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芸人・松本ハウスが語る統合失調症からの社会復帰

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スナイパーの幻覚に恐怖する日々

大谷:そして、芸能活動休止を決断されたというのは?

加賀谷:妄想が膨らんで、幻覚に苦しめられたんです。当時、4階の角部屋に住んでいたんですけど、キックさんが覗きにくるんですよ。その部屋は、上が窓ガラスで、下がすりガラスだったので、すりガラスの下にさっと隠れて、カーテンをサッとしめて・・・って感じでした。

松本:向かいのマンションのフェンスから、僕が加賀谷の部屋を覗いているらしいんですよ。でも、実際は、僕はそこには行ってないんですよ。具合が悪い姿を見せまいとしていたんですよ。だから、最初は僕も全然気が付かなかったですね。

加賀谷:自分の中では仕事がとにかく大事なんですよ。お笑いがとにかく大事。舞台は最高、人生は最悪みたいな言葉ってありますけど、それでもいいじゃないかと思って、お笑いの仕事にしがみついていたんですよ。そうしたら、妄想がもっともっと膨らんで、スナイパーが現れたんです。今度はキックさんの代わりに、向かいのビルのフェンスから、ゴルゴ13と渡哲也さんを足して2で割ったようなスナイパーが狙っているんですよ。

須田:あんまりイメージ出来ない(笑)

松本:コントだろ、それ!

加賀谷:コントじゃないです!サングラスはRayBanです。 一同:(笑)

加賀谷:でも本当に銃口向けられたら恐いんですよ。

松本:わかんないよ、そんなの(笑)。

加賀谷:もうそういうことがずっと続くので、僕は部屋の明かりを消して、一番奥の部屋にこもって、歯をガチガチ鳴らしながら隠れていました。

松本:そんな状態でも、仕事を続けて、カメラが回ったら「か・が・や・でーす!」って全力でギャグをやっているんで、全然気がつかなかったです。周りの人間も誰一人気づいていなかったと思いますね。

大谷:決断された時は、どういう形で?

加賀谷:時間の概念がなくなっていまして、自分でもこれはマズイと思ったんです。そこで、お母さんに「ちょっと調子が悪いんだ」って電話をしました。そうしたら母さんが、今、手を差し伸ばさなかったらどうなっていたかわからないという感じで、2ヶ月ぐらい一緒に住んでくれたんです。それで、うちにきた初日に「入院したほうがいいわよ」って言うんですけど、僕にとっては、お笑い芸人・ハウス加賀谷ではない、ただの加賀谷潤は腑抜けでしかないとわかっているんですよ。お笑い芸人であるからこそ、今僕は生きていける。そのお笑い芸人を手放して入院するというのは、考えられなかったです。

松本:でもやっぱり、今も当時もそうですけど、テレビに出ている人間が精神疾患となると、仕事がなくなってしまうという思いはあったと思うので。

加賀谷:僕なんて、仕事に行くときは、衣装と靴をカバンに入れていけばいいだけなんですけど、ある時、忘れ物をしたような気がしたんです。それで、部屋を振り返って、忘れ物ないかなと確認して、よし行こうと思った時、ふと時計を見ると、1時間半経ってるんですよ。それをお母さんに指摘されて、びっくりして。

須田:私生活ではこういう状況に置かれていて、仕事だけはきちんと出来るというケースは、結構あるんですか?

伊藤:短期間の集中力は維持できるので、頑張る時にはとっても頑張る。だけど、家に帰ると、ガタガタに崩れてしまうという方はいらっしゃいます。ただ、加賀谷さんの場合は、自分はお笑いをやりたいという意欲とのマッチングがものすごくよかったので、そこの頑張りは普通の人以上だったと思うんですよね。

あまりおもしろくないなという仕事だと、どこかで集中力が途切れちゃったりするから、外でも恐怖心がすぐに出てきて、なかなか続かない人が実は多いんですけど、加賀谷さんの場合はそこがすごかったなと。天職のような仕事に巡りあえた強みがものすごくあったんだろうなと。

大谷:その一方で、天職を失うこと、リタイアしてしまうことへの恐さがあるんではないでしょうか。

伊藤:そうですよね。頑張れているところから撤退する時はものすごく辛いので、病気のために休むというのは、そう簡単なことではないですよね。

加賀谷:僕の場合は、完全に入院が遅れました。

松本:(今の仕事を)手放したくないと思って、頑張り過ぎた面もあるんじゃないかなと思います。

「早く治せよ」という言葉の重み

大谷:キックさんも、コンビとしての活動はそこで止まってしまうということになったわけですけども、どのように受け止めたんですか?

