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「ハンセン病制圧活動記」その5―国際機関での活動―

国立療養所邑久光明園は、全国に13ある国立ハンセン病療養所のうちの一つで、岡山市の東南35Kmの瀬戸内海に浮かぶ、長島にあります。 瀬戸内海の温暖な気候と四季折々の美しい自然に満ちあふれた環境は、療養に最適の地とされております。

10月7日現在149名、男性70名、女性79名が静かに生活されています。

以下は機関誌『楓』に投稿。9・10月号に掲載されたものです。

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「ジュネーブ訪問記」

WHOハンセン病制圧特別大使
笹川 陽平
2013年5月7日と、5月21日から23日まで、2度続けてジュネーブを訪問した。

第一回目の訪問の目的は、国内人権機構調整委員会(ICC)の年次総会の場を借りて、世界から集まった各国人権委員会の代表に、ハンセン病患者回復者とその家族への差別撤廃の「グローバル・アピール2014」への賛同を得るためであった。5月7日、国際人権委員会と日本財団で共催したランチ・セッションで、ハンセン病に関連する啓蒙活動を行った。セッションは本総会でICC会長の任期を終えるモウザ・ブライザット博士が議長を努めた。回復者活動家の代表として、米国の編集者ホセ・ラミレス氏と、インドのナショナル・フォーラム会長・ヴァガヴァタリ・ナルサッパ氏、副会長ガントレディ・ヴェヌゴパール氏が駆けつけ、ハンセン病と差別の問題について自身の体験を発表した。

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筆者左がブライザット議長


私は、参加した世界各国の人権委員会の代表者たちが自分の国のハンセン病患者・回復者に力を貸してくれれば、彼らにとってこの上ない励ましになるだけでなく人権の擁護と尊厳の回復への大きな一歩となること、また、2010年に国連で可決された『ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別撤廃決議に付随する実行ガイドライン』の存在に触れ、参加した代表者たちの国でこのガイドラインに反することが起きているのであれば、声を挙げて状況改善のために立ち上がってほしいこと、を要請した。さらに、セッション参加者のうちの2人、タンザニアのベルナデッタ・ガンビシ氏と、ケニアのアン・ムニヴァ・カヤロ・ングギ氏は、ICC総会で緊急動議を出し、参加資格のない私に5分間の発言とグローバル・アピール2014の採択を要請してくれた。発言は勿論のことグローバル・アピールが全参加者に歓迎されたことは、私にとって望外の喜びであった。

ICCの総会を終えて帰国してから2週間も経たないうちに、私は再びジュネーブの国連欧州本部に舞い戻った。私は毎年、WHO(世界保健機関)の総会が行われるこの時期、総会のために集まっている世界各国の保健大臣とハンセン病制圧について協議をすること、プライマリーヘルスケアの発展に貢献した方々をWHO総会の場で表彰する、「笹川健康賞」の授与式でスピーチすることを恒例にしている。

1991年のWHO総会において、「ハンセン病の有病率が人口1万人につき1人未満になった時点で公衆衛生上の問題として制圧されたと見なす」という数値目標を掲げ、各国政府、保健省、各NGOが、WHOと協力して対策を進めたおかげで、1985年に122カ国あった未制圧国は、現在1カ国を残すまでになった。しかし、国レベルの制圧が達成されていても、特定の州や県で患者が多く発見される蔓延地域は世界各国で見られ、新規患者数が若干増加している国もあると報告を受けている。他の病気と比べると患者数が多いとは言えないため、保健政策の優先順位が落ちている国も残念ながらあるようだ。今一度、関係者の間で危機感を共有し、さらに活動を強化しなければならない。このため我々日本財団は、WHOの中でも最も多くの患者数を抱えるWHO東南アジア地域事務所と協力し、毎年1,000人以上の新規患者数が発見されているいわゆる「蔓延国」18カ国の保健大臣をタイのバンコクに招待して、来たる2013年7月、「ハンセン病サミット」を、タイ保健省の全面的なバックアップのもと開催することにした。今回のジュネーブ訪問では、サミット招待国のうち12カ国の代表に面会し、ぜひバンコクに足を運んでもらうよう要請した。

