北朝鮮弾道ミサイル防衛政策の文脈上にある議論と言えます。

なお、同じく弾道ミサイル脅威である中国に対しては、とてもじゃないけど実行不可能(米軍でさえ躊躇するレベル)なオプションなので、政府や防衛省部内でも検討されていません。

本稿では、主に軍事的な側面から敵基地攻撃能力の初歩をまとめてみたいと思います。

法理論上は行使可能

最初に、少しだけ法律面にも触れておきたいと思います。

敵基地攻撃を考える際、分類として(1)予防攻撃なのか、(2)先制的自衛なのか、それとも(3)反撃なのかというところが重要です(参照)。まず、予防攻撃は日本国憲法はもちろん、国際法でも違反とされています。次に、先制的自衛は国際法では認められ、我が国の政府答弁でも法理的には可能であると解釈されてきましたが*2、それでも多くの異論が唱えられるものでした。

最新の報道によると、政府の有識者懇談会は敵基地攻撃を反撃行為として議論していくとのことです。
北朝鮮によるミサイル攻撃への対応を念頭に置いた、敵の基地への攻撃能力の保有について、アメリカ軍の機能の一部を肩代わりし、あくまで攻撃を受けたり、受けそうになったりした場合の反撃手段として考えるべきだとして、先制攻撃は除く形で検討していくことになりました。(強調筆者)

防衛大綱「先制攻撃」除き検討へ(NHK 2013/11/11)
つまり、政府は国連憲章第51条にのっとった反撃行為として敵基地攻撃能力保有の検討をするわけです。攻撃を受けた後及び敵の攻撃着手が確認できた後の反撃であるならば、国際法にも日本国憲法にも適合するという解釈が主流ですので、反対意見もこれまでより少なくなるでしょう。敵基地攻撃論はかなり穏当な形に収まりつつある印象ですね。

また、敵基地攻撃能力保有議論を難しくしている原因に、自衛権の発動要件も挙げられます。3つの発動要件のひとつとして、急迫不正の侵害を排除するために「他に適当な手段がない」という一条があり、我が国がすでに保有しているミサイル防衛(MD)や日米同盟における米軍という「適当な手段」との整合性が争点となっています。しかし、有識者懇が明らかにしたように、“米軍の機能の一部”としての能力獲得というのであれば、これまでよりもハードルは低くなったのではないかと見られます。

敵基地が移動する!

法理論上の問題や周辺国への政治的配慮、お財布事情など、いくつかのハードルを乗り越えたとしても、弾道ミサイル対処において、敵基地攻撃は簡単な任務ではありません。というのも、攻撃目標である敵基地が移動するからです。

北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうち、日本攻撃に用いられる可能性が高いのが準中距離弾道ミサイル・ノドンです。他にもスカッドERやムスダンといったミサイルもありますが、いずれもTEL(Transporter Erector Launcher vehicle:起立発射輸送車両)と呼ばれる大型トレーラー程度の大きさの移動式発射台に1両につき1発ずつ搭載され、そこから発射されます*3。敵基地攻撃論において攻撃しようとしているのは、この移動可能なTELというわけです(発射するときは動きません)。

画像を見る
(スカッドを載せて起立したTEL。Wikimediaより)

ノドンを搭載するTELは、時速60kmで移動可能です。仮にTELを発見して攻撃するまでに1時間かかるとすると、TELは少なくとも数十km移動しています*4。もちろん、北朝鮮は発射位置の特定をさせないように、車両の隠ぺいやカムフラージュ、偽物を配備するなどといった欺瞞を仕掛けてきますから、これらを見破らなければなりません。

こうしたことから、「敵基地攻撃」ではなく、「敵策源地攻撃」という語が用いられることもあります。基地というと、陸上自衛隊の駐屯地や在日米軍基地みたいな固定されたものを想像してしまうので、策源地という方が確かに適切かもしれないですね。とはいえ、本稿では便宜上、敵基地攻撃を使用します。

では、移動する敵基地=TELを攻撃するにはどのような手段があるのでしょうか?

