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「ハンセン病制圧活動記」その7―栗生楽泉園―

 草津の湯は古くから万病に効くと言われ、江戸時代の全盛期には浴客数毎年1万数千人が訪れていました。とりわけ皮膚病に効果があると伝えられたためこの頃からハンセン病を病む湯治客も相次いで集まりました。

 この時代は男女混浴、健病同宿、健病混浴でありましたが、明治時代に入り草津温泉が新しい反映をみるにつれ、草津町は健病同宿、健病混浴を避けるため明治20年、草津の東のはずれの崖と狭い谷、そこを流れる湯川の流域で大部分が熊笹の生い茂る未開地であった「湯ノ沢」地区に患者を移転させました。

 湯ノ沢の患者たちは、荒地をきり拓き新しい村づくりに意欲を燃やし、患者による患者のための”自由療養村”建設をめざしました。

 大正5年イギリス人コンウォール・リー女史が、湯ノ沢部落に聖バルナバ病院を開設したので、温泉とともに治療施設があることから、全国各地から患者が部落に集まり多い時には800人を超えたといいます。

 ここでの患者の生活は、温泉と点灸の効果を信じて療養生活を送り、そのかたわら旅館、飲食店、質屋等の生業を営み独立した社会生活を維持していました。

 湯ノ沢部落があまりに温泉街に接近しているので草津温泉の発達を阻害するばかりでなく、温泉街との交通も自由であり、その境界も無いに等しい状態のため、らい予防法を徹底するため県としては湯ノ沢部落の移転を目的とした楽泉園の設立が計画されました。
 
 また、草津町も再びハンセン病患者の隔離を考え、温泉街から3km離れた滝尻原を予定地として国から払い下げてもらいました。 
大正14年この一角に三上千代は鈴蘭園を開きました。 

 昭和6年第59回帝国議会は「草津療養地区設定予算」として、滝尻原東南の私有地買収費120,000円を可決。翌年から民有地を次々と買収し工事に着手。翌7年11月に第1期工事を完成、同年11月16日に患者の移転が開始されるとともに外来診療を始め、長島愛生園につぐ二番目の国立ハンセン氏病療養所栗生楽泉園が誕生しました。

 過去の実績によれば、昭和19年の年度末患者数1,335名をピークとして、現在(10月1日)では、男性51名、女性54名、合計105名の方々が生活されています。
(栗生楽泉園のウェブから)

以下の本文は、栗生楽泉園の機関誌『高原』に投稿したものです。

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「ベルギーからエチオピアへ」

栗生楽泉園機関誌『高原』
2013年9号

WHOハンセン病制圧特別大使
笹川陽平

 2013年9月15日から27日にかけて、ベルギーからエチオピア、インド、タイミャンマーの4カ国を訪問しました。ここではベルギーとエチオピアでの活動についての報告です。まず旅の始まりに国際ハンセン病学会の開会式に出席するため、西ヨーロッパのベルギーに向かいました。この学会は、ハンセン病に係る遺伝学、免疫学、疫学といった科学的な発見を世界中の人々と共有するため、開催国を変えながら5年に1度開催されています。ヨーロッパ特有の味わいある石畳の道に面した会議場に入ると、そこには700人を超えるハンセン病医師、公衆衛生の専門家、政府代表、NGO、回復者らが世界から集まっていました。ベルギー王国のアストリッド王女を迎えての開会式では、ベルギー政府開発局、フランダース政府国際協力機関、WHOの熱帯病担当局、ブラジル政府からの代表者と並んで、私も「ハンセン病専門家、回復者といった様々な立場の人々が一堂に会す貴重な場であり、患者数が多い地域への対応、資金・人的リソースの減少といった課題を乗り越えるための知恵を出し合って議論していただきたい」と、会議成功への期待を述べました。

 翌朝は4時に起床し、6時45分発の飛行機でフランクフルト経由、エチオピアの首都であるアディスアベバへ移動。9月17日から21日まで、アフリカ東部にあるエチオピアを訪問しました。同国の訪問は今回が6回目で、前回の2011年以来2年振りになります。

 エチオピアは、国土面積が日本の約3倍にあたる110万平方キロメートル、人口が約8,700万人と、アフリカ諸国のなかでも人口の多い国です。コーヒーやメイズ(とうもろこし)など農業が主要産業で、日本の皆さんが飲んでいるコーヒーもエチオピア産のものが少なくありません。国民の6割がキリスト教徒で、なかでも1世紀ごろに伝播したエチオピア正教を多くの方が信仰しています。イスラム教徒の方も3割ほどいるそうです。他のアフリカ諸国のように石油や鉱物資源に恵まれているわけではありませんが、近年は約10%の経済成長率を記録しています。

