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アベノミクスと医薬品ネット販売

安倍首相の日本経済復活にかける意気込みは相当なものだと思う。日本経済の現状を大いに憂い、アベノミクスの成功に向けて、膨大なエネルギーを注いでいる。僕自身は安倍首相と直接言葉を交わしたことはわずかしかないが、医薬品ネット販売を取り巻く今までの首相の動静を伝え聞き、首相の意気込みに対しては強い確信を持っている。

しかし、安倍首相の意気込みとは裏腹に、厚労官僚、厚労族議員、それを牛耳る既得権益グループにより、あるべき成長戦略や規制改革が土壇場で葬り去られ、むしろ既得権益グループの悲願が達成されようとしているのが、今の医薬品ネット販売を取り巻く状況だ。

ケンコーコムが勝訴した最高裁判決では、「ネット販売の禁止」が薬事法に書かれていないにも関わらず、省令で禁止するのは、委任の範囲を超えている、と厳しく指摘された。この訴訟では、ネット販売の禁止が違憲であるという主張も争われたが、委任の範囲を超えていればそこまで判断するまでもないので、最高裁は憲法判断まではしなかった。

そのことはネット販売の禁止が合憲であることを意味しないのに、委任の範囲しか判断されなかったことをいいことに、今度は真っ向から「ネット販売の禁止」を薬事法に書き込んでしまえばいいだろう、というのが既得権益グループがいま画策していることだ。

問題の改正薬事法案の中身

内閣提出法案が国会に提出されるまでには、いくつかのステップがあるらしい。 薬事法に関しては、自民党内で厚労部会→政務調査会→総務会それぞれで承認されてから、閣議決定を経て、法案が国会に提出されるとのこと。

改正薬事法案は11月7日の厚労部会を通過したが、その後、政務調査会で差し止められている最中とのことである。(11月10日現在)

ここで審議されている改正薬事法案を入手し、見てみた。ざっくり言うと、対面販売義務の要指導医薬品(いわゆる28品目)の新設、および処方箋薬の対面販売義務化が大きな変更点だ。要指導医薬品を捨て石にして、本丸の処方箋薬の対面販売義務化を実現するのが、改正薬事法案のストーリーであるが、いずれも大きな問題をはらんでいる。

対面販売義務の要指導医薬品(いわゆる28品目)の新設

今回、一般用医薬品とは別の新たな分類として対面販売義務の要指導医薬品というものが新設されようとしている。

28品目に関する専門家の検討会で、これらの医薬品は相対的にリスクが高いので「丁寧かつ慎重な販売」が求められる、と指摘されたところを、「対面販売」が必要という論理に置き換えたわけだ。

ここで問題なのは、「丁寧かつ慎重な販売」を「対面販売」に置き換えるところに合理性がないことだ。要指導医薬品に分類される医薬品は、もともと一般用医薬品としてネット販売で長らく販売されてきた種類の医薬品であり、その間特に問題があったことは報告されておらず、28品目に関する専門家の検討会では、ネットと対面のどちらが優れているかに関しては結論が出なかった。にもかかわらず、「丁寧かつ慎重な販売」を対面販売だけに限定したのは、「ネットは対面よりも安全性が劣る」という偏見に基づくもの以外の何ものでもない。

田村厚労大臣も、なぜ対面でなければならないのかの理由に関しては、「薬剤師の五感による確認」といった曖昧な回答に終始していた。具体的に、どの医薬品に対しては、どのような五感が必要かは、専門家の検討会でも検討されていない。専門家の検討会を専門家でない大臣がそれこそ五感で無視するようでは、専門家の検討は無用であろう。

処方箋薬の対面販売義務化

これは今回唐突に出てきたものだ。要指導医薬品を対面販売義務化するのであれば、それよりもリスクの高い処方箋薬は当然、対面販売を義務化するものだという理屈だろう。

だが、ちょっと待って欲しい。一般用医薬品や、新設されようとしている要指導医薬品は専門家のアドバイスの元、消費者が医薬品を選択するのに対し、処方箋薬は、医師が診察し、その医師が書いた処方箋に基づき、薬局で薬剤師が処方するものだ。選択は消費者ではなく、医師が行っている。当然、リスクの性質は大きく異なる。

何も議論されていない中で、当然「処方箋薬はネット販売禁止」と強引に法律に書き込んで良いものだろうか?これは極めて乱暴な立法だ。処方箋薬をネットで販売できないとする合理的な根拠はない。

実際、アメリカでも、イギリスでも、ドイツでも処方箋薬のネット販売は当たり前のように行われている。患者は病院でお薬を処方されたら、わざわざ薬局で何十分もかけて調剤の順番待ちをしてから処方箋薬を受け取る必要はない。処方箋は病院から薬局に回してもらえ、あとはお薬が自宅に郵送で届くのを待つだけなのだ。欧米では当たり前のサービスを、日本では何の根拠もなく、ほとんど検討すらせずに、法律で禁止しようとしている。