松本:自分の心配は特にしなかったですね。本の冒頭にも書いたんですけれども、「入院することになります。」っていう、事後報告なんですよね。本人が1人で来られないので、話し合いにお母さんと一緒にくるんですよ。その時も、僕の言葉が聞こえているのかどうかがわからない。何か言っても、ボソボソと言うか、全く返事もないという状態。

例えば、相方が病気になった時って「はよ、戻ってこいよ」「はよ、治せよ」って言うじゃないか。友達同士でもそうですよね。でも、そういう状態の加賀谷を見て、“早く”という言葉は使えなかったですね。

とにかく、ちょっとでも良くなってほしいって思って。それで、いつかまた笑って会えればいいから、とにかく治療して欲しいと思いました。だから僕が言ったのは、「もしお前がお笑いやりたかったんだったら、1年かかっても、2年かかっても、5年でも、10年でもいいよと。そうしたらまた2人でやればいいじゃないか」って。そうしたら、本当に10年後に言ってきたんですよ(笑)

須田:でも、本の中で、あそこが一番印象に残っているシーンですよね。

加賀谷&松本:ホントですか!?

加賀谷:でも僕、その時の話を全く覚えてないんですよ(笑) 一同:(笑)

松本:本当にそれぐらい感情がなかったということですよね。

須田:その「10年でもいい」っていうのは、励まそうと思ったんですか?

松本:いや、励ますという気持ちはないですね。とにかくちょっとでもよくなって欲しいっていう気持ちだけでしたね。

須田:でも本当に10年待つとは思わなかったんじゃないですか?

松本:思ってなかったですね(笑)11年目に言ってきたら、どうなっていたかわからなかったですね。俺のリミットは10年やから(笑)

加賀谷:その辺は僕、ラッキーボーイなんで(笑)

新薬で体調が劇的に変化

大谷:そして、入院生活に入られたわけですけど、どういう治療を受けられたんですか?

加賀谷:入院自体は7ヶ月だったんですけど、退院してからは、主力にしていたお薬の副作用がしんどいといいますか。それでずっと、引きこもりのような状態でしたね。おねしょが2年間ぐらい止まらなかったということもありましたし。人と話していても、薄い膜がサーッと貼ったような。例えば、話をしていても、プールの中にザバーンと沈んでいるような状態で、クリアには聞こえなかったです。

須田:そうすると、人生最悪の状況だったという感じですか?

加賀谷:その時は、症状が一番ひどかったので、最悪だと感じていました。でも、僕は入院してからも、大きくなったり、小さくなったり、消えそうになったことがあっても、“絶対にお笑い芸人に戻ってみせるんだ”という気持ちをずっと持っていたんですね。それで5~6年しんどい時期が続きまして。そのあとに新薬です。あと、地域の保健所って、精神疾患の方をみんな集めて、デイケアみたいなことをしているんです。そこで情報交換をしている中で、今度エビリファイという薬が出ることを知ったので、主治医の先生に新薬について話して「今の僕のお薬と代替することはどうでしょうか?」って言ってみたら「あぁ、いいよ!」という感じで。

それで4ヶ月ぐらいかけて段々移行していったんですけど、最初の段階から違うんです。今までかかっていたようなモヤがふ~っと切れて、色々なものに興味を持ち始めました。父さんがいきなり家族会議を開くぐらいなんですよ。父さんは「今度は潤が躁になったんじゃないか」って言うぐらい、劇的に変わって。あと、お母さんも「潤には人間の心の機微みたいなものが無くなってしまったんだと思ったら、戻ってきたからすごく嬉しい」って言ってくれて。この言葉は、今でもしっかりと覚えています。自分ではそういう自覚が無かったので「そうだったんだ!」という感じでしたね。

須田:また、本を読むと、すごくいい先生に巡りあったって出てきますけど。

加賀谷:そうなんです。実は入院してすぐの頃は、「お薬、お薬」の先生だったんです。正直その時は、しんどいなと思っていたんですけど、そのあと、O先生という方に代わりまして、そこから丸10年以上見てくれたんです。

大谷:先生によって治療方針も違うでしょうし、その時にどういう薬があるかとか、周りの環境とかで、症状の改善がかなり変わってくるということでしょうか?

伊藤:本当は、タイミングとか偶然では困るんですけれども、新しい情報をなるべく早く仕入れて、副作用の少ない薬を扱うとかね。あとそれに加えて、先生と長いお付き合いをするのも大事だなと今聞いていて思いました。医者との関係が安心できるものじゃなかったりすると・・・

加賀谷:恐いですよね。

伊藤:恐いよね。だから、そういう関係性ってとても大事で、その上で新しい情報が入って、なるべく体に合った薬物治療と、チャレンジすることをOKとしてくれる医療者がいてくれると、随分変わるかなって。

須田:でも、自慢するだけあって、引きが強いよね(笑)

加賀谷:そうなんですよ(笑)ラッキーボーイですね(笑)

一同:(笑)

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