選択肢1: 航空機による爆撃

画像を見る
(JDAMを投下するF-15E。Wikimediaより)

2004年、石破茂防衛庁長官(当時)の指示のもとで、防衛研究所が敵基地攻撃について特別報告書をまとめました*5。そこでは、ノドンのTELを攻撃目標に想定し、2つの攻撃方法を検討しました。そのひとつが「航空機による爆撃」です。空対地ミサイルや精密誘導爆弾によるTEL攻撃オプションですね。

防研報告書は当時、「航空機による誘導ミサイル攻撃は有効」という評価を下しました。確かに、考えられるTEL攻撃手段の中では比較的有効な選択肢なのは間違いないのですが、実際のところ、どれくらい期待できるのでしょう?

<実戦での成績:湾岸戦争とイラク戦争>
1991年の湾岸戦争発生時、イラクは600発以上のスカッドミサイルを保有していました。もちろん、発射機は移動式のTELで、1980年までに12基のTELをソ連から取得しており、国産のものを含めると数十基だったと報告されています*6

これに対し、9カ国からなる多国籍軍によるスカッドミサイル関連施設に対する出撃回数(ソーティ)は、開戦後約1カ月で総計1,460に達しました。スカッド搭載TELに対する攻撃(スカッド狩り)は、そのうちの約15%(215ソーティ)。なお、約80%は製造所や貯蔵トンネル、専用道路といった固定目標への攻撃です。

スカッド狩りによってイラクの弾道ミサイル戦力は確かに衰えましたが、多国籍軍がこれだけの物量を投じても、スカッドTELすべてを制圧することはできませんでした。戦争終了の数時間前までスカッドは火を噴き続け、ソ連製TEL×6基、国産TEL×4基が最後まで生き残りました。

その後、湾岸戦争の経験を踏まえて様々なシステムが革新された結果、2003年3月に始まったイラク戦争ではTEL狩りの実績が目覚ましく向上します。開戦前、イラクが持っていた約80基のスカッドTELは、空爆によって49基が破壊されたのです。湾岸戦争によってイラク空軍が受けたダメージや経済制裁による戦力の低下も加味しなければなりませんが、米軍のTEL狩り能力がアップしたという見方が妥当です。

<イラクと北朝鮮の地理的条件の違い>
イラクは北朝鮮の約3.5倍の面積を持っていますが、TELを隠すうえでは北朝鮮の方が適した地形を持っています。というのも、砂漠が広がるイラクとは違って、北朝鮮には山や谷による“影”の部分が多く、その影は早期警戒機(AWACS)のレーダーなどの死角となります。しかも、ノドンはミサイル数が200発、TELは50基で、韓国を巻き込んだ有事シナリオとなるとスカッド・シリーズの100基近いTELも含まれます(参照)。運用するTELの数においても、北朝鮮はイラクより厄介な相手というわけです。

<日本単独では極めて困難>
湾岸戦争もイラク戦争も、攻撃側が防御側を圧倒する数量の航空兵力を投入した上での成績だという点は重要です*7。相手が貧弱な北朝鮮空軍であっても、航空自衛隊単独による空爆となると、途端に難易度がハード・モードになります。爆撃任務を行うためには、敵防空網制圧(SEAD)を行わなければいけませんが、そもそも空自にはそのための武装も訓練もありません。もちろん、護衛機も必要ですし、AWACSや電子戦機、空中給油機などの支援体制を組むことが最低限求められます。次期主力戦闘機のF-35AもTEL狩りに使えるでしょう。しかし、あくまでもジグソーパズルのワンピースとして機能する、という話であって、F-35Aを導入しさえすればただちにTELが狩れるというものではありません。これは、無人機(UAV)にも同じことが言えます。

航空機による爆撃は、後述のトマホーク巡航ミサイルと比べれば有効な選択肢だと言えます。とはいえ、ベトナム戦争を含めて幾度の戦争における数多くの対地攻撃ミッションを経た米軍でさえ、ようやく任務達成率が50%になったようなオプションであるという点は、航空機によるTEL狩りを考える上で踏まえておきたいところです。

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