記事

iPS細胞等の最先端医療技術で世界をリードせよ! 100の行動41 厚生労働7

1/2
初稿執筆日:2013年10月25日
第二稿執筆日:2015年10月20日

 京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞でノーベル生理学・医学賞を受賞されたのは記憶に新しい。2006年に山中教授らによって初めて作製されたiPS細胞は、人間の皮膚などの体細胞に、極少数の遺伝子を導入し、数週間培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化する細胞 (induced pluripotent stem cell:iPS細胞)だ。iPSの名付けは山中教授によってなされ、最初のiを小文字にしたのは、当時大流行していたアップル社のiPodのように世界に普及して欲しいという願いも込められているという。

 iPS細胞研究は、緒についたばかりの初期段階にあるが、巨大な可能性を持っている。患者本人から作製したiPS細胞から分化誘導した組織や臓器の細胞を移植する細胞移植治療のような再生医療への応用が期待できるし、iPS細胞を利用して人体ではできないような薬剤の有効性や副作用を評価する検査や毒性のテストを行うことで、新薬の開発が大いに進む可能性もある。さらに、難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞を作り、それを神経、心筋、肝臓、膵臓といった患部の細胞に分化させ、その患部の細胞の状態や機能がどのように変化するかを研究することで、今までわからなかった病気の原因が解明できる可能性もある。

 iPS細胞はまさに日本発の医療技術であり、日本は本来、最先端の医療分野に強みを持った国であるはずだ。しかし、現状は、医薬品や医療機器は約2兆4000億円の輸入超過であり、また、再生医療製品の承認状況を見ても、アメリカが9品目、韓国が14品目であるのに対して、日本は2品目に過ぎない。政府は世界に先駆けて最先端医療技術を開発できる体制を構築し、本来の強みであるはずの優れた医療技術を世界に先駆けて開発・承認し、輸出できるようにすべきであろう。

 山中伸弥教授は、G1サミットの初回からの参加者で、ボードメンバーでもある。5回中4回も登壇された実績もあり、多いに活躍して欲しいと願っているし、政官民でその体制をバックアップしたいと思っている。

医療分野の研究開発の司令塔「日本版NIH」を創設せよ!【一歩前進】

 iPS細胞の話題が続くが、山中教授が2007年11月のヒトiPS細胞作製成功を発表して以来、政府は2008年度に45億円をiPS細胞研究に投じ、2009年度には145億円の予算配分をするなど、強力に研究を後押ししている。だが、文部科学省、経済産業省、厚生労働省と別個の施策で支援がなされており、政府としての司令塔が存在しないのが現状だ。

 そもそも、日本が医療分野で欧米に大きく後れを取っている原因の1つには、政府の医薬品開発の体制がある。欧米では先端医療の研究開発は、基本的に厚生省が担当している。米国のNIH(国立衛生研究所)やイギリスのMRC(分子生物学研究所)も厚生省管轄だ。このため、研究開発と医療技術の承認がスムーズにいくのだ。

 一方、日本では、文部科学省または経済産業省が研究開発の牽引役で、審査、承認を担当する厚生労働省は逆に基礎研究を実用化することに関してブレーキ役になってしまってきたわけだ。このため、基礎研究ではiPS細胞などの成功事例があるものの、医薬品や医療機器といった実用段階の医療技術のイノベーションでは世界的に遅れをとり、医薬品で2.4兆円もの輸入超過という現状に陥っているのだ。

 したがって、最先端の医療技術の実用化を加速するため、医療分野の基礎研究、そして審査、承認までを視野に入れて研究開発を促進する司令塔として日本版NIHを創設することが有効だ。

 ただし、ただ単に別組織を日本版NIHとして創設するのではなくて、現存する組織を統合し、その上部機構として「総合医療戦略会議」等の会議体を設置し、日本版NIHを位置付けるべきであろう。

 現在、医療に関する国立の研究所は医療基盤研究所、国立国際医療研究センター、国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立長寿医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立精神・神経医療研究センターなど、極めて多くの研究所が分立している。それらの独立法人には、それぞれの理事長がいて理事会が存在し、天下りの温床になっていると指摘されている。

 各機関が別々に意思決定するのではなくて、各組織を束ねてホールディング・カンパニーのようにNIHを位置付けて、独立法人を傘下に置き、理事会も1つに集約するのが、もっとも効率的で、ムダも排除できよう。

 そして、NIHの方向性を定める「総合医療戦略会議」あるいはNIHの理事会にて民間委員、大学関係者、政府等の知恵を結集して医療のイノベーションを促進する戦略を策定し、重点分野、予算配分などの優先順位付けを行って、医療研究開発戦略の全体統括をするのだ。

