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産経新聞【正論】休眠預金の早期活用に道を拓け

昨年2月、当欄で2度にわたり休眠口座の活用を訴え、多くの方から賛同をいただいた。中には「人確認ができない」と払い戻しを拒否された仮名の通帳を送ってきた人もいた。社会的関心も高く、民主党政権時代の成長ファイナンス推進会議も2014年度からの活用開始を打ち出し、国会も関連法の整備に向け超党派の議員連盟を結成する動きを見せた。

 ≪3年で1500億円が銀行に≫

 しかし、その後2度にわたる国政選挙と政権交代が続いたこともあって、いまだに議員連盟の立ち上げは実現せず、この間の経過も国民に極めて見えにくい状況にある。英国や韓国などでは既に休眠預金が公的に活用されており、日本に実現困難な特殊事情があるわけではない。政府、国会には、与野党の議員が広く結集して透明性のある議論を進め、休眠預金の活用に早期に道を拓(ひら)くよう求める。

 昨年3月に田中康夫衆院議員(当時)が提出した質問主意書に対する野田佳彦首相(同)名の答弁書や、後の政府調査によると、銀行や信用金庫、信用組合、労働金庫など金融機関に設けられている口座は国民1人当たり10口座に当たる12億。10年間、取引実績がないまま休眠扱いとなる口座は毎年1300万前後に上る。

 預金額は09年度846億円、10年度883億円、11年度882億円。9割が1万円未満の小口預金で約4割が預金者に払い戻され、残りは金融機関の利益として処理された。公共に活用されるべき預金者の金が毎年約500億円、この3年間だけで1500億円も金融機関の利益となった計算だ。

 ≪議員立法で関連法の整備を≫

 公的に活用するには、休眠口座の預金を移して管理する受け皿の整備や運用方法、払い戻し請求に対する経過利息の扱い、さらに移管後の払い戻し請求に、もともと口座があった金融機関と新たな管理機関のどちらが対応するのか、など検討課題は多い。

 そのためにも関連法の整備が急務で、多数の国民の休眠預金を活用するプロジェクトの性格からも法案は超党派の議員立法こそ望ましく、早期の議員連盟設立を求める声も多い。民主党時代も含め何度か議連立ち上げの動きが出たが、現在に至るまで実現せず、その分、計画全体が遅れる結果になっている。

 わが国の銀行口座が国民1人当たり10口と英国の2・5口座、韓国の3・1口座に比べ異常に多いのは、02年まで仮名口座の開設が認められ、金融業界が預金口座獲得競争に奔走したのが一番の原因だ。勧められて口座を開設したお年寄りも多く、仮名のため本人確認ができず払い戻し請求自体が不可能な現状は、預金者から見れば納得し難い話である。

 先の答弁書は「政府として(仮名口座を)認めた事実はない」「民間の経済活動の結果であり、政府としてお答えすることは差し控えたい」としているが、マネーロンダリングを規制する政府間機関・金融活動作業部会(FATF)が「金融機関は匿名口座及び明らかに偽名による口座を認めるべきではない」としている点からも、金融業界の責任は重い。銀行協会はこうした事態を招いた自らの責任を国民に釈明すべきだ。

 ≪預金の活用も大きな「矢」≫

 休眠口座預金を利益計上する慣行は1980年代から始まっており、過去分だけで恐らく数千億円を超す。銀行協会は「国民的な理解を得て立法措置が取られるなら、新しく発生する休眠預金に関し協力する」としているが、過去分の総額を明らかにした上で公益活用に付すのが公共性の高い金融機関の取るべき姿である。郵便貯金関係も07年10月の郵政民営化以前の定額貯金や定期貯金に対し、民営化後も20年間放置すると預金者の権利が消滅し国庫に入る旧ルールが適用されているのは違和感がある。10年度だけで234億円に上っており、民の知恵で広く活用するのが本来の姿と考える。

 使途に関してもいつどこで、どんな議論がされているのか見えてこない。資金に窮する被災地の企業やベンチャー企業、NPO(民間非営利団体)の支援などが検討されていると思うが、休眠預金の性格からも“密室の議論”を極力排し、民を交えた幅広い議論で国民の理解を得るのが筋である。

 英国では財務相による構想提唱から休眠預金を社会福祉事業に利用する請求基金の設立までに8年かかり、韓国では事業提案から3年後に休眠預金管理財団が設立された。日本でも休眠口座基金の設立が提案されてから既に4年たっており、英国、韓国のほか米国やカナダ、フランスなど豊富な先行例もある。

 制度が整えば、公的に活用できる休眠預金は今後も毎年500億円前後に上ると見られ、5年、10年の単位で見れば将来分だけでも莫大(ばくだい)な財源となる。安倍晋三内閣は「停滞の20年」の克服に向け三本の矢を中心に大胆な金融政策を推進しているが、休眠預金の活用も大きな矢のひとつである。政府、国会が一日も早く本腰を上げるよう求めてやまない。
(ささかわ ようへい)

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今年の1月31日、日本財団では「休眠口座が日本の未来を創る」と題したシンポジウムを開催
ノーベル平和賞受賞者でマイクロクレジットの創始者・ムハマド・ユヌス博士が講演

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会場には満員の300人が参加

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