まず、新規患者数が世界最多であるインドの、ケシャブ・デシラジュ保健・家族福祉省次官と面談した。2005年に国レベルでの制圧を達し、その後も対策を続けられ、未制圧州は残すところ3州となった。とはいえ、新規患者数は年間13万人に上り、蔓延地域を中心に、ぜひとも取り組みを強化してほしいと訴えた。次官は、連邦政府として問題の重要性を認識しているので、州政府に優先順位を上げて取り組むよう促すとの意思表明があった。

フィリピンのエンリケ・オナ保健大臣とも面会した。大小7,000以上の島から成る国で治療薬MDTを行き渡らせるのは大変だったに違いないが、各関係者のたゆまない努力が功を奏し、今ではフィリピンのMDT供給は他の国の手本となっている。大臣は、患者数も人口に比べると多くはないが、そのためにハンセン病について認識されず残りの患者の発見が難しくなっていると語り、医師へのトレーニングを充実させたいと話された。かつての政策によって隔離され現在も療養所で暮らす患者・回復者が、故郷に戻り家族と一緒に暮らせるような取り組みを、社会保健省と協力して進めたい、という意向も示された。

スリランカのマイスリパラ・シリセナ保健大臣は、小さい国ながら患者が集中する地域がいくつかあり、政府のモニタリングが国のすみずみまで届くよう気を配っている、と説明してくれた。

旧知の間柄であるブラジルのジャルバス・バルボサ副保健大臣は、ハンセン病の医療・社会両面において最新の状況を報告してくれた。現在、全州のモニタリングや、1,600万人の生徒を巻き込んで学校での集中した症例発見を行うなどの対策を進めており、6月初めには報告書が出ることになっている。また人権問題では、2007年に成立した過去の隔離政策でコロニーへの移住を余儀なくされた回復者への補償法案の実行を進めるとともに、親と生き別れになったその子供たちについても支援の検討を行っているとのことだった。ブラジルへは今年12月の訪問を予定しており、その際にはぜひ北東部にあるという蔓延州を訪問したいと申し入れた。

インド、ブラジルに次ぐ患者数を抱えるインドネシアから参加したムボイ保健大臣と初めて面会した。昨年保健大臣に就任した公衆衛生が専門のパワフルな女性で、「インドネシアは、34の州(province)のうち14州に蔓延地域がある。特に罹患率の高いアチェとパプアの州で指導者に対策を強化するように言っている。パプアには昨年行ったが、332人の集落の108人がハンセン病患者だったことに驚いた。患者・回復者の人権擁護も重要視している」と、意欲十分であった。地方分権が進むインドネシアでは州知事の権限が強いので、私は蔓延州を訪問して各州知事に直接交渉することが必要だと認識しており、今年中に訪問する予定である。

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ムボイ保健大臣と


続いて、ミャンマーのペ・テ・キン保健大臣と再会した。私は本年2月より日本国外務省から、「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」を拝命し、政府と少数民族の融和促進に携わっているが、もちろん、ハンセン病や伝統医療などの保健政策も、保健省の協力のもと長く取り組んでいる。現在世界各国で促進が求められているハンセン病の一般医療サービスへの統合も、早い段階から行われており、その革新的な取り組みには目を見張るものがある。面会のたびに具体的な近況報告をされる大臣は、「自分も病院を回り、この目でハンセン病患者を見て来ている。制圧達成後、患者数が下げ止まっているので、啓発活動や若い医師への教育などの取り組みを強化したい」と話された。また、マンダレーにあるかつてのハンセン病院(現在は総合病院になっている)で開かれる予定の、関係者による対策会議に招待を受け、ぜひ伺うと快諾した。

バングラデシュのルハル・ハク保健大臣との会談では、ハンセン病対策において避けては通れない、病気による障害と差別問題が話題になった。確かにバングラデシュは障害率が他国に比べてやや高いとの情報を得ており、早期発見・治療によって障害が減らせること、障害を負っていても差別を受けることがないよう受け入れる側のコミュニティに働きかけることが重要である、という点で意見は一致した。

