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芸人・松本ハウスが語る統合失調症からの社会復帰

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社会復帰を目指しアルバイトの日々

加賀谷:その時、体重が100キロぐらいあったんですけど、ウォーキングを始めて、ダイエットをしたり、社会になじまなきゃいけないと思って、喫茶店でアルバイトもしました。

須田:その間のキックさんとの接触はあったんですか?

松本:まず退院して、加賀谷から連絡があったんです。そのあとは、僕の方から、大体3ヶ月に1度、電話するぐらいですね。

加賀谷:僕の方からは、申し訳なくて電話なんか出来なかったです。

大谷:電話のインターバルみたいなものを決めていたんですか?

松本:それは何かに基づいて決めていたわけじゃなく、芸人に戻りたい意識があるってことはわかっていたので、僕があまり連絡し過ぎると、焦ると思ったんですね。だから、焦らないようにというので。3ヶ月に一度の会話も、本当になんでもない会話ですね。「どうしてるんや?」っていう5分ぐらいの会話ですけど。

加賀谷:元気じゃないのに、嬉しくて「元気ですー!!」って叫んじゃいましたね。

須田:でも、一旦休止して、距離が離れたのに、キックさんもそこまでよく面倒を見る態勢を撮りましたよね。

松本:特になにも考えてなかったですけどね。

須田:いずれは復活できると、その時は思っていましたか?

松本:それは考えなかったですね。“待っている”という姿勢も強くは出さないようにしていましたし。やっぱりいつかまた一緒にやれたらいいなというのは朧気ながらありましたけど、症状が最悪の状態を見ているので、仮に復活して症状が悪化したら、僕は責任が取れない。だから、とにかく症状が少しでもよくなるように。あとは、焦らないようにということは考えていましたね。

大谷:そして2009年、いよいよ芸人としてカムバックされるということですね。本の中でも、非常に感動する場面でした。

加賀谷:僕は新薬でかなり調子が良くなって、アルバイトもしつつ、キックさんと時々合ったりして、「またやりたい」って言わなきゃなあと、思っていたんですけど、なかなか言えない乙女心がありまして。

松本:乙女心ってなんだよ(笑)

加賀谷:ウエイターのアルバイトでは、手がカタカタ震えるんですよ。お客さんに「お待たせいたしました。」って言いながら、カップをソーサーに乗せてお盆から離す時に、カタカタカタカタって震えまして、ソーサーにこぼれたコーヒーが溜まっているんですよ。あと、レジが苦手で。割り勘でお支払いになるお客様がいるんですよ。出来ないので、「当店は一括のお支払いになっております。」って言って。

松本:勝手に決めちゃダメだろ!

須田:3人以上の注文が覚えきれないとか。

加賀谷:そうなんですよ。ウエイターって、注文を取りながら、紙に書いてるじゃないですか。あのカンニングペーパーがあれば、なんでも出来るって思っていたんですけど、そのお店は、メモをとるのが禁止なんですよ。覚えて厨房に言わなきゃいけない。2人まではなんとか対応できますけど、3人組手になると。

松本:組手って、戦うわけじゃない!まあ、お前にとっては戦いでもあるよな。

須田:しかし、そのお店もよく雇い続けましたよね。

加賀谷:潰れましたけどね。 一同:(笑)

松本:お前のせいじゃないのか?

加賀谷:いやいやいや、違います、違います!

松本:理解ある人だったんですね。

加賀谷:そうなんですよ。でも、さすがにリーマン・ショックが来ましたら、使えない店員はシフトに入れないんですよ。外食産業は影響がモロにきたんで。

松本:まさか、リーマン・ショックの波がお前に来てるとは思わなかったよ(笑)

一番の失敗は、昔の自分に戻ろうとしたこと。

大谷:お話を伺っていると、加賀谷さんの折れない心の強さと、意図的に支えようとされているわけではないけれども結果的に支えているというキックさんがうまくマッチして、復活に結びついたのかなと感じているんですけど、先生はいかがですか?

伊藤:さっきおっしゃったような、注文を覚えられないとか、レジの計算が難しいとかって、最近の業界用語では、認知機能の障害って言うんですよね。記憶力や集中力が落ちちゃうことがあるんですけど、リハビリをするとよくなるというのが、今はデータで証明されているんですよ。加賀谷さんの場合は、リハビリを喫茶店で一生懸命やったわけですけど、その根底には“芸人に戻りたい”っていうすごく強いモチベーションがあるから、失敗しても踏ん張れた。それが脳の機能をドンドンよくするのに、役に立っただろうなって思うんですよね。

須田:でも著書を拝見させていただくと、最大のリハビリは、キックさんのトークショーに、加賀谷潤という素人で参加するということですよね。

松本:そうですね。加賀谷がもう1回お笑いをやりたいんだと言ってきた時、すぐに「よし、やろう!」と言わなかったんですよね。それは、また病気が悪化した時、僕には責任が持てないので。じゃあ、何を見たいかというと、本人がどれだけやりたい気持ちがあるのか、どれだけ本気に思っているのか。たまたま僕のトークライブがすぐあったので、「芸人としてではなく、素人として1回参加してみるか?」といったら、「出ます」って。そこでライブに出たら、汗だくになりながら一生懸命やってて、お客さんもバンバン笑ってくれているんで、これだったらいけるかなと思って、復活を決めたんですよね。

