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誰がためにオリンピックはある

 2020年に東京で約半世紀ぶりにオリンピックが開催される。安倍首相が東電福島第一原発事故の汚染水について「アンダーコントロール」と大見得を切って東京招致を成功させた政府は、早速「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室」を設置し、国を挙げてこれを盛り上げていく姿勢を見せている。

 オリンピックといえばまず、メダルが期待される競技や日の丸を背負って活躍する選手がもたらす感動への期待が膨らむところだが、わが国での開催となると、競技以外の面でも少し考えなければならないことがありそうだ。

 東京オリンピック招致委員会は東京大会の開催に約3,412億円の予算を見込んでいる。このうち約4分の1にあたる790億円をテレビ放映権料から、協賛企業からのスポンサーフィーで約1,155億円と、総予算の約6割が企業からの出資となる。

 著書『オリンピックと商業主義』の著者でオリンピックの実態に詳しいスポーツライターの小川勝氏は、オリンピックが回を重ねるごとに企業スポンサーへの依存度を高め、もはやオリンピックがスポンサー収入や放映権料抜きには運営できなくなっている実態を指摘する。

 実際、公式スポンサーが導入された76年のモントリオール大会以降、オリンピックの規模は膨らみ続け、その間大会の予算もモントリオール大会の約4,161億円からロンドン大会の約1兆1,350億円と3倍近くに増え、参加国と参加人数も92国・地域―6,043人から204国・地域―約1万500人へとほぼ倍増している。

 19世紀末にクーベルタン男爵がオリンピックを提唱して以来、ナチスドイツによる国威発揚の道具となったベルリン大会や、冷戦の陰で東西のボイコット合戦に発展したモスクワ、ロサンゼルス大会など様々な変遷を経て、今日オリンピックは世界最大のイベントであると同時に、世界的大企業にとって世界最強のマーケティングツールとしての不動の地位を築いたかに見える。そして、それだけ世界が注目する大舞台となったからこそ、そこで繰り広げられるドラマが多くの人に感動を与えるのも事実だろう。

 もちろん商業マネーの力があったからこそ、自力では地球の裏側まで選手を派遣する経済力の無い国の選手たちがオリンピックに参加できるようになった。その資金がアスリートや競技団体を潤して競技のレベル向上やスポーツの振興に役立ってきたことも事実だ。IOCが各国のオリンピック委員会や国際競技連盟に支払う分配金を通じて、世界のスポーツの発展に大きく寄与してきたことはまちがいない。

 しかし、その一方で、大きく膨らんだ商業マネーはしばしば競技の現場やアスリートに過重な負担を強いる。オリンピックの開催時期がアメリカやヨーロッパのメジャースポーツのシーズンを避けるために北半球での猛暑の時期に追いやられたり、大国のテレビ中継に都合のいい時間に合わせるために競技のスケジュールが選手にとっては過酷な時間帯に設定されるなど、商業マネーの負の側面はこれまでにも多く指摘されてきた。しかも、近年、さらに大会規模が膨らんだ結果、企業スポンサーへの依存度はますます増している。そして、企業への依存度が増せば増すほど、大会の運営もアスリート自身も、より大きく企業側の都合や意向に振り回されることは避けられない。 

 華やかな五輪報道の陰でそうした舞台裏の事情はあまり報じられることがない。そのため、ともすればわれわれはもっぱらアスリートの活躍ぶりに熱狂し感動することに終始してしまいがちだが、アスリートたちにとっては、金額が大きくなればなるほど重圧は増してくる。期待されながらメダルを逃したトップアスリートたちは、一様に「すみません」とうなだれるが、彼らはいったい誰に対して何を謝っているのだろうか。誰のためのオリンピックなのかを問い直す必要もあるのではないか。

 1964年、初のアジアでの開催となった東京オリンピックは、先の大戦からの日本の復興と経済成長を象徴づける大会となった。2020年の東京大会では、われわれは世界にどのような価値を発信しようとしているのか。いたずらに商業主義に流されるだけでなく、何か意味のある「祭典」にするために、今われわれに何が必要なのかを、ゲストの小川氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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