 この際に重要なのは、縦割りの排除だ。基礎研究の大きな予算を持つ文部科学省と、実用化の権限を持つ厚生労働省の縦割りを排除し、政治主導で省庁横断的に予算を戦略投入できる体制にしなければならない。司令塔で策定した医療研究開発の戦略に従って各省に計上されてきた医療関係の研究開発関連予算を一元管理し、戦略的な予算配分を行える体制とすべきだ。

日本版NIHに関しては、政府による設立準備が進められ、2015年4月、日本のライフサイエンス研究の司令塔として独立行政法人「日本医療研究開発機構」がスタートを切った。

 日本医療研究開発機構は、基礎から実用化までの一貫した研究開発の推進を目標に、これまで文部科学省、経済産業省、厚生労働省がそれぞれ独自にやっていた医療分野の研究開発、補助を一元化することが期待され、研究費の配分を開始する2017年度予算では約1400億円の研究費の分配権限を有することとなる。「日本医療研究開発機構」によって、各省の縦割りを排除し、ライフサイエンス研究への戦略的な予算配分が実現することを期待したい。

再生医療を促進し、かつ危険性を排除する法整備を進めよ!【一歩前進】

 再生医療に関しては、法整備も追いついていない。新たな医療技術を促進するとともに、その危険性を排除するには法整備によるルール作りが不可欠だ。

 具体的には、人の細胞を用いて組織を生成する再生医療製品は品質が不均一になるため、これまでの医薬品とは異なるが、そういった製品を規制する法令は未だ整備されていない。また、症例数が少なくても有効性が推定され、安全性が確認できるものを、条件と期限を付けて承認する「条件付き早期承認制度」も必要だ。さらに、再生医療を提供する際のルールや、細胞培養加工を医療機関から企業へ委託する場合のルールなどの制度も必要となる。

 この分野の法整備に関しては、2014年に再生医療製品を新たに定義して規制を新設する薬事法改正案と再生医療等安全性確保法が施行された。

 これによって、再生医療における細胞培養加工について、医療機関から企業への外部委託を可能にし、再生医療等製品の特性に応し?た早期承認制度を導入することで迅速性を担保するとともに、再生医療のリスクに応し?た届け出、許認可手続きを定め、再生医療医薬品に関する説明責任、安全対策などで安全性を確保する対策を講じている。

 今後とも、最先端の医療の研究開発を進め、その普及に必要な法律を遅滞なく整備することで、最先端の医療分野で世界をリードすることができるだろう。

再生医療研究のガイドライン策定を!【一歩前進】

 再生医療の研究開発を促進するためには、倫理面の問題を整理した上で研究に関するガイドラインの策定も必要だ。1996年に世界で初めて羊の体細胞からクローン羊を作製することにイギリスの科学者が成功した時から、クローン人間等に関する倫理的な問題が国内でも論議され、2001年には「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が制定されている。この時に、動物の体内で人の臓器を作ることも禁止された。しかし、iPS細胞の研究の進展によって、動物の臓器を動物の体内で再生することは既に成功しており、人の臓器の再生に関しても研究の道を拓くことが望まれる。

 政府の総合科学技術会議では、2013年8月にiPS細胞の有用性を踏まえて、この規制を条件付きで解禁するように提言がなされ、翌2014年には厚生労働省において、「ヒトES細胞の樹立に関する指針」策定、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」の改定など必要なガイドラインの策定が行われている。引き続き、倫理面や安全性に十分配慮しつつ、研究を認める範囲やルールに関して適切なガイドラインを用意することが望まれる。

あわせて読みたい

「iPS細胞」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    コロナが炙り出す質低い大人たち

    毒蝮三太夫

  2. 2

    ドラゴンボールが儲かり続ける訳

    fujipon

  3. 3

    元慰安婦団体なぜ内部分裂したか

    文春オンライン

  4. 4

    ブルーインパルス飛行批判に落胆

    かさこ

  5. 5

    報ステ視聴率危機? テレ朝に暗雲

    女性自身

  6. 6

    元自民議員 安倍政権長く続かず

    早川忠孝

  7. 7

    コロナ対策成功は事実 医師指摘

    中村ゆきつぐ

  8. 8

    上場企業レナウン倒産に業界激震

    大関暁夫

  9. 9

    コロナとN国で紅白歌合戦ピンチ

    渡邉裕二

  10. 10

    ひろゆき氏がテラハ問題に言及

    ABEMA TIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。