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【読書感想】消されたマンガ


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消されたマンガ

内容紹介

マンガの世界には様々な事情によって、発禁や自主規制、単行本未収録となる、いわゆる「封印作品」が少なくありません。

本書では戦前から戦後・現代まで、あらゆる時代の封印作品を取り上げています。

・日米開戦で連載打ち切り『のらくろ』

・「当たり屋」を描いた回が欠番『風太郎』

・部落問題で絶版・回収『血だるま剣法』

・作者が銃刀法違反で逮捕『8マン』

・タイトルが全てを物語る『狂人軍』

・ロボトミー手術を描いて大問題に『ブラック・ジャック』

・サイケすぎる夢の話が欠番『ちびまる子ちゃん』

・用務員に対する差別表現が問題に『燃える!お兄さん』

・原発ネタの超ブラック作品『ラジヲマン』

・地下鉄サリン事件を偶然予言した『MMR』

・H描写で有害図書指定された『いけない!ルナ先生』

・日韓W杯の広報誌で不適切な表現『まんがで覚える韓国語』

・クラスの生徒を「五大バカ」と表現『毎日かあさん』

・全ページから盗用が発覚した『メガバカ』


など、全60作品以上を収録。封印理由を解き明かすとともに、当時の世相やマンガ

の「裏歴史」をたどれる内容になっています。


加えて、本書では、泉昌之氏(『かっこいいスキヤキ』)や平松伸二氏(『マーダーライセンス牙』)といった、現実に作品が封印された作家や関係者のインタビューも収録。マンガ表現と規制問題についてもよくわかる一冊です。


※本書の内容は解説文が中心で、引用はありますが原稿・イラスト・マンガが、そのまま収録されているわけではありません



本文+「消されたマンガ」関連年表で、220ページあまり。

最初に手にとったときには、そんなに厚みのない本だな、と思ったのですが、開いてみると、字がぎっしりと詰まっていて、読みごたえがかなりあります。

僕はこういう「消された」「封印された」表現物に対するルポルタージュが好きで、安藤健二さんの『封印作品の謎』シリーズもずっと読んでいるのです。

1つの「封印作品」について、その封印の理由を追っていくプロセスを楽しませるつくりになっている『封印作品』シリーズと比較すると、この『消されたマンガ』は、それぞれの作品に関しては短く、「当時の資料」を中心にコンパクトにまとめられています。

「謎解きのダイナミズム」は乏しいのですが、その分、多くの作品について知ることができます。

また、年代順に並べられているため、「それぞれの時代に、どんなマンガが消されていったのか?という、歴史的な変遷」も伺い知ることができるのです。


太平洋戦争後から、1970年代くらいまでの「消されたマンガ」の多くは、性的な描写や差別表現とされたものが「消された理由」なのですが、1980年代からは「実在の人間や事件をモデルにしたこと」が問題となることが増えていきます。

そして、1990年代、とくに、ネットが一般的なものとなっていった2000年くらいから、「既存のマンガや写真からの絵のトレース」が指摘され、問題となった作品が増えていきました。

昔は「テーマや描写に対する抗議」だったものが、最近では「そのマンガ家の表現者としてのモラル」が問題となりがちなのです。


この本によると「『有害』コミック作家」の第一号は「マンガの神様」手塚治虫先生だったそうです。

あらためてその作品を追っていくと、マンガ界の第一人者は、性や差別をテーマにしたものも少なからず発表しており、「マンガの表現の幅を広げた人」でもあったのです。

しかしながら、その一方で「誤解を招く」「子どもが読むものなのに」というような批判も浴びてきました。


あの『サザエさん』にも、差別用語で問題になった回があり、単行本に収録されなかったという話も紹介されており、「ユーモアと差別の境界」あるいは「歴史の変遷による『差別用語の範囲』の変化」についても考えさせられます。


