- 2013年11月06日 01:42
「モノ言う監査役」が無視された事例-雪国まいたけ粉飾事件
リンク先を見る今朝(11月5日)の朝日新聞に、某名門企業の常勤監査役の方が「監査役の覚悟」という冊子を自費出版で300冊発行されたことが、特集記事として報じられています(加藤記者「多事有論」)。トライアイズ社の元監査役さんの事例紹介を中心として、監査役は時には社長と対峙しなければならず、またその覚悟をもって監査役としての職務を遂行しなければならない・・・という、著者の強い思いが伝わってきます。本書の登場人物すべての承諾を得ていない・・・とのことで、広く出版というわけにはいかなかったそうですが、平時には黒子に徹し、有事には毅然とした態度で経営陣と接する必要があるという著者の意向がよく反映された一冊であり、私も著者の意見に強く賛同します。
さて、本書で示されているような「有事に毅然とした態度で経営陣と対峙する」姿勢を監査役さんたちが示した事例が、本日の適時開示で公表されています。東証2部の雪国まいたけ社が、過年度における不適切な会計処理により、平成21年3月期から平成26年度第一四半期報告書までの決算訂正を行うそうです。事業用資産の減損処理や広告宣伝費の会計処理等に問題があり、過年度の決算訂正の結果、平成24年3月期においては違法配当が行われている、ということも判明しました。経営トップはこの結果を受けて辞任するそうです(産経新聞ニュースはこちら)。
本件に特徴的なのは、今年6月上旬、退任直前の取締役が監査役に「告発文」を提出し、その告発文に従って社内調査が開始されたということ、また社内調査中である8月27日に証券取引等監視委員会による立ち入り調査を受けることになったという事実関係です。ここからは推測ですが、この退任直前の取締役の方は、監査役に告発文を提出すると同時に、CPAAOB(公認会計士・監査審査会)もしくは金融庁に告発文と同じ文書を提出していたのではないでしょうか。監査における不正リスク対応基準が施行され、監査法人としても告発文は重要な虚偽表示を示唆する状況に至らしめるものなので、ひょっとすると監査法人にも届いていたのかもしれません。とりわけオリンパス事件における社長の内部告発と同様、取締役という地位にある者の内部告発は、その信ぴょう性や重要性という意味においても大きな意味があるので、今回の粉飾発覚にとって大きな役割を果たしています。不正リスク対応基準施行後の内部告発の有効性が改めて認識されるところです。
そしてもうひとつ本件に特徴的なのは、平成24年の時点において、監査役会が問題点を把握しており、文書によって社長以下取締役に対して問題点の是正を促している点です。まさに「モノ言う監査役」として活動されていたようです。以下、社内調査委員会から関連部分を抜粋します。
監査役会は、平成24 年4 月に社長、取締役及び執行役員宛に監査役の所見として書面による意見具申を行っている。所見の内容は、当社の実情を的確に捉え、コーポレートガバナンス、組織運営問題、資金繰り、会計処理関係、労務安全など多岐にわたる課題について提言している。所見の中で広告宣伝費の繰延処理は不適切である旨の指摘がなされているが、監査役会の所見は反映されることなく今回の不適切な会計処理に至っている。監査役会が幅広く当社の課題を提言しているにもかかわらず監査役会の意見を真摯に受け止めることができなかった社長や取締役のコーポレートガバナンスの認識不足は改めなければならない。
上記のとおり、残念ながら監査役会の問題提起は無視されてしまったわけで、ここで経営陣が監査役会の提言を受け容れていたのであれば、まさに自浄能力を発揮した事例として大きく社会的信用を毀損する事態に陥ることは回避されたものと思われます。このような有事において、監査役が会計監査人と連携できたのかどうか、社外取締役さんはどのような行動に出たのか、もう一歩進んで監査報告の中で何らかのシグナルを発信することはできなかったのか等、さらに踏み込んで知りたいところです。いずれにせよ、監査役としての毅然とした対応が求められるような事態となったときに、監査役としてどこまで前面に出て善管注意義務を尽くすべきなのか、いろいろと検討したくなるような事案であることは間違いありません。



