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【佐藤優の眼光紙背】竹島、尖閣に関する外務省の稚拙な広報戦略

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佐藤優の眼光紙背:第154回
 10月23日、外務省が竹島と尖閣諸島がわが国固有の領土であることを広報する動画を外務省公式HPに公開したと発表した。これに対して、韓国政府、中国政府が反発している。23日、『毎日新聞』(電子版)の報道を引用しておく。
外務省:尖閣と竹島 領土説明動画 公式HPで公開

 外務省は23日、尖閣諸島(沖縄県)と竹島(島根県)が日本固有の領土であることを説明する動画を公式ホームページ(HP)で公開したと発表した。佐藤地(くに)報道官は同日の記者会見で「領土も含めたわが国を取り巻く情勢について、国際社会の正しい理解を得るためだ」と述べた。

 動画はいずれも約1分半で16日から公開。歴史的な経緯を踏まえて日本の領有権の正当性をアピールし、竹島の動画では「韓国が一方的に不法占拠した」と批判している。今後は英語、中国語、韓国語など10言語の動画を製作する予定だ。

 韓国外務省は23日、動画投稿について「時代錯誤的な挑発行為」だと非難し、即時削除を要求する報道官論評を発表。また、在韓日本大使館の倉井高志総括公使を呼んで抗議を伝えた。中国外務省はホームページで、定例会見後に記者の質問に答える形で「日本側がどのような手段で違法な宣伝をしても、釣魚島(尖閣諸島)が中国に属するという事実は変えることができない」と反論した。【福岡静哉、ソウル澤田克己】
 領土は国家の礎だ。日本国の領土であるが韓国によって不法占拠されている竹島、日本国の領土であり、かつ日本国が実効支配している尖閣諸島に関して、主権国家である日本の外務省がいかなる広報を行おうとも、外国政府からとやかく言われる筋合いはない。韓国の抗議、中国の反発に対して、日本政府は、このような原則的立場を取るべきだ。

 しかし、このような外務省の手法が、日本の国益に貢献するとは思えない。理由は3つある。

 第1は、ロシアに対して誤ったシグナルを送ることになるからだ。領土問題とは、わが国の領土が、外国によって不法占拠されている状態を指す。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島からなる北方領土はロシアによって、竹島は韓国によって不法占拠された状態にある。それにもかかわらず、北方領土がわが国の固有の領土であることについての動画を今回、同時に発表していない。筋論からしてこれはおかしい。ロシア外務省は、9月26日、公式HPに山本一太・沖縄北方担当相の北方領土問題に関する発言を激しく非難し、恫喝するコメントを掲載している。9月23日、ビザなし訪問で国後島、択捉島を訪問した後、北海道根室市で山本氏が「再び領土返還への思いを強くした」と述べたのに対して、ロシア外務省は、「仮に何らかの理由で日本の政治家がロシア領を訪問した後、「諸島のテーマ」についての公の発言を抑制することができないのならば、今後、かかる訪問に彼らの参加する権利を留保する」と恫喝した。このような状況で、外務省が北方領土問題についての広報を差し控えることが、「領土も含めたわが国を取り巻く情勢について、国際社会の正しい理解を得る」目的に資するとは思えない。

 第2は、尖閣問題について、このような手法で広報を行うことで、却って、領土問題が存在すると事実上日本政府が認めているという効果をもたらすからだ。確かに外務省の尖閣問題に関する動画には、領土問題や領土係争という言葉は用いられていない。しかし、客観的に問題が存在するので、日本政府として応戦せざるを得なくなっていると国際社会は認識する。さらにこの動画で、1895年の閣議決定で尖閣諸島を日本に編入したことを強調しているが、これはよくない。なぜなら、この閣議決定は秘密決定で、官報に公示されておらず、また、日本政府がこの閣議決定を公表したのが1952年だからだ。中国側が、「尖閣編入に関する日本政府の閣議決定はいつ公知の事実になったのか」と反論した場合、決定から57年間も事実を秘匿していた日本が不利になる。本件に関しては、「1970年代初めまで中国が尖閣諸島の領有権を主張したことはなかった」という事実を淡々と説明し、日本が不利になる論点を焦点化すべきでない。

 第3は、広報技法の問題だ。政治問題に関する広報を外務省の用語では、「政策広報」という。これは国際基準での宣伝(プロパガンダ)にあたる。プロパガンダに関しては、国内向け、係争を抱える対象国、第三国に対する内容を変えるのは定石だ。特に係争を抱える対象国の国民心理を考慮して、結果として「日本政府の見解にも耳を傾けてみよう」と思うような心理状態にするプロパガンダを行わなくてはならない。筆者も外交官時代、ロシア語だけで書かれた、ロシア人向けのプロパガンダ資料を作成し、それなりの効果をあげたことがある。
 今回の竹島、尖閣に関する外務省の動画は、第三国向けの内容だ。これで韓国人、中国人の心をつかむことはできない。外務官僚もそのことは十分わかっている。竹島、尖閣に関する国際社会向けの広報に力を入れれば、首相官邸の覚えが目出度くなるという外務官僚の自己保身と追従がこのプロパガンダの動機だ。(2013年10月29日脱稿)

プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に、「超訳 小説日米戦争」など。

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