 今回の訪問の主な目的は、アフリカ地域を対象としたハンセン病と人権に関する国際シンポジウムを開催することでした。このシンポジウムは、2010年に国連総会でハンセン病回復者およびその家族に対するスティグマと差別をなくすための決議が採択されたのを受け、その実行を各国に促すため、日本財団が世界5地域で開催しようと計画しているものです。今回は2012年2月にアメリカ大陸南北米を対象としたブラジルと、同年10月にアジア地域を対象としたインドに続いて第3回目になります。

 国連決議に付されている原則とガイドラインには、ハンセン病の患者、回復者およびその家族に対する、就労や教育、結婚や公共サービスなど、あらゆる場面での差別の禁止が明記され、適切な医療サービスの提供や人権教育、啓発活動の推進、ハンセン病に関わる政策決定に対する回復者の参画などが謳われています。しかし、国連決議が採択されれば自動的に差別がなくなるものではなく、この決議を使って各国各機関に対して継続的に働きかけることが重要になってきます。私が、世界の5大陸を回り、この決議の実行を促す国際シンポジウムを行おうと決意したのも、そのような意図からです。そして、今回の地域シンポジウムは、アフリカの中でもハンセン病の年間新規患者数が4,153人(2011年)と最も多いエチオピアで開催することになりました。

 9月18日、エチオピア保健省との共催で、同国の首都アディスアベバで開催したこのシンポジウムには、エチオピアはじめ、マリ、タンザニア、アンゴラ、コンゴ共和国、ニジェール、ガーナ、南アフリカなどアフリカ8カ国を含む世界13カ国からハンセン病回復者や人権専門家、NGO、国際機関の代表など約200名が集まりました。開会式では、エチオピアのハイレマリアム・デサレン首相も自ら出席され駆けつけてくださり、ハンセン病回復者に対するスティグマと差別がなくなるよう、国連決議における原則とガイドラインを政府として推進してことを力強く表明して下さいました。

 ハイレマリアム首相は昨年8月、エチオピアで17年間首相を務められたメレス氏が亡くなられた後に、副首相兼外相から新しい首相に就かれた方です。メレス前首相とはこれまで何度もお会いして、長年の友好関係を築いてきましたが、ハイレマリアム首相とも今年の6月に横浜で行われた第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で訪日された折にお会いし、ハンセン病の問題に対してご理解をいただく機会を得たばかりでした。現在、アフリカ連合(AU)の議長も務められており、今回のシンポジウムの決議をアフリカ連合でも取り上げたいとも語ってくださいました。

 また、ケセテビルハン・アドゥマス保健大臣も、「ハンセン病はエチオピアの保健政策において重要な課題の一つ。スティグマや差別の原因にもなっている障害の発生を防ぐためにも、患者の早期発見と治療を徹底していきたい。また、社会的リハビリテーションや差別をなくすための闘いを進めていく」と表明して下さいました。

 私からは、現在28歳と若くてきれいな女性であるシンクネッシュさんの経験を例に、「この問題が今もなお続く深刻な問題であることを会場の皆様に訴えました。彼女は12歳の時にハンセン病に発病し、生まれ故郷の西部から首都のアディスアベバの病院に行って治療を受け、1年間の治療により完全に回復しました。しかし、家族は彼女と縁を切り、家に迎え入れませんでした。彼女の身の回りの物を燃やし、一家の恥だと罵ったのです。こうして彼女は二度と家族の元に戻ることができなくなり、就職することもできず、道端で物乞いをするしかなくなったのです。幸い、彼女はエチオピアのハンセン病回復者団体であるエチオピア全国ハンセン病回復者協会(ENAPAL)が行うプロジェクトに参加し、刺繍の仕事をするようになり、学校でも教育を受けることができるようになりました。しかし、今もなお差別をおそれて、家族と再会することができないでいます。「シンクネッシュさんのような境遇に置かれる人をこれ以上生み出さないために、ハンセン病に対する何世紀にもわたる無知、偏見や差別を終わらせなければならない。そのために、国連の原則とガイドラインを踏まえ、各国政府がNGO、市民社会、メディアと共に具体的な行動計画を作成して、社会の認識を変えていかなければならない」と訴えました。