この本の特徴は、なるべくその時代のリアルタイムの資料にあたって、「消された背景」を検証していることにあります。

2013年の人間の目から「これを差別表現とするのはおかしい」と断罪するのではなく、同時代の人の目線を大事にしているのです。


『ハレンチ学園』の回より。

『ハレンチ学園』の悪影響として象徴的に語られるのは、小学生に”スカートめくり”を流行らせたという話である。しかし、該当する回「モーレツごっこの巻」(1969年7月24日号/14号)を読むと、同年に放映され話題になった丸善石油のテレビCM「猛烈ダッシュ」(小川ローザのスカートがめくれ「Oh! モーレツ」と叫ぶもの)を見ているシーンからはじまり、<あっこのコマーシャルはやってんのよ!><男の子がスカートまくんの><そんでもってモーレツっていうの>と流行の遊びを紹介する流れ。ようはCMの真似だった。しかも永井(豪)がモーレツごっこを描くきっかけはテレビ番組「やあ!やあ!ガキ大将」(同年6月29日放送)に登場した小学生男女が「オッパイモミモミ」と「スカートめくり」を最近の流行りにあげたことに由来する。つまりすでに流行していたのである。その流行を「ハレンチ学園」が加速させたとはいえ、永井を糾弾する前にCMを糾弾しなくては筋が通らないだろう。


この時代にはコント55号が「野球拳」を流行らせたり、男性週刊誌にはヌードグラビアが氾濫していたということが紹介されています。

そして、「永井先生が『ハレンチ学園』をエッチな方向性にしたのは、小学生が男性週刊誌のヌード写真を本屋で見ている場面を目撃したのがきっかけ」なのだとか。

もちろん、『ハレンチ学園』が「スカートめくり」の流行に、大きく影響したことは間違いないのですが、あれは『ハレンチ学園』オリジナルだったわけではないんですね。

にもかかわらず、マスメディアやPTAは『ハレンチ学園』ばかりを槍玉に挙げ、「『ハレンチ学園』=スカートめくり」というようなイメージができあがってしまいました。

(僕もスカートめくりのルーツは『ハレンチ学園』だと思いこんでいたのです)

50年もすれば「歴史的事実」なんていうものは、けっこう容易に上書きされてしまうものなのだなあ、と考えこんでしまいました。


また、『沈黙の艦隊』で紹介されていた、こんな話にも驚かされました。

 問題になったのは1991年11月、本作に山のように登場する艦船の姿が、写真家の柴田三雄の写真と酷似している件だった。柴田の指摘によれば単行本11巻までのうち50カット以上が模写だったという。例として、雑誌『シーパワー』89年4月号に掲載された原子力ミサイル巡洋艦「カリフォルニア」の写真と、『沈黙の艦隊』第三巻に出てくる攻撃型原潜艦隊の姿が瓜二つ、イギリスで出版された写真集『ソ連海軍辞典』の空母ミンスクの写真が、第四巻に艦載ヘリの数までそのまま模写されている、などが挙げられる。

 もしかしたら「模写くらい許せばいいのに」と思う人がいるかもしれない。しかしこうした軍艦の写真は個人が簡単に撮れるものではなく、柴田は個人でチャーターしたヘリコプターを五回飛ばしてようやく撮影に成功したという(『朝日新聞』91年11月7日夕刊)。そのくらい手間のかかる写真だけに、ただ横に置いて模写するという行為が許せないのはごく自然な感情ではないだろうか。<生命の危機にさらされながら撮影した作品まで無断で盗まれた>(『毎日新聞』大阪版91年11月8日朝刊)と柴田は抗議文を送り、後日『週刊モーニング』には編集長とかわぐち(かいじ)の連名の謝罪文が掲載された。