加賀谷:僕、汗っかきなんですよね。

松本:おい!体質にダマされてただけやないかい! 一同:(笑)

加賀谷:引きが強いんですよ(笑)

松本:でも、伊藤先生がおっしゃったように、復活したからといって、すべてうまくいくってことはなかったんですよ。やっぱり記憶力は落ちていますし、感情表現も平坦。それに、話をまとめることができないといった症状があって、なかなかネタがうまくいかなかったんです。

そういう時に、加賀谷がやりやすいように、これまでのネタの作り方を全部変えて、台本をなくしたこともありました。でも、どれをやってもなかなか思うように進まず、ためしては失敗してを・・・繰り返したんです。ただ、そうやって失敗から学んだり、経験を積んだことで、ネタがどんどんよくなっているんですよ。加賀谷の飲んでいる薬の量と種類は全く変わっていないのに。

加賀谷:言葉でいうと、クリアになっているんです。

松本:記憶力も復活当初は1冊の台本がね。

加賀谷:2~3ページの台本を、1ヶ月真剣にやって覚えられないんですよ。でもそれが、3日経てば覚えられるようになって、今は簡単な原稿なら2時間ぐらいで覚えられるようになりました。

松本:あと、感情の起伏もでてきましたね。

加賀谷:最初は「感情の起伏がない」と言われて、「なるほど」と思っていても、できないんです。

松本:あと、一番の失敗は、昔のハウス加賀谷に戻ろうとしたことなんですね。

加賀谷:そうなんですよ。休んでいる間に、お笑いだけが支えだったので、昔、バリバリやっていた頃のハウス加賀谷像が、なんでも出来る天才みたいになっていたんです。でも、実際戻ってやってみたら「あれ?」ってことになってしまいまして。

松本:だから、一度引っかかると「昔はできたのに!」ってことで、ガコーンと落ちちゃうんですね。

伊藤:それは本当に起きることだと思うんですよね。それでもめげなかった加賀谷さんもすごいと思いますけど、その時に相方でやっていると「なんでこうなるわけ?」とか、感情的になっちゃって、相手のガッカリに巻き込まれてしまうこともかなり多いと思います。

でも、キックさんの場合は、そういう時に「台本なしでやってみようか」とか「ここを工夫してみようか」みたいに、やりやすいやり方を作っていかれたわけじゃない?それで、加賀谷さんもやる気がまた出てくる。その絶妙な組み合わせが非常に素晴らしいなと思いますね。

須田:キックさんの対応は、正しいものだったんですか?

伊藤:正しいというか、僕からみれば素晴らしいなと思いますね。

須田:素晴らしいというのは、正しい以上ですよね。そういうノウハウは、いつの間に身につけたんですか?

松本:それはちょっと教えられないんですけど(笑)

大谷:コメントでも「キックさん詳しい」とか「勉強してたのか?」って出ていますけど。

松本:僕も昔から色々なことを考えてしまう人間で、頭の中がグチャグチャになったこともあります。でもやっぱり加賀谷と昔やっていた漫才がすごく楽しかったんですよね。加賀谷が真剣に「お笑いをやりたい!キックさんとやりたい」と言ってきたので、だったらと。加賀谷がよく復活した当初「僕、キックさんと心中しますんで!」って言ってたんですよ。「おいおい、俺まで殺さないでくれよ!」と言い返したんですけど(笑)

やっぱり、そこまで「お笑いをやりたい!」と言われると、それを無下には出来ない。だから、本当に失敗を繰り返しつつ、自分らで出来るおもしろい物を作っていけばいいんじゃないかと思って、加賀谷に「今の加賀谷は、今の加賀谷でいいんだよ」と。でも、その言葉って、頭では理解できても、心や体になかなか染み込まないんですよね。だから、時間がかかってしまったんですよ。

大谷:そこで、少しずつ症状が改善されて、ゴールとしては、元通り、社会に戻って、働けるようになるとか、昔と同じような生活を営めるようになるというのが着地点なのかなと思うんですけど。

松本:その、“昔と同じ”っていうのがね・・

伊藤:やっぱり7割~8割ぐらいのところで、集中力とか、疲れやすさが残っちゃったりすることは、どうしてもあるんですよ。でも、この7割~8割の自分でもいいじゃないかって。

加賀谷:そうですけど、そう思えるようになるまで、ちょっと時間がかかりましたね。

伊藤:そうだよね。でも、キックさんが「それでいい」って言ってくれたのは、結構大きかったんじゃないですか?

加賀谷:元々コンビとして、キックさんは年齢が5つ上で、僕は一人っ子なんですよ。

松本:どういう関係があんねん! 一同:(笑)

加賀谷:なんか昔からいい関係なんですよ。キックさんはこういうことをいうと照れるんですけど、いい感じなんです。

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