なぜ、このような乱暴な立法が唐突に出てきたか?一つのヒントは市場規模にある。

それぞれの医薬品の市場規模

新たに要指導医薬品という分類ができると、ざっくり言って、医薬品は処方箋薬、要指導医薬品、一般用医薬品の3つに分けられる。(実際には他にもあるが、ここは簡便に3つのみで説明する)

それぞれの市場規模はどのようなものだろう。 要指導医薬品は品目数で一般用医薬品の0.2%しかない。一方、処方箋薬の市場規模は一般用医薬品の10倍以上あると言われている。

したがって、市場規模をざっくり比較すると、処方箋薬:要指導医薬品:一般用医薬品は10 : 0.002 : 1という極めてアンバランスな比率になっている。

既得権益を守りたい人たちは、0.002の要指導医薬品というものを新設することにより、10の処方箋薬のネット販売禁止という悲願を実現しようとしている。これが要指導医薬品は捨て石で、処方箋薬が本丸と指摘するゆえんである。

安倍首相はだまされている

安倍首相は今年6月5日の講演で、規制改革を成長戦略の一丁目一番地として掲げ、「すべての一般用医薬品の販売を解禁いたします」と宣言した。

この宣言は正しかったと今でも思う。合理的な理由のない対面販売義務化のようなものが、ITやインターネットといった新たな技術革新の普及を阻害し、新たなビジネスの芽を摘んでいるからだ。

僕も、一般用医薬品の解禁は第一歩で、その次は当然、処方箋薬の解禁だと思っていた。そもそも医師が処方しているため、誤った選択がなされるリスクが低いし、今後、電子処方箋が普及するのに伴い、患者の利便性が大いに向上するからだ。

また、国家財政を揺るがす医療費の高騰にも処方箋薬のコストが大きな割合を占めており、ここにメスを入れなければ日本経済の復活の大きな足かせになる。

しかし、厚労官僚は言葉巧みに安倍首相や閣僚を誘導し、医薬品のネット販売に関するルールを成長戦略とは真反対のものとし、処方箋薬のネット販売を議論無しで封印しようとしている。

安倍首相にはこのように説明したのだろう。「要指導医薬品は一般用医薬品から外しました。だから、残りの一般用医薬品はすべてネット販売を解禁します。安倍首相の宣言と、何ら矛盾しませんよ」「要指導医薬品は一般用医薬品のたった0.2%しかありません。たった0.2%でさえも妥協しないネット販売事業者は、落としどころすら探る気がないんじゃないですか?」と。その裏で、処方箋薬のネット販売を封印したことには触れずに。

There Is No Alternative

これまで述べたように、現在検討されている改正薬事法案は大きな問題をいくつか抱えている。

一方で、医薬品ネット販売のルールを早急に確立しなければならない事情もある。今年1月にケンコーコムが最高裁で勝訴したが、それ以降、医薬品ネット販売の強制力あるルールが存在しない中で、多くの薬局・薬店が医薬品ネット販売を開始してきた。

この状況を早急に解消すべく、医薬品ネット販売の検討会、ルール作りの検討会、28品目に関する検討会と3つの検討会が開かれ、ハイペースで議論してきた。それだけの議論を尽くした後なので多少納得できないところがあっても、とりあえず次のステージに進まなければならないとは思っている。

しかし、議論のないまま処方箋薬のネット販売を封印することを認めることは断固としてできない。3つの検討会のうち2つに構成員として参加したものとしても、唐突に処方箋薬のネット販売を禁止するのは、だまし討ち以外の何ものでもない。また、専門的な判断の裏打ちのない、恣意的なものである。

かといって、議論のないまま処方箋薬のネット販売解禁を求めるつもりもない。処方箋薬の副作用リスクは相対的に高いので、医師への連絡、確認のプロセスも含めこの販売ルール作りは慎重に行う必要がある。 一般用医薬品の全面解禁を実現しつつ、処方箋薬のネット販売に関しては、その懸念点を洗い出した上で、それらに対する解決策の有無を検証していくというのが、現実的かつ合理的な進め方だと思う。

安倍首相から年初に聞いた「TINA = There Is No Alternative」という言葉は今でも耳に焼き付いている。日本経済はぎりぎりまで追い詰められている。ここから復活するには、既得権益に配慮しつつも、合理的な判断でイノベーションを経済成長に取り込むしかない。

そのパイロットケースが医薬品ネット販売においてなされようとしているときに、姑息なやり方で強力な規制を唐突に紛れ込ませたのは大いに遺憾である。

安倍首相は厚労官僚から言葉巧みにはぐらされているのだと思うが、改正薬事法案の問題点を直視し、日本の経済成長に繋がる真の規制改革を実現して欲しい。

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