僕も「写真をそのまま載せるのはアウトだろうけど、模写でもダメなの?」と思っていました。

でも、この話を読むと、「そりゃあ、抗議するよな……」と納得せざるをえませんでした。

言われてみれば、軍艦の写真なんて、そう簡単に撮影できるわけもないですよね。

たかが「一枚の写真」じゃないんだよなあ。

こういう資料がなければ、リアルな軍艦の絵を想像だけで描くのは難しいでしょうから、あとは「マンガ家が、それをどう消化して、自分の絵にするか」なのでしょうけど……

あるいは、最初から許可をもらって模写するか。


こういう「盗用」に関しては、ネットでの地道な検証活動が行われ続けています。

記憶に新しいところでは、末次由紀さんが『SLAM DNUK』の構図の盗用で一時活動停止となりました。

(その後、末次さんは見事に復活されて『ちはやふる』を大ヒットさせています)


なかには、こんな作品も。

 快挙といっていいだろう。インターネット上の暇人が盛り上がる定番ネタ「マンガのトレース疑惑」の中でもぶっちぎりの、全ページに他作品からのトレースが見つかった、ある意味伝説のマンガが「メガバカ」だ。


2007年12月12日に発売された、講談社の『マガジンドラゴン』に「ドラゴンカップ」というマンガ賞の第一回エントリー作品として掲載されたものなのですが、数々の人気作品からの「トレース」が指摘され、ネットでは大きな話題になりました。

最初は『DEATH NOTE』『天上天下』『DOGS BULLETS & CARNAGE』などを参照しているという疑惑だけだったのですが、全ページのスキャンがネット上に出回ってからは、出るわ出るわ。

なんと、「数週間以内に全体の六割のコマの元ネタが発見された」のだとか。

この項を書いている「ばるぼら」さんは、こんなふうに述べておられます。

 情報をまとめたウェブサイト「メガバカ盗作検証画像倉庫@ウィキ」では16作品からの盗用が確認できる。もはやここまでくると「創作」の意義を問い直そうとした確信犯ではないだろうかという気さえしてくる。音楽でいえば、人のレコードから勝手にサンプリングしてラップをのせたヒップホップのようなものだ。書きたい物語が先にあり(ここではあえて物語には触れない)、それにあわせて一番イメージが近い既存のマンガから絵をトレースして構成する。たしかに著作権上は問題だろうが、制作手法にオリジナリティがないとはたして言えるだろうか。著作権とオリジナリティをわけて考えること、この二つが別物であることを「メガバカ」は示していた。そう思う。


もちろん、「盗用」は褒められたものではないと思います。

でも、たしかに、ネット社会でさまざまな情報がリンクされ、繋がっていることを考えると、「既存の作品をサンプリングして切り貼りしたマンガ」というのは「あり」のような気がしますよね。

マンガ好きにとっては「元ネタ探し」は、すごく楽しかったのではないでしょうか。

「元ネタ探しを誘発するためのマンガ」という狙いだって、ありえます。


この「メガバカ」が、そこまで「狙った」作品なのかどうかは不明です。

でもまあ、いまの時代に「何の影響も受けていないオリジナル」なんて、存在しうるのか?という疑問も、出てくるわけで。

それこそ、子供の頃に読んだマンガや小説の影響が、無意識のうちに反映されてしまう、という可能性もあります。

既存のキャラクターを使った「二次創作」はグレーゾーンながら、同人誌として売られ、あまり大っぴらに儲けず、世界観を壊さないものであれば「黙認」されているものが多いそうですし。


ネットによる検証機能があまりに強力になりすぎているのも、マンガ家の立場からすれば、かなりキツイものではありますよね。

マンガに要求される絵の緻密さというのも、どんどんエスカレートする一方なわけですし。


この本を読んで、「どんなマンガが消されているのか?」「それを消すきっかけになったのは、誰の『告発』なのか?」をたどっていくと、戦後の日本の圧力団体の歴史をたどっているような気がしてきます。

巻末には、実際に「消されたマンガ」に関係した人たちの証言も収められており、かなりの労作です。


それにしても、これだけ多種多様な「表現」が出回っていて、「類似」もすぐに検証されてしまう時代の「オリジナリティ」の定義って、どうなるんでしょうね……

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