中国の李明桂保健副局長は、2011年1月北京の、世界110の大学から賛同を得たグルーバル・アピール2011発表式典にも同席してくれた。人口比では大変少ないものの年間1,000人以上の新規患者が発見されていることを問題視しており、医療関係者や一般の人々に正確な知識を与えることによる早期治療・発見を進めなければならないと話された。私からは、現在ベトナムやインドに広がっている、大学生による回復者村を訪れ村人と寝食を共にするワークキャンプは、日中の学生が中国で始めたのがきっかけでこれまでに1,600人以上が参加しており、民間レベルでのこのような交流が続いているのは大変喜ばしいことだ、という考えを伝えた。

ハンセン病患者を限りなくゼロに近づけるために重要な地域であるアフリカからの4カ国の代表とも会談した。エチオピアのケセテベルハン・アドマス・ビルハン保健大臣には、今年9月にエチオピアの首都アディスアベバで日本財団が主催する、「ハンセン病と人権国際シンポジウム」のアフリカ地域会議の開催現地パートナーとして協力下さることに感謝を申し上げた。5回シリーズのこの取り組みは、第1回、第2回はそれぞれブラジル(南北アメリカ)、インド(アジア)で行われ、エチオピア(アフリカ)の後、中東、ヨーロッパと続く。本決議及びガイドラインは、2010年に国連で192カ国の全会一致で可決されたが、それだけでは不十分で、実際に各国政府や機関に必要なアクションを取ってもらうよう促さなければならず、このシンポジウムはその足掛かりとなるものである。

タンザニアのフセイン・アリ・ムウィニ保健大臣との面会では、タンザニアは過去7年で新規患者数を半分以下に減らすという素晴らしい成果を挙げており、ぜひこの偉業を他国にも知らしめることができるよう、引き続いての定期的な状況報告をお願いした。また、アフリカ東海岸に浮かぶ美しい島国、ザンジバルでハンセン病対策に関わってこられ、近年はザンジバルの副保健大臣を務めておられるシラ・マンボヤ氏とも再会を果たした。私も大好きなザンジバルの状況を伺うと、シラさんは「患者数は確かに減っているが、やはり高蔓延地区が存在し、受け身ではなく能動的な患者発見を戦略的に進めなければならない」と、変わらぬ熱意を覗かせてくれた。

モザンビークとマダガスカルの代表者とは、在ジュネーブ政府代表部の方々と共に面談した。モザンビーク代表部の労働・社会問題担当官のジュヴェナル・アルカンジョ・デンゴ氏によると、保健大臣をはじめとする保健省の皆が、2007年にハンセン病を制圧したことを誇りに思っているが、全州レベルで制圧を達成するまで対策の手を緩めないとのことで、具体的にはテレビを通じた啓発キャンペーンを計画中であるとのことだった。モザンビークは以前にも、学校で人体絵を配って家庭に持ち帰ってもらい、パッチ(皮膚にできる斑点で、ハンセン病の症状の一つ)の箇所に印をつけて戻させるという、今では他国でも利用されている患者発見方法を編み出しており、今後もユニークな取り組みを考えてくれることを期待している。また、マダガスカルのソロフォ・ラザフィトリモ一等書記官にも、同国のハンセン病の状況に高い関心を寄せていることを伝え、保健大臣にはぜひバンコクサミットに参加されるよう要請した。

滞在中、ナバメセム・ピレー国連人権高等弁務官とも会談した。ピレー氏は先にも述べた『ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別撤廃決議に付随する実行ガイドライン』に触れ、「この決議は、加盟国の賛同によってできたものである。多くの活動家が様々な決議案を持って国連のドアを叩いている中、あなたは見事に決議を成功に導いた。この決議に書かれたことは必ず実行されるようにしなければならない」との激励を受けた。エチオピアでのシンポジウムへは、代表者を参加させると約束してくれた。

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ピレー国連人権高等弁務官


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