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エチオピア人権シンポジウムにてスピーチ

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シンクネッシュさんと

 シンポジウムではこの他に、国際法曹協会のティム・ヒューズ事務局次長が、インドやネパール、シンガポールなど今もなお各国に残るハンセン病に関連する差別的な法律や制度の撤廃、改正を呼びかけました。また、各国の国内人権委員会が加盟する国際調整委員会の前委員長であるモウサ・ブライザット氏からは、国内人権委員会が、政府の取り組みの監視と、教育・啓発活動を通して、ハンセン病の人権問題に取り組むべきであることが提案されました。そして、エチオピア全国ハンセン病回復者協会のレウルセゲッド・ベルハネ理事長は、「これまで何万人もの人が、ハンセン病が治った後も、社会から除外され、家族から見放され、苦しんできた。私たちは協会の活動を開始して16年になるが、ハンセン病に対する誤解と差別に対してこれからも闘っていく」と力強く語られました。

 今回のシンポジウムは首相が参加されたこともあり、40近くの報道関係者が取材に訪れ、エチオピアのテレビや新聞でトップニュースとして扱われました。これを機会に、政府やメディア、NGOなどの関係者がハンセン病に関する対策を強化し、人々の間違った認識が改められることを願ってやみません。

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エチオピア人権シンポジウム記者会見

 シンポジウムの翌日9月19日には、アディスアベバから飛行機で1時間ほど移動し、北西部のバヒルダールを訪れました。先述のエチオピア全国ハンセン病回復者協会は全国に63の支部がありますが、その1つがバヒルダールにあるので、現地の活動を視察するためです。まず初めに、回復者とその家族の方々が20世帯ほど住むコロニーを訪問しました。たくさんの子どもたちが出迎えてくれましたが、生活環境は決して良いとは言えません。夫が障害をもち、妻は出産したばかりで仕事ができないという方や、家もなく物乞いをして生活しているという方もいらっしゃいました。しかし、そのなかでも、エチオピアの伝統料理であるインジェラをのせる敷物を編んだり、鍋や傘などの修理屋をしたり、糸紡ぎをしたりして働いている方々もいらっしゃいました。

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エチオピアの北西部
バヒルダールのコロニーで敷物を編む女性


 次に、国際的に貧困層への住宅支援の活動をしているNGOハビタット(Habitat for Humanity)の支援を受け、新しい居住地に住む方々の家も訪れました。先ほどのコロニーとはうって変わって、しっかりとした造りの家で、テレビやソファーも備えて生活している家庭もありました。4年ほど前に始まったこのプロジェクトにより、コロニーのなかでも特に苦しい生活をしている人々が新しい住まいに引越し、現在では39世帯が暮らしているそうです。また、ここに住む人々は、銀行口座に貯金をして、その資金で家畜を飼ったり、物を作って売ったりと、小規模なビジネスを始め、物乞いの生活から脱するようになっています。このようなハビタットの住宅支援と生活向上支援を組み合わせたプロジェクトは、このバヒルダールも含めて全国7ヶ所で展開されています。

 案内をしてくれたエチオピア全国ハンセン病回復者協会の事務局長であるテスファイェ・タデセさんと、バヒルダールの支部代表であるビバビリ・マンバードさんからお話を伺いましたが、この支部には約80人の回復者が毎月2ブル(約10円)の会費を納めて会員として活動に参加しているそうです。会員には様々なトレーニングやビジネス支援の機会が提供されます。同様に会費を納めて活動に参加している会員は全国で15,000人にのぼるそうです。そして、その会費の半額は全国63ある各支部に、残りの半額が本部の活動費になっています。決して高額ではありませんが、一人ひとりにオーナーシップを持ってもらい、かつ持続的な組織運営を支える仕組みになっています。私は世界各国で回復者組織を見てきましたが、エチオピアは1、2番目に組織がしっかりしていると感じました。

 今回、アフリカ各国からハンセン病回復者組織の代表の方々をシンポジウムに招待し、会議だけでなく、エチオピアの協会の活動も視察してもらいました。まだ他の国々ではエチオピアほど活動が盛んではないところがほとんどですが、今回の内容からお互いが多くのことを学び、刺激し合いながら、それぞれの活動が発展することを期待しています。そして、そのように力をつけてきた各国の回復者たちが一致団結し、国際社会に自分たちの声を力強く発信することで、いわれのない差別がなくなるよう、尊厳ある生活を勝ち取れるよう、私も微力ながら全力を尽くしてまいりたいと思います。

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